feature

現代によみがえるジャポニスム 江戸時代と現代を繋ぐ浮世絵という架け橋

NEWS

2020年8月11日

現代によみがえるジャポニスム 江戸時代と現代を繋ぐ浮世絵という架け橋


現代によみがえるジャポニム 江戸時代と現代を繋ぐ浮世絵という架け橋

 

東京都美術館で開催されているThe UKIYO-E 2020 ― 日本三大浮世絵コレクション展。入り口からいきなり浮世絵の世界がぐっと迫ってくる展示空間は、浮世絵に詳しい方も、そうでない方も一瞬にしてその世界に引き込まれるものではないでしょうか。

 

セクション毎にイメージカラーが配され、浮世絵の世界に引き込まれる

 

浮世絵が生まれる江戸時代以前、「うきよ」は元来「憂世」と書かれ、「辛く儚い世の中、変わりやすい世の中」という意味でした。そんな「うきよ」という言葉も、戦乱の世が終わって平定の時代を迎えると、庶民も日々を楽しみ文化を醸成・発信するようになり、「憂世」から「浮世」という漢字に変っていきました。

「浮世絵」はまさに庶民が日々の生活を謳歌するようになった時代に、そんな庶民の生活を映し出した芸術なのです。

 

勝川春英「おし絵形 春駒」日本浮世絵博物館 前期展示

 

The UKIYO-E 2020 ― 日本三大浮世絵コレクションは、遙か遠い昔ではない、どこか親近感も沸く身近な江戸時代を全身で浴びることができる空間。会場では、「初期浮世絵」、「錦絵の誕生」、「美人画・役者の展開」、「多様化する表現」、「自然描写と物語の世界」、という順に、浮世絵の発展の歴史を体感する事が出来ます。浮世絵について詳しくない方でも、初期のダイナミックな浮世絵から始り、繊細で多様な技法が織り込まれながら変化し進化していく浮世絵の世界を存分に楽しむ事ができます。

 

隈なくご紹介したいところですが、日が暮れてしまいそうなので、本稿ではいくつかの作品をピックアップしてご紹介します。

 

超有名なあの作品を生でみれるチャンス!

 

葛飾北斎「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」 太田記念美術館 前期展示 ※後期も他館所蔵の同作品が展示されます

 

世界で最も有名な浮世絵師といえば、この人、葛飾北斎でしょう。「嶽三十六景」シリーズなどは教科書や本、パンフレット等で見た事がある!といった方も多いのでは。

 

そういった超有名なお宝浮世絵たちを間近で堪能できるとあれば、それだけでも一見の価値ありです。写真で見るのとは一味も二味も異なり、その色使いや躍動感、かすれ具合や表面の凹凸も含めて、まさに浮世絵を浴びるように体感することが出来る展示となっています。

例えば、誰もが知る葛飾北斎のこの作品。現物を目の当たりにすると、絵師である北斎の才覚に驚嘆するだけには留まらず、繊細で躍動感のある水しぶきや吸い込まれる様な青色等を見事に再現している彫師や摺師の技巧にも感嘆せずにはいられません。

 

彫師や摺師の技法がキラリと光る作品はまだまだあります。例えば、美人画の髪の生え際にご注目ください。なんと細かいことでしょう!

さぞ彫師や摺師泣かせの図案だったに違いありません。

 

ゴッホやマネだけじゃない、影響を与えまくった浮世絵

鳥居清倍初代市川団十郎の暫」重要文化財 平木浮世絵財団 8月10日まで展示

 

市川海老蔵さんが十三代目を継ぐ予定の市川団十郎、その初代を描いた迫力の作品です。注目すべきはその輪郭線の強弱の妙。この躍動感あふれる技巧は現代までしっかりと伝承されており、銀座にある歌舞伎座の絵看板は今も鳥居派が描いています。鳥居清倍はその2代目にあたります。漫画等で絵を日本画風に描く際、輪郭線の強弱を強調する手法は、例えばワンピースのワノ国編等、様々な場面で見られますが、まさにその本家本元を見た気分でした。ジャポニムとしてゴッホやマネなど、世界の名だたる画家に影響を与えた浮世絵は、現代を生きる私達が普段何気なく楽しむ漫画等身近な文化にも、大きく影響を与えている事を教えてくれる作品です。

 

ちなみに、ゴッホが影響を受けたという作品がこちら。

歌川広重「名所江戸百景 亀戸梅屋(太田記念美術館 前期展示)

 

「見当違い」の語源になった歌川国貞の浮世絵とは?

