Interviewこの人に会いたい!
「テクニックではなく志」
—フォトグラファー魚住誠一さんに聞くポートレートの魅力
ポートレートにジャンルを絞った日本最大級の合同写真展「ポートレート専科 2014」。8回目の同展が渋谷ギャラリー ルデコで開催中です。アマチュアとプロの垣根をとりはらい、第一線で活躍する「常任フォトグラファー」とオーディション/プレゼンで選ばれた「一般参加フォトグラファー」が一同に作品を展示。各種セミナーやゲストトークショーなど「大人のフォトフェステバル」という位置づけで、写真の楽しさを実感できる全員参加型写真展です。
街中で一眼カメラを提げた女子が多く見られるようになっていますが、girls Artalkのスタッフも撮られるだけでなく、撮るのも大好き。みなさんの中にも写真を撮ることに興味がある方は多いはず。プロでなくても写真展に参加できる、より身近に感じられる写真展の魅力を、ポートレートの第一人者として知られるフォトグラファーで、本展の主催者でもある魚住誠一さんにお話をうかがいました。
ーーまずはポートレート専科のみどころについてお聞かせください。
魚住:
「作品展示」だけが目的ではなく、いかに「人に観せる作品」を創るか、秘訣やノウハウなどの貴重な情報を、プロアマの垣根を超えて情報交換できる点が一番の魅力ですね。
あとは写真をデジタルで撮るようになって、SNSで自由にアップ&シェアが出来るようになった今、きちんとルールを守ってやっていくことが大事だよ、ということも、当たり前だけれど伝えています。ポートレート専科は誰でも観に来られるオープンな写真展だから、渋谷の道端に並べても問題ない作品を選ばないといけない。誰に向けて発信するか、それを踏まえた上でルールを設けてやることが必要なんです。
ーーたくさんの応募者の中から、どのような基準で審査をしているんですか。
魚住:
審査ではテクニックはそんなに見ていないんですよ。その人の表現したいもの、想いが重要なんです。
ーー参加者間での交流もあるのでしょうか。
魚住:
みんなでお酒を飲んで写真の話をしたりしますよ。面白いのは、女の子はカメラがキヤノンであろうがオリンパスであろうがニコンであろうが、レンズが5万円か10万円か15万円かは関係なくて、撮りたい世界観の絵があって、それが撮れればいいという感じなんですね。一方で、男の子はカメラやレンズにすごくこだわる。一晩中、どのレンズがいいのか、どのカメラがいいのか、という議論が出来るくらい。でも、そのカメラで女子を撮る。撮られる女子は高いレンズかどうかなんて気にしていないから可笑しいですよね。
他の人の作品を観るときに、写真を撮っている人はどんなカメラやレンズを使っていますか、と質問してくるけれど、絵画は違いますよね。レオナルド・ダ・ヴィンチの絵を見て、これはなんの筆で描いていますかとは聞かないのに。そんなことより、どういう背景でどんな人がどんなコンセプトで描いたかっていうほうが気になる。
ーー今回の魚住さんの作品はどのように撮ったんですか
魚住:
お仕事ではなくて、クライアントがいないから、自分がクライアントだったらどうするかということで、自分に自分で発注しているんです。モデルやヘアメイクの選定も全部自分でやるし。
今回のモデルは内田理央ちゃんだけど、撮る前は彼女がどんな子が全く知りませんでした。彼女と話してみると、東京の西側の山の方に住んでいて、都会があまり好きではなくて、田舎のほうが好きらしいんです。「日本には良い場所がいっぱいあるのにみんな気づいていない。」って。
写真のロケ地である岐阜もかつて城下町として栄えて、昭和のバブルの頃に飲屋街があって人が集まった場所だったのに、今はシャッター街で閑古鳥がないていて、人がだれもいない。
そういうところを忘れないでっていう彼女のメッセージがこもっていたりするんです。裏のエピソードを知ると、ただ単に可愛いだけじゃなくて、別のものが見えてきませんか?
