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隠された暗号を探してみませんか?「アルチンボルド展」

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2017年7月4日


隠された暗号を探してみませんか?「アルチンボルド展」


隠された暗号を探してみませんか?「アルチンボルド展」

 

 

 

 

 

 この夏、国立西洋美術館で「アルチンボルド展」が開催されています。ジュゼッペ・アルチンボルドの名を知らなくても、野菜や果物を寄せ集めた人物像といえば、ピンとくる人が多いでしょう。アルチンボルドの絵は、並ぶ者のない発想力と面白さゆえに強烈なインパクトを残し、現代においても彼の影響を受けたであろう絵や映像をしばしば目にします。
 私がアルチンボルドを知ったのは、確か中学か高校の美術の本でした。ページいっぱいに掲載された絵は、見慣れているはずの花々や果実であるにも関わらず、少し目線をずらすと人の顔にメタモルフォーゼし、本を開くたびに不思議な感覚を味わった覚えがあります。本展も、新鮮な発見と驚異を与えてくれる内容でした。

 

 

先入観がひっくり返る体験

 

 

器に盛られたたくさんの野菜は、ひっくり返すとコミカルな男性の顔に。軽やかな変身が楽しめる作品≪庭師/野菜≫は、実は男性の生殖器が忍ばせてあります。鶏肉や豚肉が盛られた皿が描かれた≪コック/肉≫は、上下逆にするとコックの顔になり、かたわらに添えられた輪切りのレモンが帽子のアクセントになっています。

 

 


ジュゼッペ・アルチンボルド 《庭師/野菜》 油彩/板
クレモナ市立美術館蔵 Sistema Museale della Città di Cremona – Museo Civico “Ala Ponzone” / Museo Civico “Ala Ponzone” – Cremona, Italy

 

 


ジュゼッペ・アルチンボルド 《コック/肉》 油彩/板
ストックホルム国立美術館蔵 © Photo: Bodil Karlsson/Nationalmuseum

 

 

 遊び心満載の「上下絵」は、さかさまにすると全く別の意味になる絵画。仮に私が、アルチンボルドの参照した野菜や肉を見ても、寄せ集めて逆にすると顔になる絵を描くなど、到底思いつかないでしょう。
 一つの絵の中にいろいろな仕掛けが潜んでいるのは、「上下絵」だけではなく、アルチンボルドの作品全体に見受けられる特徴。画家は、野菜や果物が持つ「食べ物」「植物」といった意味づけをいったん解体した上で描いているのだと推測されます。鑑賞者は、隠された暗号を発見する喜びや、謎解きの興奮を感じるとともに、日常においていかに先入観や偏見などに囚われて物事を見ているのかに気づかされるのです。

 

 

博学的な面白さ

 

 

 アルチンボルドの絵を見た時、第一に奇抜なアイディアに感嘆しますが、じっくり見ていると、細部に至るまで発揮された確かなデッサン力が目につくでしょう。
 絵の中に登場する動植物や魚たちの中には、当時ヨーロッパになかったものも登場します。これは、アルチンボルドが仕えたハプスブルク家の神聖ローマ皇帝・マクシミリアン二世やルドルフ二世の治世、世界中から自然の被造物が集められたためです。各国の献上品や珍品は、近代以降の「ミュージアム(博物館/美術館)」の原型である「芸術と驚異の部屋(クンスト・ウント・ヴンダーカンマ―)」にコレクションされ、来客の驚嘆を呼ぶことになります。皇帝たちは珍しい生き物たちのスケッチを編纂(へんさん)させますが、それは世界を掌握する力を示す意味でもあったのです。

 

 

 

 

 アルチンボルドの絵に登場する動植物は、人物像のパーツに留まらず、一つ一つが生命力にあふれ、強い存在感を放っています。これはアルチンボルドがそれらを博学的な知識と好奇心を持って描写しており、肖像を描くための部品とするに留めなかったことを物語っています。

 

 

 

 

