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時代が彼女に追いついた『岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟』

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2019年2月15日

時代が彼女に追いついた『岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟』


時代が彼女に追いついた『岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟

 

 

皆さんは、岡上淑子(おかのうえ としこ)というフォトコラージュ作家をご存知でしょうか?日本のシュルレアリスム運動の代表的存在の一人である瀧口修造に見出されるも、活動は1950年~1956年という僅かな期間です。2019年現在、91歳と存命ながら未だ多くの謎を持つ岡上の全貌を解き明かす大回顧展岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟が目黒にある東京都庭園美術館にて現在、開催中です。

本展は国内作品のみならず、ヒューストン美術館の作品が加わることにより厚味が増しているのはもちろん、関連資料の豊富さも見どころです。岡上が影響を受けたマックス・エルンストの書籍、瀧口との書簡のやり取り初公開となる作家自身による詩篇、コラージュから離れたあとに制作した日本画や、折りに触れて描いていたドローイング、さらには、岡上が作品に用いた雑誌と同年代に製作された華麗なドレスを併せて展示。岡上の洗練された美意識と幻想的なイマジネーションの世界に大きく踏みこんだ展覧会となっています。




左:
クリスチャン・ディオール

《イヴニング・ドレス》
c.1952
白の綿レースのドレス、黒の絹ベルベットのストール
京都服飾文化研究財団所蔵

右:
クリストバル・バレンシアガ
《イヴニング・ドレス》
1951
黒の絹ベルベットと白の絹チュール
京都服飾文化研究財団所蔵





奇蹟が奇蹟を呼ぶ  意図せずともシュルレアリスムの王道を辿った岡上淑子

《懺悔室の展望》©Okanoue Toshiko, ヒューストン美術館蔵
View from Penitentiary
©Okanoue Toshiko, The Musuem of Fine Arts, Houston




岡上淑子
コラージュ・パーツ
写真網目版印刷
作家蔵



岡上がコラージュを始めたきっかけは全くの偶然によるものでした。文化学院(※)に在学していたおり、美術の授業で「ちぎり絵」の課題が出たのです。そして、何気なく切り取った写真が女性の顔でした。これは偶然なのでしょうか? その後の彼女の作品作りを予感させる運命めいたものを感じずにはいられません。

作品を友人の若山浅香(彼女はのちに、現代音楽家・武満徹の夫人になります)に見せると、武満がそれを知ることとなり、岡上は武満と交流のあった瀧口修造に紹介されるのです。

岡上は自身をアーティストとは思っていませんでしたが、瀧口の勧めによりタケミヤ画廊で開催した初個展は短い会期ながらも大きな反響を呼び、そのときの書簡のやり取りが今回、展示されています。


※文化学院は西村伊作が構想し、与謝野晶子、石井柏亭らが発起人となった日本初の共学学校である。男女平等を目指した本校の歴代の教師陣は、川端康成、芥川龍之介、萩原朔太郎が名を連ねその中には岡上自身が好んだ三島由紀夫もいた。



瀧口から岡上宛の書簡
1974.12.27
慶應義塾大学アート・センター蔵



《沈黙の奇蹟》©Okanoue Toshiko, 東京都写真美術館蔵

The Miracle of Silence©Okanoue Toshiko, Tokyo Photographic Art Museum




アート作品を鑑賞していると「シュルレアリスム」という言葉を度々耳にすることがあるかと思います。そもそも、シュルレアリスムとは何でしょう?

シュルレアリスムとはフランスの思想家、詩人アンドレ・ブルトンが提唱した芸術運動を指します。近代の合理主義へのアンチテーゼともいえる表現を、芸術のみならず哲学までに求めました。瀧口修造は山中散生と共に、アンドレ・ブルトンやポール・エリュアールと積極的に交流を持ち、日本にシュルレアリスムを導入したのです。

ヨーロッパ発祥の、日本にも影響を及ぼしたシュルレアリスム活動を岡上自身は知らずにいましたが作品には、シュルレアリスムの特質が顕著に見られます。

 

 



戦後のたな時代への予感が自由な作品を生み出した

《予感》©Okanoue Toshiko, 高知県立美術館蔵

Premonition ©Okanoue Toshiko, The Musuem of Art, Kochi

 

 

コラージュに使用した1950年代のLIFEには、報道写真として戦争の残像が色濃く見られます。一方、戦争が終わり、朗らかな希望の象徴がVOGUE、Harper’s BAZAARを始めとしたハイファッションに見受けられます。





《水族館》©Okanoue Toshiko, 栃木県立美術館蔵
Aquarium ©Okanoue Toshiko, Tochigi Prefectural Musuem of Fine Arts

 

この鮮烈な対比、戦後の荒廃した憂いを帯びた景色と、時代の先端を行く華やかなモードファッションが見事に調和・融合しているのが岡上作品の特徴の一つです。

岡上作品に登場する女性達は首すらすげ替えられ、分断されています。閉塞感から一気に解放され、歌い踊り自由を謳歌しているかのようです。

 

 


絶妙なバランス感覚と圧倒的センスを持っていた岡上



《幻想》©Okanoue Toshiko, 個人蔵

Fantasy ©Okanoue Toshiko, Private

 

 


展覧会に行かれた際には、岡上による日本画やドローイングにも着目してみて下さい。彼女の天性の構図力と抜群の色彩感覚を感じられることでしょう。

全く異なるものを切り、貼る。コラージュは一見するとシンプルな作業のように感じますが、岡上の作品を間近で鑑賞すると、絶妙なバランスと圧倒的なセンスと技術の上で成り立っていることがわかります。

 

 

 

デジタル化した現代だからこそ見えてくる岡上の魅力


《マスク》©Okanoue Toshiko, 個人蔵
Mask ©Okanoue Toshiko, Private


 

 

近年、岡上淑子が再評価されていますが、デジタルデバイス上でカット&ペーストが当たり前になった今だからこそ、私たちの感覚がようやく岡上に追いついたとも捉えられるでしょう。

東京都庭園美術館の学芸員であり、熱烈な岡上淑子ファンである神保京子氏による講演会も見逃せません。桜の季節には夜間開館が実施されます。詳しくは公式ホームページをご参照下さい。岡上作品の詩的なタイトルと桜に想いを寄せるのも一興、ご自分のイマジネーションの世界に身を委ねてみてはいかがでしょうか。



参考資料:岡上淑子 『フォトコラージュ 沈黙の奇蹟 岡上淑子』青幻舎  

 

テキスト 鈴木佳恵
写真 新井まる、鈴木佳恵

 

 

【展覧会概要】
岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟

会期:開催中~2019年4月7日(日)
会場:東京都庭園美術館
住所:東京都港区白金台5-21-9
会館期間:10:00~18: 00(入館は開館の30分前まで)
     ※3月29日(金)、30日(土)、4月5日(金)、6日(土)は
     夜20:00まで開館(入館は19:30まで)
観覧料:一般 900(720)円

    大学生(専修・各種専門学校含む)720(570)円
    中・高校生・65歳以上:450(360)円 
    ※()は20名以上の団体料金

公式サイト:https://www.teien-art-museum.ne.jp






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《夜間訪問》©Okanoue Toshiko, 東京国立近代美術館蔵
Visit in Night ©Okanoue Toshiko, The National Musuem of Modern Art, Tokyo