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過去から繋がり、未来へ渡す。ミュンスター彫刻プロジェクト2017

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2017年10月30日


過去から繋がり、未来へ渡す。ミュンスター彫刻プロジェクト2017


過去から繋がり、未来へ渡す。ミュンスター彫刻プロジェクト2017

 

 

このサイトをご覧になっている皆さんは、海外の美術館や芸術祭に行ったことがある方が多いと思います。濃い緑、おいしい空気、澄んだ青空…。いつもと違う風景の中で鑑賞するアートはいつもより新鮮で、強く記憶に残るような気がしますよね。

2017年はヨーロッパの芸術祭の当たり年で、ドイツでは10年に一度のミュンスター彫刻プロジェクト2017と、5年に一度のドクメンタ14が開催されました。今回は、街並みと自然を探索しながらアートを味わうことができる、ミュンスター彫刻プロジェクト2017をレポートします。

 

 

ミュンスター彫刻プロジェクトって何?

 

ミュンスター彫刻プロジェクトは、ドイツ西北部、デュッセルドルフに近い大学都市・ミュンスターで、10年に1度開催される芸術祭です。開催の期間はドクメンタに合わせており、夏から秋の約3か月間。初回は1977年で、以降1987年・1997年・2007年、そして今年の2017年に行われました。

この祭典の発端は、市がジョージ・リッキーのキネティック・アートの受け入れを拒否し、作品の買い入れを巡って議論が紛糾した出来事と、ミュンスター大学の学長がヘンリー・ムーアの作品の設置を拒否した事件にあるとされています。

もともとミュンスターの街は第二次世界大戦で大きく破壊され、市が住民と共に時間をかけて復興したそうです。それだけに街に対する住民の意識や関心も高く、公共の場に現代アートを置くことに対して賛否両論が挙がり、「公共スペースにおける彫刻とはいったい何か」という活発な議論がなされました。不測の軋轢を避けるため、また一般の市民に現代アートに触れてもらう機会をつくるため、市が公共空間で彫刻作品を展開する「彫刻プロジェクト」を開始したそうです。

 

 

この祭典の特徴

 

ミュンスター彫刻プロジェクトに出展するアーティストは、開始の何か月も前からミュンスターへ赴いてリサーチを行い、住民との話し合いの中で場所や内容を決めていきます。期間が終わると基本的に作品は撤去されますが、場合によっては市に買い取られて恒久展示となります。

作家は住民や観客と対話して直接的な批評をなされ、住民は自分たちの生活する地域によりコミットするきっかけになるので、このイベントは一過性のものではなく、作家や住民や観客を結び付け、アートに巻き込む強い力を持つといえるでしょう。

作品は屋外にあるものが多く、世界中から著名なアーティストが集まっているにも関わらず無料で鑑賞できます。一つの場所に集まっているわけではなく市内に点在しており、かなり離れた場所にあるものも。また、分かりやすい場所にあるわけではなく、案内も小さいので、数日間滞在し、自転車に乗ってスタンプラリーのように移動を楽しみながら回るのがお勧めです。

 

 

今年の見どころ

 

2017年のアーティスティックディレクターは、本展に初回から関わっているカスパー・ケーニヒで、世界中のアーティスト35名が参加しました。今回は三分の一がパフォーマンスの作品ですが、作品が場と強く結びついているのは昔から変わらない点です。

日本からは荒川医と田中功起が参加、荒川医は緑豊かな自然の中で歌うLEDの作品を、田中功起は中心に近い場所で映像作品を出品しています。

十年に一度というスパンで実施されるため、長期的な学術調査のようになった作品、また時代を反映したコンピュータやヴァーチャルなコミュニケーションを駆使した作品が多いのも今回展示の見どころです。以下、気になった作品をご紹介します。

 

リアルとフィクションの迷路

グレゴール・シュナイダー《N. Schmidt Pferdegasse 19 48143 Munster Deutschland》

 

 

