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国内実力派若手作家の作品が時代をうつす「VOCA展2020」

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2020年4月8日

国内実力派若手作家の作品が時代をうつす「VOCA展2020」


国内実力派若手作家の作品が時代をうつす「VOCA展2020」

 

 

VOCA展では全国の美術館学芸員、ジャーナリスト、研究者などが40才以下の若手作家を推薦し、選ばれた作家が平面作品の新作を出品するという方式により未知の優れた才能を紹介している。1994年から毎年開催されている本展もコロナウィルスの影響を受け会期終盤で中止となってしまったが、来年以降も続くであろう素晴らしい展覧会なのでアフターレポートとしてご紹介したいと思う。

 

宮本 華子 《白が消えていく。−Mein Tagebuch−》

 

 

今年出品したのは、新進気鋭の作家33人(組)。作品はもちろん、推薦者の熱量を感じるコメントも毎年楽しみなポイントだ。

 

選考委員長の小勝禮子(美術史・美術批評)は「今回のVOCA 展は手法は多様でありながら、それぞれ質の高い作品が揃った。その中で受賞作品には写真の技法を使ったものが多く入ったが、単に写真というだけではなく、それに手を加えて加工した、独自の技法を駆使したものであった。デジタルばかりでなく、アナログ的な手法も使い、いかに加工するか、そこに各作家のオリジナリティと創意が込められ、また作品の主張も凝縮されていた。VOCA 賞のNerhol《Remove》、奨励賞の菅実花《A Happy Birthday》《#selfiewithme》、李晶玉《Olympia2020》などである。」とコメントを寄せている。

 

グランプリとなるVOCA賞にはNerhol(ネルホル/田中義久・飯田竜太)の《Remove》、VOCA奨励賞には菅実花の《A Happy Birthday》《#selfiewithme》と李晶玉の《Olympia 2020》、VOCA佳作賞には黒宮菜菜の《Image – 終わりし道の標べに》と宮本華子の《白が消えていく。 – Mein Tagebuch -》、大原美術館賞には浅野友理子の《くちあけ》が選出されているが、本記事では個人的に大変興味深かった3作品をピックアップしていきたいと思う。

 

①Nerhol(ネルホル/田中義久・飯田竜太)《Remove》

 

VOCA賞_Nerhol《Remove》全図

 

 

上記の画像から作品の制作過程をイメージすることは困難だろう。

水面に浮いた白黒写真のように感じる人もいるのではないだろうか。

 

アイデアを“練る”田中義久と、それを“彫る”飯田竜太で結成されたNerholは2007年から活動しているアーティストユニットである。書物やそこに印された文字、世界に存在する図像の定型を異化するような探求にはじまり、2011年からは数分間かけて200カット以上連続撮影をしたポートレートを束ねて彫刻することで生み出される歪んだ人物像の立体作品を発表し、大きな注目を集めてきた。この作品も例にもれず、重ねた写真を彫ることで生まれた何とも言えない歪みに惹きつけられる。

 

Nerhol(ネルホル/田中義久・飯田竜太)《Remove》部分

 

はじめにこの作品をみた時、被写体の3人の男性のうち中央の男性のみ上裸で、何かの器具に座っているのが目についた。両脇に制服姿の男性がいることや、モノクロームということもあり、昔の人体実験のシーンのように見えた。ところが実際は1969年のアメリカの宇宙飛行士の重力を除去する効果についてのテストグラム中の動画だという。

 

この写真が”記録”したものを、自分の中にある知識のみで理解しようとするためこのような誤解や誤認が生じた。写真に限らず、目の前で起きたことを認識するときにもよく起きる現象だ。

彼らは本作を通して、誤解や偶然で結びついた事実のフィクションを見せることで鑑賞者の思考に問いかけているようだ。

 

 

②奨励賞の菅実花《A Happy Birthday》《#selfiewithme》

 

奨励賞_菅実花《A Happy Birthday》《#selfiewithme》全図

 

 

一見すると双子の美少女がすっとした表情で撮影された写真。ただの記念写真のようでどこか違和感を感じて説明文を読むと驚き左右を見比べる。”どっちが本人?”そう思いながら同じように観察するように凝視する鑑賞者が多くいた。

この作品は片方が作者自身で、作者の顔型をとり制作した人形と共に対称的なポーズで撮影されたものだ。ipadでは流行りの加工アプリで撮影したような質感の2ショットがスライドショーのように流れているのだが、もはやどちらが本物か検討もつかない。

