Interviewこの人に会いたい!
色のすること そなたのまばゆい ゆでたまご色
植田志保 “色とことば” の世界に触れる
自由が丘の駅を出て、雑踏の中、高架下の暗闇の中にぼんやりと明かりが見える。軽やかな音楽と賑やかな声が駅の続きのように混じっている。けれどもとてもリラックスして、私達を迎えてくれる。カフェ&ブックス、ビブリオテーク自由が丘だ。
中に入ると、たくさんの色が浮かんでいる。風にゆらゆら揺れたり、くるくる回ったり。外から見てお店をカラフルにしていたのはこれみたい。高い天井にひときわ似合っている。きれいだな……。
一角には目に賑やかな、きれいな色合いの絵葉書やハンカチ、バッグが。カフェスペースにはたくさんの絵が飾ってある。白壁にやさしい色が生えて爽やか。ここに座ってコーヒーを飲みながら楽しい時間を過ごせそう。素敵!
これらの作品はすべて美術作家の植田志保さんの手によるもの。植田さんの作品に囲まれた素敵な場所で、植田さんに『色のすること』という、色とことばとを結んで描く、水彩抽象画や服飾や立体表現についてお話をうかがった。
ーー花の絵が多いのでモチーフを描く方なのかと思ったのですが。
植田:普段はもっと抽象画なんです。『色のすること』というのを大きな軸にしていて、それに伴う作品とか、線だとしても風景だとかその間に見えるを色の広がり方を大事にしているんです。黄緑が見えるけどそれは赤があるからとか、そういう色で起こる現象みたいなことを、あっ、と思ったらそのままやってるというか。
ーー水彩で描くのはそのことに関係があるのでしょうか?
植田:水が好きで……、水はそういうことを、お願いします!、っていうとそのまま写してくれる感じがあって。
ーー志保さんの絵からは、夜に見ると優しい夜の雨みたい、でもお昼間に見ると日向ぼっこしてるみたいに暖かい。どちらも優しいけど、周りの空気もそのまま見る人に感じさせてくれる感じがします。
植田:記憶とか出来事で閃いたものをそのまま反復する、肌で感じたことを肌で出すみたいな感じですかね。
ーー見たもの、聞いたもの、いろんなものが題材になるんですね。
ここで志保さんが毎月一枚づつ描かれているお手紙「文月」を見せていただいた。大きなトランクから魔法のようにきれいな絵がたくさん出てきて……。さまざまなサイズや形で、透かすと文字が見えるものも。綺麗!
ーー月に1個の手紙で、文の月なんですね
植田:『色のすること』をお手紙で送る事によって、お手紙って言っても相手が誰も居ないけど送ってる手紙なのですが、手紙をもらうことって出来事になるじゃないですか。そういう色の登場の仕方をさせたいなって。
ーー詩は勉強されたんですか?
植田:詩は特に勉強はしてないんですけど、言葉にも色みがあるじゃないですか。パレットとかそれをキャンパスに描くみたいに文字を混ざる感じというか。
ーー志保さんの言葉は、文字で残していく言葉じゃなくて、声として出てくるコトバのような感じがします。例えば「嬉しい!」って思ったとき「嬉しい」と口から出る前の自分だけの心の震えのような。
植田:スキップの直前の色、みたいな?(笑)そういうのを色の名前にしてます。色の名前ブックもあるんですよ。
ーー気持ちがあって、絵があって、気持ちを入れていく、という感じでしょうか?
植田:その色がなんとなくあって、何だろう何だろうってなって言葉に降ろしてくる。見てもらえるように包める。絵にしたり、塊にするって感じかな……。思い出すことって断片的ですよね、なのでそれを塊にする。
ーー「色のすること」ということをテーマにしようと思ったきっかけは?