ーーいい写真を撮るにはモデルさんと向き合うことが大切なんですね。ほかにはどんなコツがあるんですか。
魚住:
この写真展については、モデル本人と撮る前に1時間でも2時間でも話し合ってから撮りにいくことが多いですね。お互いに絵が見えていれば、撮影中にああしよう、こうしようって言わなくて済むから集中できるし。
写真は記録だから、本人がそこにいた、という記録を撮りたいだけだから。想いを入れよう、入れよう、として撮るからおかしくなる。フィルムの時代は現像するまでどんな絵になるかわからなかったしね。
ーーこういう絵をつくりたい、というのを忠実に表現出来るようになったのは最近なんですね。
魚住:
そうですね。だから絵を書くとか文章で残すよりも、写真を撮るほうが簡単になってきたということはあるでしょうね。
それと、日本人は(作品としての)写真を買いませんよね。例えばこの会場で写真を売っても、買うのは例えばモデルのファンの方だったり、百歩譲って魚住誠一の写真だから買うというくらいで、そういうのがなかったら、なかなか買わない。
ーー確かにそうですね。若い女性が一番作品を買うところから遠いところにいるかもしれません。女の子は洋服やメイクなど色々なことにお金をかけていますが、この服を買おうか、この写真を買おうか、という作品を買うことが選択肢に入ってくるようになればいいな、と思います。
魚住:
ほんとにそうですね。自分だと、欲しいなって思った作品が2〜3万ならすぐ買えるけど、30万円ともなるとなかなか買えませんよね。写真展に行って、写真集は2,000円だけど、プリントは30万かよー!って思う。でもどうしても欲しくて、最終日に行って買ったりすることもあるんですが。
自分がいいなって思ったものは所有していたい、そして毎日眺めていたい。その空間に暮らせるってやっぱり素敵なことですしね。
ーー最後になりましたが、読者に向けてメッセージをお願いします。
魚住:
このポートレート専科は10回やる! ということではじめて今年で8回目になりました。あと2回、来年と再来年はやろうと思っています。コンテストではないので、テクニックではなくその人の志をみています。写真を撮っている方、ポートレートを撮りたい方はぜひチャレンジしてみてくださいね!
あと、会場に見に来てくださる方は、作家の名前から見ないで、まず作品をご覧になって「いいな」と思ったら誰が撮っているか確認する。プロもアマも同じ線上に並んでできる展覧会ってなかなかないし、とってもスリリングでしょ。それを楽しんでもらえたらなぁと思います。
ポートレート専科
開催日:2014年7月29日(火)〜8月3日(日)
時 間:11:00-21:30 (最終日は17:00)
入場料:無料 (セミナーのみ有料)
会 場:ギャラリールデコ 全フロア
【ギャラリー・ルデコ】 〒150-0002 東京都渋谷区渋谷3-16-3 ルデコビル
<プロフィール>
魚住誠一 -Seiichi Uozumi-
フォトグラファー / Photographerジャンル:ポートレート/ Portrait
1963年、愛知県生まれ。高校時代はインディーズ・ロック・バンドで活動。その後、ロサンゼルスでアンセル・アダムスの写真に出合い、風景写真を撮り始める。渡米を繰り返し、スタジオ・アシスタントを経て94年よりフリーとして活動。98年より拠点を東京に移す。02年、デジタルカメラ「キヤノンEOS 1Ds」導入。撮影の90%をデジタルで行うスタイルを提案。05年、初の著書となる「おしゃれなポートレイトの撮り方」(マーブルトロン)を出版。本シリーズは「おしゃれなポートレイトの撮り方1~5」まで発売されロングセラー。08年~11年まで「月刊カメラマン」(モーターマガジン社)の表紙撮影を担当。07年~現在、渋谷ルデコギャラリーにて自身主催の合同写真展「ポートレート専科」を開催。その他現在まで数々の書籍や写真専門誌、ファッション誌、音楽誌などで活躍中。
文:新井まる
記事監修:チバヒデトシ
撮影:荒田仁史