積み上げられた本や鍵が人の形をとっている≪司書≫など、動植物以外のものが人物像を構成している作品も、個々の事物すべてが生き生きとしており、アルチンボルドが隅々まで気を配って描いている様子が伺えます。

 

 

奇想天外ながらも高貴な肖像画

 

 

 本展の特徴の一つは、「四季」と「四大元素」のシリーズが一堂に会する点です。「四季」は花々が咲き乱れる≪春≫、夏の果実や野菜が実る≪夏≫、収穫物が盛りだくさんの≪秋≫、枯れた木々などで占められる≪冬≫でなり、「四大元素」は鳥たちが並ぶ≪大気≫、火打ち石やオイルランプなどで構成される≪火≫、動物たちが押し寄せる≪大地≫、水棲生物がひしめく≪水≫で構成されています。≪春≫は≪大気≫、≪夏≫は≪火≫、≪秋≫は≪大地≫、≪冬≫は≪水≫と対になっており、これらは神聖ローマ皇帝マクシミリアン二世に贈られています。

 

 

 

 

 

 

アルチンボルドの絵はユーモアの意味を含むものも多いですし、一見、異形の者やモンスターを表しているようにも受け取れます。皇帝へ献上する際も、侮辱であると勘違いされてしまえば身の破滅につながりかねません。そのためアルチンボルドは、当時の人文主義者たちに、これら八点の絵の賛辞を書くように仕向けました。そのかいもあってか、皇帝は絵をいたく気に入ったそうです。
 「四季」や「四大元素」など、マクシミリアン二世やルドルフ二世に献上された皇帝たちの絵は、他の肖像画とは一線を画しており、誇りと高貴さを感じさせ、自然界のすべてを統べるにふさわしい知と力を備えているように見えます。恐らく、アルチンボルドが皇帝たちに真の敬意を抱き、誠意を持って絵を描いたからではないでしょうか。
 野菜や花を使って人間の姿を描くこと自体、並大抵のことではありません。ましてや皇帝にふさわしい威厳を担う肖像画を描くには、絵の技術力とともに、肖像画のモデルの本質を見抜く観察力、そしてまったく別の事物を使ってモデルの品格を示すという並外れた想像力を必要とするでしょう。しかしアルチンボルドはやってのけたのです。
 ミステリアスで機知に富み、現実の枠を軽々と踏み越えるアルチンボルドの奇想天外な世界は、この夏、大きな驚きとともに、人の想像力に限界がないことを実感させてくれるでしょう。

 

 

 

 

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本展で販売されているグッズの中には、オリジナルのアルチンボルドの≪春≫をつくることができるステッカーのセットも販売されています。自分だけの≪春≫を創造しながら、アルチンボルドの奇想の世界を身近に感じてみてはいかがでしょう。

 

 

文・中野昭子 写真・新井まる/丸山順一郎

 

 

【展覧会情報】
アルチンボルド展

 

会期:2017年6月20日(火)-9月24日(日)
会場:国立西洋美術館[東京・上野公園]
展覧会ホームページ:http://arcimboldo2017.jp/
住所:〒110-0007 東京都台東区上野公園7−7
休館日:月曜日、7月18日(火)
*ただし、7月17日(月)、8月14日(月)、9月18日(月)は開館
時間:午前9時30分―午後5時30分(金・土曜日は午後9時まで)
*入館は閉館の30分前まで
お問合せ:03-5777-8600[ハローダイヤル]

 

観覧料金:一般 1,600 円/大学生 1,200 円/高校生 800 円

 

【チケット販売場所】国立西洋美術館(開館日のみ)、展覧会ホームページほか、ローソンチケット、イープラス、チケットぴあなど各主要プレイガイドにて販売 ※手数料がかかる場合があります。

 

 

【アルチンボルドに関する記事はこちら!】
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Writer

中野 昭子

中野 昭子 - Akiko Nakano -

美術・ITライター兼エンジニア。

アートの中でも特に現代アート、写真、建築が好き。

休日は古書店か図書館か美術館か映画館にいます。

面白そうなものをどんどん発信していく予定。

 

 






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