植田:「色のすること」をするぞー!! というよりは「色のすること」としか言いようのない現象みたいな、色が起こしているようなまわりのことが気になって、それがすごく力があると思って。それは何なんだろう?って。それは空中にあるみたいな感じがする。それを身近に感じて、それでそれを絵にしてる、かな……。
ーー吊るしてある立体も志保さんの作品ですよね。
植田:あれは「色のつぶ」っていいます。もともと絵本を作りたくて絵を描いてたんですけど、ページをめくっていく動作に色があるなって思って。重なりあったり、束になったり。気配があるなってなって、それは糸電話みたいに繋がってる何かな気がして。それはそこに色みがあると思ったんです
ーー確かに重なっていますね! たくさんのカラフルな色が使われていますが、好きな色はありますか?
植田:好きな色ですか?(笑)うーん、わりと無彩色が好きです。はっきりしない色と色の間みたいな色。
ーーくるくる回って風でひらひらして、いろんな色が目に重なった瞬間また違う色に見えますね……。
植田:動くといい感じですね。「色のつぶ」を飾ったのはカフェだったので、ギャラリーとはまた違って、カフェという場所で気配の一部になるようなものがいいのかなと思って。
ーー志保さんは、色そのものを捉えていらっしゃる感じがします。
植田:何かを見て分析しようとして、何だろう何だろうって考えるんですけど、パン!って素直に出してる。物事を分析しようとしたとき、何が印象に残りますか? 私は色で見たものを解釈しようとしてるんです。勉強するときも、歴史の教科書とか見てても色で覚えてました。でもそれって丸裸だから(笑)それをどうにかしようとしてる工程が絵っていう形になっている……かな。だからなのか、あまり絵を描いてるという気はしてないんです。なんか青い大きな丸の下に黄緑の点々がいっぱいあって、銀色の線があるけど太めの黄色が底の方からグイッと上がる感じ!とか。
ーー絵を描いているうちにそういう感覚が身についたんですか? それとも生まれつきそう感じる?
植田:出来事とかにまとわりついているのは一体何なんだろう?と……、それが色なんですね。うーん昔からかな? とにかくそのまとわりついてるのが気になって気になって。絵にしよう!とは思ってなかったけど。
ーーその見える色って気分によって変わりますか?
植田:え! 変わりません!?(笑) なんか同じ道歩いてても日によって気になるところとか見え方とか変わりませんか?
ーーそうか、だから同じもの描いても全部違ったテイストになるんですね
植田:絵って場面でしか繰り抜けないですからね。
ーー志保さんにお話をうかがっていると、自然体であることが、こんなに素晴らしいことだと感じました。今日はありがとうございました。
自分の中の言葉を一生懸命、伝えようとする様子が、柔らかいのにとても真剣で。話す言葉も志保さんの絵を見ているようです。志保さんが見る世界はどんな世界なんだろう? どんな魔法をかけてくれるんだろう? これからの植田志保さんが描き出す色とことばに魅了されたいです。
※カフェ&ブックス ビブリオテーク 自由が丘で開催された『Shiho Ueda EXHIBITION 「色のすること_そなたのまばゆい ゆでたまご色」』(5月7日〜27日)の会場でお話をうかがいました。
作家プロフィール:
植田志保
1985年兵庫県生まれ。「色のすること」と冠した抽象的表現を、絵やことばに置き換え、平面のみにとらわれない表現を発表してきた。その活動は国内のみにとどまらず、海外にも発展している。?主な活動に、?KARIMOKU NEW STANDARD/ミラノサローネ出展に際しイメージ画提供
個展: 植田志保展 色のすること@Gallery Books Coffee iTohen/大阪?Depot Basel:MUSTERZIMMER 11 /チューリッヒ?アパレルブランド furfur 2013 s/s collection/アートワーク担当 風の伝言プロジェクト(国立病院機構 四国こどもとおとなの医療センター) /作品提供
雑誌・coyote(スイッチ・パブリッシング社))SPECIAL ISSUE 2013/イラス トレーション提供?他 個展及びグループ展、多数。
<今後の活動スケジュール>
・植田志保 個展 9/1~6 @ 森岡書店
・港町ポリフォニー 9/7 作品展示
http://minatomachi-polyphony.com/index-2.html
協力:カフェ&ブックス ビブリオテーク 東京・自由が丘
執筆:橋本佳奈
記事監修:チバヒデトシ
撮影:洲本マサミ