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おとなもこどもも考える ここはだれの場所? ―自分が感じたこと、考えたことと向き合って―

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2015年8月8日

おとなもこどもも考える ここはだれの場所? ―自分が感じたこと、考えたことと向き合って―


美術館の中でありながら『ここではないどこかの』場所とつながっている。

例えば、地球環境や教育や自由について。
大人も子どもとともに「社会」と「私」の交差点に立って、「ここはだれの場所?」と考えること、
それが本展覧会のコンセプトだ。

 

初めに広がるのは、ヨーガン レールの世界。
ここでの大きなテーマは『地球はだれのもの?』である。

 

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ヨーガン レール≪ヨーガン レールの最後の仕事≫2011-2014年

 

全て浜辺に流れ着いたゴミ。ゴミを拾いそれを美しいアート作品にする。
訴えかけたいことは大人の私たちにはすぐに察することができる。

この光と色の美しさがその問題に直面させ、心の中に暗い影を落とす。
こんなにも当たり前のように自然の中に沢山のゴミがあることを。

 

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ヨーガン レール≪ヨーガン レールが見た風景≫2013-2014

 

自然の美しさとそこに捨てられたゴミが並べられると、「ゴミを減らそう」という言葉だけでは伝わらない
メッセージが強く残るのが不思議だ。

 

2つ目の展示室。
そこには『美術館はだれのもの?』というテーマをもとに、子どもだけしか入れないスペースが広がる。

大人は入れないと言われると俄然のぞきたくなってしまうのが人の性というものだが、
残念ながら外のベンチで待つしかない。

 

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おかざき乾じろ 策 <<はじまるよ、びじゅつかん>> 2015年

 

3つ目のテーマは、教育について考えさせられる『社会はだれのもの?』である。
会田家(会田誠、岡田裕子、会田寅次郎)の作品が沢山ちりばめられている。

 

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岡田裕子×WiCAN <<教育×アート=? 〜えでゅけーしょんTV〜>>2014年

 

こちらは、クッキー作りというメタファーを通して子どもの独創的な発想の大切さと
枠にはめられることの抵抗を表現している。

ハートマークの女の子も、とげとげした暴れん坊の男の子も、みんな型抜きをされて丸くなっていくのだ。

全体的にポップなタッチの中に毒を含んだメッセージのバランスが絶妙で小粋な雰囲気がただよっている。
作品に単純な面白さがあると、自然と感情があふれてくる。

最後に広がる展示室のテーマは『私の場所はだれのもの?』である。

 

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アルフレド&イザベル・アキリザン≪「住む:プロジェクト―もうひとつの国」≫2015年

 

家や国、その境界線やその一体感について想いをはせることができる。
1つの家の大切さと安心感。自分だけの居場所、閉塞感や独自性。

その一方で見せる外への広がりは、これでもかとダイナミックに表現されている。
その場所は私たちにどんな影響を及ぼしているのか。

 

4つのテーマに分かれているいたこの展覧会。
大きなコンセプトは大人も子どもも考えること、そして感じること。
この展覧会の中で気になったことは、美術館に来ている子どもたちの反応だ。
一体彼らどう考えるのだろう。自由にアートを感じることができているのだろうか…と。なぜなら、
自由に自分が感じたことに自信を持てる子もいれば、そうではない子もいるからだ。
感情が上手く出てこないことや言葉にできないことに焦る子、大人が求める感想を言おう言おうとする子、
形にならないプリミティブな感性をもてあます子どもたち。

筆者は、そういった子どもたちとたくさん出会ってきた。

 

今回の展覧会の中で筆者のお気に入りは、2つ目の展示室の壁面に掲げられていた、おかざき乾じろ氏が書いた子ども向けの文章である。

 

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「はじまるよ、びじゅつかん」と題された文章の中には、美術館で作品をみることの意味、
その本質がとても簡単な言葉で書かれており、大きく感動した。

ー『芸術はひとりで感じるところからはじまる』『おとなは、じぶんが絵を見て感じたことを
ほかの人にうまくつたえられないことが心配なのです。ひとはことばでつたえられないから、
じぶんが見て感じたことに自信がもてないのです』『じぶん(だけ)が感じていることは何なのか、
それをつきとめようとすることが芸術のおもしろさです』ー

≪はじまるよ びじゅつかん 2015 おかざき乾じろ ≫

 

美術館でメッセージ性の強い作品を見た時、共感や表現の仕方への感嘆だけで終われば気持ちは晴れやかだが、
どこかもやもやした感覚が生じることがある。
それは、私たちは作者とは違う人であるから。全てが同じにならなくていい。
でも、そのある種の個に委ねられた自由さに人は心細くなり、違いが生まれれば生まれるほど、孤独を感じる。

そう、子どもだけではない。私たち大人だって同じ思いを抱えている。
答えがあるのではないかと勘違いして、自分の感じたことに自信がもてなくなるのはなぜだろうか。
人から認められたり評価されなければ不安になることがあるのはどうしてだろうか。
大人でも言葉にすればするほど、本当に伝えたいことが伝えられないもどかしさを抱えている。

 

大人も子どもも美術館では、感じることに正解は何もない。
自分が感じたままでいいし、もやもやしたなら、もやもやしたままでいい。
まずはその感覚を味わい、自分の感じたことや考えたことに向き合うこと、
そして受け入れてみることから、何事も始まるのだ。

そうすればきっと、ここではないどこかにつながることができるはず。
ここにはいない誰かとつながれるはず。

 

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会田寅次郎 <<TAN TAN TAN>>2015年

※最後の写真は、会田寅次郎くんが幼稚園の頃から頭の中に作り上げていた「TAN TAN TAN」という物語をみんなで楽しみながら撮り続けたビデオ。

自由に楽しむというプリミティブな感覚が筆者の心には広がった作品である。

 

【情報】

おとなもこどもも考える ここはだれの場所? 

会場:東京都現代美術館 企画展展示室1階
会期:2015年7月18日 – 2015年10月12日
開館時間:10:00-18:00 (7~9月の金曜日は21:00まで)※入館は閉館30分前まで
休館日:月曜日(祝日の場合は翌平日)
観覧料:一般1000円、大学生800円、中高生600円
HP: http://www.mot-art-museum.jp

 

文:Yoshiko

 



Writer

Yoshiko

Yoshiko - Yoshiko -

東京都出身。中高は演劇部に所属。大学、大学院と心理学を専攻し、現在は臨床心理士(カウンセラー)として、「こころ」に向き合い、寄り添っている。専門は、子どもへの心理療法と家族療法、トラウマや発達に関することなど教育相談全般。

子どもの頃から読書や空想、考えることが大好きで、その頃から目に見えない「こころ」に関心があり、アートや哲学にも興味をもつ。

内的エネルギーをアウトプットしているアートと沢山携わりたいとgirlsartalkに参加した。昨年はゴッホ終焉の地であったオーベルシュルオワーズを訪れるため、パリに一人旅をし、様々なアートを見てまわる。