三代歌川豊国(歌川国貞)「今様見立士農工商 職人」日本浮世絵博物館 前期展示

 

「見当違い」という言葉は良く使う言葉だと思いますが、それが浮世絵から来ている事を知っている方は少ないかもしれません。この絵は、浮世絵師として最も多くの作品を残したと言われる歌川国貞が、浮世絵の作成工程を描いたものですが、よく見ると少し違和感があります。さて、なんでしょうか。

 

……違和感の原因は大きく2つ。最初に、職人が全て女性であること。もう1つは、全ての工程が同じ部屋で行われている点です。

実際、江戸時代の浮世絵の職人はその殆どが男性でしたし、こんなに狭い部屋で複数の工程をやっていたわけでもありません。これは、浮世絵をはじめとした伝統的な日本文化の表現技法である「見立て」といもので、あるものを別のものになぞらえる法です。

今回の展示でも、人を雀や蛸に見立てた作品等、思わずクスっとなってしまうような見立絵もたくさんありました。世界でも高い評価を受ける日本のアニメーションや漫画等、空想を膨らます文化は古くから日本人にとって身近なものだったのかもしれません。

 

さて、「見当違い」の由来ですが、実は「見当」とは、多色刷りの浮世絵の刷り位置を合わせるために、版木の縁に付けたL字型の位置決めが語源になっています。この絵のどこで「見当」を作っているのか、見当をつけてみるのも面白いかもしれません。言語や文化など、様々な面で、我々は江戸時代から繋がって生きているんだと実感する事ができる、素晴らしい作品です。

 

飲み会やイベントは年に一度?!当時の暮らしを想像する

静かにゆったりと鑑賞し、江戸時代に思いを馳せる時間にしたい

 

数百年前の日本と比べると、現代は「日々の中に祭りがある」とも言われています。最近はコロナの影響で減ったとはいえ、映画鑑賞や飲み会等、多くの方が日常の中に楽しみを見出していると思います。一方、江戸時代以前、庶民の日々の生活にはそういった楽しみは滅多にあるものではなく、数か月に1回の特別な日を「祭り」として楽しみにしていました。浮世絵は、年に数回しか「祭り」が無かったそれまでの世の中が、日々の中に祭りを求める現代へと変遷し始めた江戸時代を描く、まさに「浮世」を映し出した芸術なのかもしれません。

 

葛飾北斎「冨嶽三十六景 凱風快晴」 平木浮世絵財団 前期展示 ※後期も他館所蔵の同作品が展示されます

 

文:吉田裕一 

写真:新井まる

 

【展覧会情報】

展覧会「The UKIYO-E 2020 ― 日本三大浮世絵コレクション」〈日時指定入場制〉

会期:2020年7月23日(木・祝)〜9月22日(火・祝) ※会期中展示替えあり

※当初の予定から会期を延長。前期展示 7月23日(木・祝)~8月23日(日)、後期展示 8月25日(火)~9月22日(火・祝)

会場:東京都美術館

住所:東京都台東区上野公園8-36

休室日:8月17日(月)、24日(月)、9月7日(月)、14日(月)

開室時間:9:30~17:30

入場料金:一般 1,600円、大学生・専門学校生 1,300円、高校生 800円、65歳以上 1,000円

※中学生以下無料

※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳を持参者とその付添い(1名まで)は無料

※前売料金・団体料金でのチケット販売、その他の割引はなし。

※チケット販売は展覧会公式サイトのみ。東京都美術館での販売はなし。

※入場無料対象者を含め、来場者はすべて事前予約が必要。

※7月15日(水)以降、毎週水曜日10:00に翌週木曜日〜翌々週水曜日入場分チケットを販売開始。

 

【問い合わせ先】

TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)

 

【展覧会公式サイト】

https://ukiyoe2020.exhn.jp