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「フィリップ・パレーノ:この場所、あの空」唯一無二の芸術体験

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2024年6月12日

「フィリップ・パレーノ:この場所、あの空」唯一無二の芸術体験


「フィリップ・パレーノ:この場所、あの空」唯一無二の芸術体験

 

現代のフランスを代表するアーティストであるフィリップ・パレーノ。日本における彼の個展としては最大規模の「フィリップ・パレーノ:この場所、あの空」が箱根のポーラ美術館で始まった。展覧会の会期前日に行われたプレス内覧会では本人自らの言葉で展覧会にかける思いや作品に対する考えを聞くことができた。

 

「(一般的にアートは)視覚芸術だといわれているけど、私にとってのアートは視覚だけではなくもっと魔法的な効果がある。見た後に頭の中にイメージが残ったり、呪文をかけられたかのようになる。形を持つことは、誰かがそこに注目をした、視線を注いだことの副産物として現れた結果なので、映像でもペインティングでもなんでもいい。人が視線を注いで、注目する行為そのものがアートだと私は思っている。

(フィリップ・パレーノ)

 

フィリップ・パレーノ《私の部屋は金魚鉢》(2024)

 

《私の部屋は金魚鉢》(2024)には、お祭りやテーマパークで見かける魚のバルーンが空間に漂うように配置されている。ポーラ美術館の周囲を取り巻く森を望む美しい窓の部屋が水槽に見え、まるでその中を魚が泳いでいるようだ。この作品は鑑賞者の動きにあわせて魚が異動するので、あたかも泳いでいるかのように感じられてとても幻想的だった。展示方法だけではなく、市販されていそうな魚のバルーンたちの瞳は実は、作家自らの手で1つ1つ大きく描いているというのも、惹きこまれる要因かもしれない。一見無造作に配置されたように見える作品がパレ―ノの視点で丁寧に作品を作り上げていることに気づき冒頭の言葉を思い出した。

最初から完全な作品であることにこだわるのではなく、実際にその空間に配置してみて作品と対話をしながら仕上げていく過程も面白いと思った。

 

フィリップ・パレーノ《マリリン》(2012)ポーラ美術館

 

「作品は楽譜の中の音符のようなもの。それを組み合わせたりすることで新しい曲、新しい音楽になると思う」(フィリップ・パレーノ)

 

今回取材をして特に印象的だった言葉だ。

例えばマリリン・モンローをモチーフにした《マリリン》を制作したのは2012年だが、今回の展覧会の空間に合わせて作品を配置し構成し直しているという点で「ある意味すべてが新作」とパレーノ自身が話す。この作品はマリリン・モンローが1955年の映画『七年目の浮気』のロケのために住んでいたニューヨークのホテル「ウォルドーフ・アストリア」の部屋を舞台に撮影されたもの。マリリンの姿はどこにも映らないが、その声、視線、筆跡をテクノロジーによって再現することで、マリリン・モンローの姿を暗に浮かび上がらせている。

 

 

今回の展示では、映像作品のほかに太陽光を反射して展示室の中にまるで夕日のように赤い光を届ける立体《ヘリオトロープ》(2023/24)が屋外に配置され、更に箱根の残雪から着想された《雪だまり》(2024)が展示室の壁に積まれており、箱根の自然と無機質な展示室を接続させる。

このようにパレ―ノは毎回展覧会のたびに展示空間と対話をするように、その場所ごとに作品を再構築して展覧会を作りあげているので、新しい作品として楽しむことが出来るのが特徴だ。

 

フィリップ・パレーノ《ヘリオトロープ》(2023/24)

 

今回の展示作品は≪マリリン≫以外にもパレ―ノが飼っていたコウイカを主人公とする映像作品《どの時も、2024》など約15分と少し長めの映像作品がある。これらは最後まで鑑賞すると同室に展示された他の作品と接続し“この場所ならではの作品”になるのでゆっくりと鑑賞することをお勧めしたい。

 

フィリップ・パレーノ《どの時も、2024》(2024)

 

ちなみに本展では映画のためのドローイングとして《マリリン》、≪C.H.Z.≫、現在撮影中の新作《100の問い、50の嘘》などのために描かれたドローイングも多数展示されている。

展示室のガラスケースには電流が流れる仕組みがあり、点滅するかのように曇る仕掛けが施されており、興味深い。ドローイングといえば作品のためのアイディア出しや絵コンテ的な役割をするものでもあるので無機質に展示されることも多いが、作品に度々先進的なテクノロジーを用いるパレ―ノらしい空間となっている。

 

ドローイング、《幸せな結末》 2014-2015年 展示風景

 

内覧会ではこれから先の活動内容についても言及があり、次の展覧会は10月にミュンヘンで開催予定、また長編映画を撮影する予定もあるという。フィリップ・パレーノからますます目が離せなくなりそうだ。

 

フィリップ・パレーノ《ふきだし(ブロンズ)》(2024)

 

文:山口智子

写真:新井まる

 

【展覧会情報】

フィリップ・パレーノ:この場所、あの空

Philippe Parreno: Places and Spaces

 

会期:

2024年6月8日(土)~12月1日(日)

9:00AM—5:00PM(入館は午後4時30分まで)

会期中無休

 

会場:

ポーラ美術館 展示室1、2、5、屋外

〒250-0631

神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285

TEL 0460-84-2111

 

https://www.polamuseum.or.jp/sp/philippe-parreno/

 



Writer

山口 智子

山口 智子 - Tomoko Yamaguchi -

皆さんは毎日、”わくわく”していますか?

幼いころから書道・生け花を始めとする伝統文化を学び、高校では美術を専攻。時間が許す限り様々な”アート”に触れてきました。

そして気づいたのは、”モノ”をつくることも大好きだけれど、それ以上に”好きなモノを伝える”ことにやりがいを感じるということ。

現在、外資系IT企業に勤めながらもアートとの接点は持ち続けたいと考えています。

仕事も趣味も“わくわくすること”全てに突き動かされて走り続けています。

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