これを読むと10倍感動する『ライゾマティクス_マルティプレックス展』
2006年結成 以来新しい技術の追求をし続けているライゾマティクス。
名前の由来は植物の根っこが横に広がっていく地下茎をネットワーク社会の比喩として採用された。視覚デザインから広告やエンタメまで非常に幅広い活動を行ってきた彼らにとって、本展覧会は初めての美術館で行う大規模な個展になる。
《Rhizomatiks × ELEVENPLAY “multiplex”》 2021 部分 展示風景
過去作品をメンテナンスし展示するのと、新しい作品をつくるのが同じくらいの労力だということから、ほとんどの作品が新作で構成されているライゾマティクス展。
この展覧会には音声ガイドがなく、解説シートだよりなのだが、だいぶ控えめである……。”実はすごいことを、大変な苦労しながらやっているのにさらりと展示している”という彼ららしい展示手法なのだ。実際にキュレーターの長谷川祐子氏やライゾマティクスの眞鍋大度氏、石橋素氏から各作品の見どころや制作秘話を伺ったので、紹介していきたいと思う。ぜひ鑑賞前に本稿を一読し、より作品への理解と感動を深めていただきたい。
本展は新作インスタレーションも多く、アーカイヴに関しても一部アップデート版を展示。また国内外で展開してきた活動の記録映像やハードウェアの実物の紹介もあり、彼らの過去から現在進行形の姿までを知ることができる。
会場は漆黒のスクリーンにライゾマティクスの歴史を振り返る映像インスタレーションで始まる。一見すると専らハイテクな映像に感じるが、実際は568個のプロジェクトにメタデータを付随し、
《Rhizomatiks × ELEVENPLAY “multiplex”》 2021 部分 展示風景
続いてバーチャルとフィジカルを横断する《multiplex》。縦長の広い展示室を活かした、舞台の最前列でダンスを観ているような気分になれるインスタレーションだ。
演出振付家MIKIKO氏率いるダンスカンパニー「ELEVENPLAY」のダンサーの動きをモーションデータ化し、映像プロジェクションや動く白いボックス型のロボティクスで構成した内容になっている。展示室の手前で映像を流すことで、実際の展示室にはボックスのみが動いているにも関わらずそこにダンサーの息づかいを感じることができる。
無機質な白いボックスだが、ダンサーと呼吸を合わせて滑らかに動く様はまるで自らが踊っているようだった。
音楽と映像は見る時間によって変わることもあるので、つい長居をしてしまう方も多いのでは。
《particles 2021》2021
個人的に最も興味深かったのは2011年に発表した作品「paricles」をアップデートした「particles 2021」。東京都現代美術館の地下2階から地上3階までの吹き抜け空間を利用し、高さ8メートルの螺旋構造のレールにボールを転がしながらレーザー照射が球の位置をトラッキングすることで、幻影的な残像を生み出す作品だ。
本作は目に見える物理的な部分は2011年とほぼ変わらないが、メカニズムが大きくアップデートされているという。当時は球体にタイマーを内蔵し光を発していたものが、高機能カメラで外部から位置を把握する形式になり、ミリ以下の誤差で位置情報を正確に把握できるようになったという。アップデートというと見える部分を更新ししたくなりそうなものだが、見えない部分で進化を遂げており、更に説明書きにもないことがなんとも憎い。
《Rhizomatiks Archive & Behind the scene》 2006-2021 部分》展示風景
これまで展開してきたPerfume(パフューム)やBjörk(ビョーク)とのコラボ作品にまつわる資料をじっくり見られるのもライゾマティクス_マルティプレックス展ならでは。エピローグとして、同展で使用されているシステムやデータを体験できるインスタレーションで締めくくる。
ものすごく近未来的でハイテクに見える作品群が、秋葉原などの電気街で調達できそうな部品で構成されており、手作り感満載で開発されている過程は衝撃的だった。
《R&D(リサーチ&ディベロップメント》2021– 部分 展示風景
フルスタック集団であるライゾマティクスはずっと”新しいタイプのアーティスト、クリエイター”だといわれてきた。本展でもテクノロジーの使い方や、新しい切り口の発想に驚かされたことは言うまでもないが、それと同時に、常に時代の最先端を走るために彼らはいつだってプロジェクトの公開ギリギリまで想像よりもずっと細かく、マニュアル的な努力もしている。明日なにが起こるかわからない世の中だが、新しく出てくる現象にも対応し、人間の感覚や感受性を刺激する作品を発表する彼らからは目を離せない。
《Epilogue》2021 部分 展示風景
また、会期中一部の作品はオンライン会場でも公開中だ。東京都現代美術館の空間を3Dモデルで再現し、鑑賞者が会場をウォークスルーするような擬似体験ができる。館内にいる観客の位置情報を(入り口で渡される身に着ける機材で取得し)ビジュアリゼーションし、オンラインとオフラインの鑑賞をクロスオーバーさせるという。
オン・オフラインどちらで鑑賞しても感覚的にも楽しめるライゾマティクス_マルティプレックス展をお見逃しなく。
《RTK Laser Robotiks Experiment》2021年 展示風景
文=山口智子
写真=新井まる
【開催概要】
ライゾマティクス_マルティプレックス展
■会期:2021年3月20日(土・祝)- 6月20日(日)
■休館日:月曜日(5月3日は開館)、5月6日
■開館時間:10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
■会場:東京都現代美術館 企画展示室 地下2F
■観覧料
一般 1,500円 / 大学生・専門学校生・65歳以上 900円 / 中高生 500円 / 小学生以下無料
※予約優先チケット(日時指定券)購入はこちら
※新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、緊急事態宣言期間中等状況によっては日時指定の予約優先チケットのみの販売となるため最新情報は公式サイトにてご確認ください。
※ 本展のチケットでMOTコレクションもご覧いただけます。ただし、コレクション展休室期間は、企画展入場時に後日ご使用頂けるコレクション展の観覧券をお渡しいたします。詳細はこちら
※ 小学生以下のお客様は保護者の同伴が必要です。
※ 身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方と、その付添いの方(2名まで)は無料になります。
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/rhizomatiks/
オンライン会場URL: https://mot.rhizomatiks.com/
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