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あなたの心の襞(ひだ)を静かに撫でる 映画『ひかりの歌』

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2018年12月19日

あなたの心の襞(ひだ)を静かに撫でる 映画『ひかりの歌』


 

 

あなたの心の襞(ひだ)を静かに撫でる 映画『ひかりの歌』

 

 

私達の人生で「劇的なできごと」はいくつ起こるのだろうか・・・・・・? 日々はあまりに些細な事で構成され、私達はその一つ一つに驚いたり、憤慨したり、感動したりしている。その「小さなこと」に揺れる女性の心を丁寧に描き抜いたのが映画『ひかりの歌』だ。監督は本作が長編2作品目となる杉田協士。

 

『ひかりの歌』の特徴として短歌に着想を得ている点が挙げられる。「光」をテーマに公募を行い、1200首の中から4首を選出。4首を原作に4章から成り立つ作品を作り上げた。

 

各章の短歌は以下になる。

第1章 反対になった電池が光らない理由だなんて思えなかった (原作短歌:加賀田優子)
第2章 自販機の光にふらふら歩み寄り ごめんなさいってつぶやいていた (原作短歌:宇津つよし)
第3章 始発待つ光のなかでピーナツは未来の車みたいなかたち (原作短歌:後藤グミ)
第4章 100円の傘を通してこの街の看板すべてぼんやり光る (原作短歌:沖川泰平)

 

 

「だれかをおもう気持ちが、この世界のひかりになる」

 

 

とは、本作のキャッチコピーだが鑑賞後、誰かに優しくしたいと思わず考えてしまう、映画『ひかりの歌』の魅力を少しでもお伝えできたらと思う。

 

 

 

 

 

 

 

4人の女性とその周囲にまつわる、それぞれの物語

 

 

 


(c)光の短歌映画プロジェクト

 

 

 

4人の女性は年齢も、職業もバラバラである。第1章の主人公の詩織は美術の臨時教師として高校に勤めており、第2章の今日子はもうすぐ閉店してしまうガソリンスタンドでアルバイトをしている。第3章の雪子はバンドの解散を気に北海道へ旅立ち、第4章は、長年行方不明だった夫を迎える幸子が主人公だ。

 

 

 


(c)光の短歌映画プロジェクト

 

 

 

彼女達に共通しているのは、時に自分の心に蓋をしても大切にしたい「誰か」がいる点だ。 登場人物たちは多くを語らない。詩織の好きな人が誰なのかも、幸子の夫が何故家出をしたのかも明言されない。鑑賞者に想像を委ねるわけだが、それが彼女達の持つもどかしさと繋がり、より感情移入してしまう。

 

口から溢れ出しそうな思いを抱えながら、彼女達は懸命に、ひたむきに生きる。自分ではコントロール不可能な現実に苛立ち、焦りながらも次のステップへと上がろうとする姿はあまりに孤独で美しい。

 

 

 


(c)光の短歌映画プロジェクト

 

 

 

ドキュメンタリーのような自然な俳優の演技

 

 

 

登場する人物は概ね内省的な人物である。積極的な人物に見えても何処か余白を想像させるのだ。鑑賞者は傍観者から映画の語り部とならざるを得ない。それほどまで俳優陣の演技は自然で、それぞれのキャラクターがよく練られている。「こんな人、周りにいるいる」と思わず頷いてしまうし、「彼ら、彼女らは今後、どうなってしまうのだろう?」と心配になってしまう。まるで神代辰巳監督の演出を思い起こさせる。

 

 

 


(c)光の短歌映画プロジェクト

 

 

 

繊細な人物描写は、監督自身がいかに普段から人間を真摯に見詰めているかが理解できる。心の機微を仔細に享受し、どこまでも優しく温かい眼差しを少しでも共有できれば、世界は少し良くなるかも知れない。そんな映画・・・・・・『ひかりの歌』があることを、是非、知って欲しい。2019年1月12日(土)よりユーロスペース他にて全国順次公開。

 

 

 

【作品情報】
映画『ひかりの歌』
出演:北村美岬 伊東茄那 笠島智 並木愛枝 廣末哲万 日髙啓介 金子岳憲 松本勝 リャオ・プェイティン
監督・脚本:杉田協士
原作短歌:加賀田優子 後藤グミ 宇津つよし 沖川泰平
撮影:飯岡幸子
音響:黄 永昌
編集:大川景子 小堀由起子
音楽:スカンク/SKANK
カラリスト:田巻源太
写真:鈴木理絵
題字:岸野統隆
配給協力・宣伝:髭野純 宣伝:平井万里子
宣伝デザイン:篠田直樹
配給:Genuine Light Pictures
製作:光の短歌映画プロジェクト
2017/日本/カラー/スタンダード/153 分
オフィシャルサイト:http://hikarinouta.jp/
2019年1月12日(土)よりユーロスペース他にて順次公開。

 

 

 

テキスト:鈴木 佳恵

 

 

 

 

バナー画像は(c)光の短歌映画プロジェクト

 

 



Writer

鈴木 佳恵

鈴木 佳恵 - Yoshie Suzuki -

フリーランスの編集者。
広告代理店に勤務後、フリーランスに。
得意分野は映画と純文学。
タルコフスキーとベルイマンを敬愛し
谷崎潤一郎と駆け落ちすることが夢。

 

暇があれば名画座をハシゴしています。