event

【イベントレポート】おとを食べるワークショップ「おとゆ」@東京・天王洲T-Art Gallery

NEWS

2015年7月17日

【イベントレポート】おとを食べるワークショップ「おとゆ」@東京・天王洲T-Art Gallery


6月25日(木)から7月8日(水)まで寺田倉庫が運営するT-Art Galleryにて開催された『コレクターとアーティスト vol.1』。本展は、3名のアートコレクターが推薦する3組の若手アーティストを個展形式で紹介する展覧会です。

 

会場内には、鳥越貴樹さんが推薦した新進気鋭のアーティスト・川内理香子さんによる、ドローイング作品や、油彩のペインティング、針金で制作された半立体作品、大型のネオン管作品が展示されているだけでなく、
塩入敏治さんが推薦している数々の受賞歴をお持ちの原良介さんの展示では、木の枝に絵画を掛けたり、リズム感を持って絵画を配置したりと、原さんの新しい展開のインスタレーションなどが展示されていました。

 

0704_0004

0704_0014

 

その中でも、一際面白い取り組みを行っている笹川直子さんが推薦したアーティスト。
様々な物事を音でつなぐことを模索するアートユニットeje(エヘ)の作品を体験してきました。

本展に出品されている『ものおと』は、使い古された「もの」に、
その物のためだけに作られた一曲の音楽が宿る作品です。
ミニカー、コルク、地球儀、スタンド、自転車、馴染み深い「もの」たちが無造作にあふれている室内。
手に取った「もの」に埋め込まれた小さなジャックにイヤホンを挿すと、
世界に1つの音楽と懐かしい思い出が溶け合い、静かに心が満たされていく不思議な感覚がしました。

 0704_0015
(お部屋の様子)0704_0029

 

eje(エヘ)の真樹さんに『ものおと』についてお伺いしたところ…

「以前、子供達に『ものおと』を体験してもらったところ、一時間近くもじっと耳を澄まして聞いていた子供たちがいて、一時は託児所のような状態になるほどみんな熱中して楽しんでいました。」と、微笑みながら話してくれました。

本作品は、2013年度岡本太郎現代芸術賞「特別賞」を受賞しています。
過去には、伊勢丹が企画したパトロンプロジェクトにも参加し、
『ものおと』の魅力に引き込まれたファンが増えてきています。

 「もの」に隠されたジャックを見つける楽しさと、「もの」によって違う音楽が紡いでくれる記憶が、
忘れていたあたたかい感情を呼び醒まし、日々の輝きをそっと語りかけるように教えてくれます。
作品から得られた密やかで親密な驚きは体験した者だけに贈られるギフトです。
皆さんも巡り合う機会があれば、是非『ものおと』を体験してみてください。

 0704_0036

 

そして、もう一つの本命である「おとを食べるライヴ&ワークショップ『おとゆ』」に参加させていただきました!
『おとゆ』とは、6種類のトッピングで味わうおかゆを、それぞれの味のために作曲され、
奏でられる楽曲に耳を傾けながら、1つ1つ丁寧に口内で味わっていくワークショップです。

 

0704_0070
(体験の様子)
0704_0075

 

目の前に置かれたお椀の中に湯気が優しく沸き立つ白粥が注がれ、真樹さんの指示に従いながらそれぞれの薬味をかけ、自分の選んだスプーンで粥とトッピングを掬い口へと運ぶと、今まで美味いか不味いかの判断しかしなかった味覚が、別のベクトルがはたらいて想像を越えた不思議な体験をしました。

 

0704_0081

 

特に、私が驚いたのは3番目の「揚げ春巻きの皮と三つ葉とミョウガ」と6番目の「にこごりがゆ」を食べた時です。

「揚げ春巻きの皮と三つ葉とミョウガ」はその歯ごたえを楽しむものでした。

サクサクサクサク…

噛みしめるたびにあふれる三つ葉とミョウガの香りが、まるで自分が草原に降り立ったかのような感覚になり、
gOさんが作曲した楽曲のリズムに合わせ、口内で揚げ春巻きの皮を歯で砕くたび、
ずんずん草をかき分けて前進しているような錯覚に陥りました。

私は自分の身体感覚がいかに曖昧であるかに驚きました! お粥を食べているだけなのに草原を歩いている! 
私は思わず笑みがこぼれました。

「にこごりがゆ」では、にこごりを舌で潰しながらお粥と一緒に味わうものでした。

優しい楽曲に合わせてにこごりを溶かすと、幼少期に見た夕焼けの記憶が思い返され、
すごく懐かしい気持ちになりました。

時間をかけると、さらに母のお腹の中にいた記憶までもが過ぎり、静かに戸惑いを感じたのを覚えています。
そして、私は涙していました。

 

そもそも、人間は日常で使っている知覚の83%が視覚に頼っていると言われています。
視覚以外の知覚の中では、味覚はそのパーセンテージが低く1%を切ります。

『おとゆ』ではその味覚と聴覚(11%)を用いることで、使われていなかった知覚を覚醒させ、
今までにない領域を模索する試みです。

私はその試みを味わうことにより新たな驚きに出会うことができました。
もし、その記憶が褪せることがあっても、奏でられた音楽が思い起こさせくれるでしょう。

 

0704_0114

 

…人が持っている記憶や感覚の違いによって、その表現の多様性が生まれる『ものおと』と『おとゆ』。
いろんな人に体験してもらい、その体感した出来事を大切にしてほしい作品でした!
私は制作されたeje(エヘ)さんの魅力に引き込まれ、ひとりのファンとして活動を見守り続けたいと思います。

 

【アーティスト情報】

eje
eje(エヘ)

http://eje.jp

 

文 / 新麻記子   写真 / 洲本マサミ