今回見た中で、一番長い列ができていたのはグレゴール・シュナイダーの作品。インフォメーションセンターのすぐ近く、LWLミュージアムの脇にある展示空間に入れるのは一人だけで、なかなか列が進みません。しかしいったん中に入ると、この作品は個人の記憶や空間の曖昧さが重要なので、孤独な状態で味わうしか方法がないのだと納得します。

 

 

詳細を書くと仕組みが分かってしまうので、細かい描写は省きますが、リアルとフィクションが曖昧になり、異界へ迷い込んでしまう感覚は、ホワイトキューブの無機質でフィクショナルな空間と、ドイツのどこか冷たく重たい空気にぴったりとマッチ。仮にほぼ同じ条件を揃えて他国で開催しても、今回のような強烈さは醸し出せないのかもしれないと思います。

 

無限に続くチープなファンタジー

ミカ・ロッテンバーグ《Cosmic Generator》

 

 

ミカ・ロッテンバーグの作品は、アジアの食材店のような店の一角の映画館のようなスペースで上映されています。内容は、カラフルな製品があふれかえるアジアのお店と、そこで疲弊しているように見える女性店員たちとトンネルが出現し、それがレストランに通じていてお皿にタコスに挟まれたおじさんたちの映像が。そうかと思えばうらぶれた中華料理店の映像が続き、キラキラしたガラスが写し出され…。

 

 

キッチュな映像が一定のテンションで繰り返し流れる映像は不思議な中毒性があり、無限に続く白昼夢を見ているようなのですが、妙な現実感があるために、見る人の脳裏に忘れられない残像を焼き付けます。

 

緑の中で歌う光の板

荒川医《Harsh Citation, Harsh Pastoral, Harsh Munster》

 

 

緑豊かなサイクリングロードを走り、自分が来たのが果たして正しい道だったのか不安になってきたころに現れるのが荒川医の作品。牧歌的な風景の中で、LEDの壁に映し出された現代アートの絵画が光と音を発しており、まるで電光掲示板と会話するような体験ができます。

 

 

周囲の風景が平和なだけに、見物人がいないとどことなく物悲しく、文明社会から人が消えた後の廃墟のような印象も受ける一方で、デジタル化された絵画が氾濫している現在、顔の見える観客の存在と不在を示しうるようにも感じました。

 

対話から生まれる共生を実感

田中功起《Provisional Studies: Workshop #7 How to Live Together and Sharing the Unknown》

 

 

グレゴール・シュナイダーの作品のほぼ向かいにある田中功起の作品は、ミュンスター在住の8名の参加者が、10日間を共に過ごす様子の映像。世代も文化的背景も異なる人々が共に宿泊や料理やスポーツなどを行い、時に疲労や不快感を交えながら、「How to Live Together?」をテーマに、難民問題について語り合います。

 

 

対話が共生の可能性を繋げるという意味では、このミュンスター彫刻プロジェクトが始まって以来続いているテーマを引き継いでいるといえるでしょう。

 

10年間の共同制作の成果

ジェレミー・デラー《Speak to the Earth and It Will Tell You (2007-2017)》

 

 

文化人類学的なアプローチをするアーティスト、ジェレミー・デラーは、市民庭園の利用者に対し、2007年から2017年の期間、植物や気候、社会や政治の日記をつけるように提案しました。約30巻にも及ぶ日記は書いた人の個性や生活が映し出され、とても個性的で彩り豊か。その内容は庭園の生態系の記録に留まらず、街の歴史の一部としての役割を果たします。

 

 

この作品は、庭園が単に野菜や果物を提供するだけではなく、人々が集まる交流の場としての機能を果たしていることと、アーティストと市民が共に作品を創り上げるというこのプロジェクトならではの成果を示していました。

 

今、過去と未来の課題を考える

ヒト・スタヤル《HellYeahWeFuckDie》

 

 

銀行のビル内に設置された3つのモニターで繰り広げられる映像の主人公はロボット。この場所はもともと動物園の敷地だったそうで、災害などで人を救うためにつくられたロボットのバランステストの映像は、人間が生き物の次はロボットを意のままにしようと試みているのだと実感させられます。

 

 