キャッチーなテーマで親しみやすく思える一方、毒を感じる。

問いかける対象は”加工”することで理想の自分と現実を混同してしまっている女性たちか、もしくはAI等を家族として生活するような遠くはない未来の家族像に対してか……。

改めて考える機会を与えてくれる作品だ。

 

 

③高山夏希《World of entanglement 2020》

 

高山夏希《World of entanglement 2020》全図

 

entanglementは「もつれ」という意味の英単語。迫力のある張り巡らされた糸に絡まる絵具。所々に散りばめられた目は鋭くこちらを見ているようにも感じる。説明書きを読むと、祖父母の家周辺の景色を組み合わせた作者にとって初めての風景画だという。祖父母の家と聞くといわゆる温かみのあるものをイメージしがちであるが、この作品を見て最も先に感じるのは、わからないものへの恐怖のような感情で、イメージの開きに違和感を感じた。

 

作品について高山さんご本人からコメントを頂いたので紹介したい。

「人間の本性かのように不安は常に私たち人間にまとわりついてくる。それは例えば瞬間のうちに動物に襲われるといった突発的で物理的な力によるようなものではなく、目の前に実存しない見えない何かによって断続的にくるようなものである。対象を対象として認識する前に不安はやってきてしまう。

私たちは人間を取り巻く様々なものへの実感を再考しなければならない。ここでは自然と動物と人間が一体化した世界観を提示するとともにその考察の場となる環境を提示している。鑑賞者がすぐ目の前を見て作品と一体化するような作品を目指している。」

 

自然と人間と動物を考察し再構築した力強い作品は観る者の足を止める。

またダイナミックな印象とは裏腹に、近づいてみると細部までこだわったタッチはものすごく繊細で、3ヶ月という制作期間も納得である。

 

高山夏希《World of entanglement 2020》部分

 

 

紹介した作品に限らず、今回のVOCA展は総じて鑑賞者に多くの気づきを与えてくれる作品が多かった。アプローチは様々だが、作家が自己と向き合って作品制作に取り組んでいることが垣間見えたり、鑑賞者に問いかけるメッセージを強く感じた。そのメッセージを私たちに噛み砕いてわかりやすく伝えてくれる推薦者のコメントも含め、来年も楽しみな展覧会だ。

 

 

 

文:山口 智子

写真:新井 まる

 

 

 

【開催概要】

■名称

VOCA展2020 現代美術の展望-新しい平面の作家たち-

■公式HP

http://www.ueno-mori.org/exhibitions/main/voca/2020/

■会場

上野の森美術館

■会期

3月12日(木)〜3月30日(月)※コロナウィルスの影響により3月27日で終了

■開館時間

午前10時─午後6時(入館は閉館の30分前まで)

 

■入館料

一般600(500)円/大学生500円/高校生以下無料

*(  )は前売および20名以上の団体料金

*障害者手帳をお持ちの方と付添の方1名は無料(要証明)

 

■主催

「VOCA展」実行委員会/公益財団法人日本美術協会・上野の森美術館

■特別協賛

第一生命保険株式会社

■「VOCA展」実行委員会

委員長

 小勝禮子 (美術史・美術批評)

副委員長

 畑中秀夫 (第一生命保険株式会社取締役常務執行役員)

委員

 光田由里 (DIC川村記念美術館学芸部マネジャー)

 柳沢秀行 (大原美術館学芸課長)

 水沢勉  (神奈川県立近代美術館館長)

 家村珠代 (多摩美術大学教授)

 泉菜々子 (第一生命保険株式会社DSR推進室課長)

 坂元暁美 (上野の森美術館学芸課長)



Writer

山口 智子

山口 智子 - Tomoko Yamaguchi -

皆さんは毎日、”わくわく”していますか?

幼いころから書道・生け花を始めとする伝統文化を学び、高校では美術を専攻。時間が許す限り様々な”アート”に触れてきました。

そして気づいたのは、”モノ”をつくることも大好きだけれど、それ以上に”好きなモノを伝える”ことにやりがいを感じるということ。

現在、外資系IT企業に勤めながらもアートとの接点は持ち続けたいと考えています。

仕事も趣味も“わくわくすること”全てに突き動かされて走り続けています。

instagram: https://www.instagram.com/yamatomo824/
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