他の映像は、かつてアラブ諸国でオートマタを開発しようとした人物の映像と、iPhoneに入っているSIRIへの問いかけを組み合わせています。人がロボットをつくり、所有していられる期間は短く、今とは全く違った形の関係性が構築されるのかもしれないと思いました。

ビルボードのチャートに頻繁に登場する言葉からつくられたというタイトル「HellYeahWeFuckDie」は、少しレトロでスタイリッシュなフォントで立体化されており、

空間全体が作品であるかのような強いまとまりを持っていました。

 

アートとテクノロジーの高次元融合

アラム・バートル《12V,5V,3V》

もともとハッカーだったというバートルは、テクノロジーを駆使し、新しい可能性を探る作品を発表しています。今回は宮殿広場の地下道、劇場、通信塔と、街の要ともいえる三か所で作品を展開。三つの作品に共通するのは、熱や炎など、人間が原初から持っているエネルギーを利用し、現代の生活の役に立つ形に変換することです。

《3V》は地下道にあるシャンデリアの作品。10本のろうそくが立ち並ぶシャンデリアが5つ輝いており、炎がLEDに変換されています。ろうそくは数時間で燃え尽きてしまうので、定期的に変換しなければならないそうです。

 

 

発電機のついたスティックをキャンプファイヤーに投入し、携帯電話の充電に活用する《5V》は劇場付近に、熱発電の機能を持つコンロのエネルギーをルータの電源として提供する《12V》は通信塔のふもとにあります。《12V》は、その場所でのみ使えるWi-Fiに接続すると、ネットに接続できなくなった時のために役に立つ情報がダウンロードできます。

 

 

変化を続ける完結した生態系

ピエール・ユイグ《After ALife Ahead》

 

 

郊外にあるユイグの作品は、2016年に閉鎖されたアイススケートリンクを利用した空間にあります。足を踏み入れると、まるで別の惑星に降り立ったかのよう。外界とは違う時間が流れているのを感じました。

 

 

水たまりには小さな生き物がいて、窓からは光が差し、室内であるにも関わらず、自然の構成要素である土や水や空気を強く意識します。生態系は、培養器の中のヒーラ細胞株(ヒト由来の最初の細胞株)に繋がっているとのこと。この空間内の生き物や物質は、仮に人類が滅んだとしても、完全に消滅することはなく、共生しながら一定のサイクルで静かな変化を続けるのかもしれません。異世界に迷い込んだように動き回る人々の姿も作品の一部に見えました。

 

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ミュンスター彫刻プロジェクトは、日常の中の非日常や、作品が置かれた環境や状況、そこに住む人々や生物の関係性、10年という年月の成果など、個々のアートが提供してくれる大切なものを街の空気と共に体感することができる、とても彩り豊かな祭典です。

屋外や生活圏の中に置かれている作品も多いため、完全なコントロールが難しく、当日見られないこともありますし、作品によっては時間制限もあるので、HPやTwitterなどの情報を細かくチェックする必要があります。(例えば水質汚染で立ち入れなかったり、近隣の住民からの苦情で稼働時間が決められていたり、作品が盗難に遭っていたり、機械が動作しないなど)。恐らくこの祭典の醍醐味は、変化する作品や環境へ柔軟に対応し、思わぬアクシデントも含めて経験することなのだと思います。

さまざまな驚きを提供してくれた、ミュンスター彫刻プロジェクト。半世紀の節目を迎える次回の2027年には、どのような変化を遂げているのでしょうか。今からとても楽しみです。

 

 

文・写真 中野昭子

 

【情報】

ミュンスター彫刻プロジェクト 2017

日程:2017年6月10日(土)~10月1日(日) ※終了

会場:ミュンスター

https://www.skulptur-projekte.de/

 

 

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Writer

中野 昭子

中野 昭子 - Akiko Nakano -

美術・ITライター兼エンジニア。

アートの中でも特に現代アート、写真、建築が好き。

休日は古書店か図書館か美術館か映画館にいます。

面白そうなものをどんどん発信していく予定。

 

 






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