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ヘルナン・バス個展『異郷の昆虫たち』

NEWS

2018年2月4日

ヘルナン・バス個展『異郷の昆虫たち』


 

少年から青年時代の狭間をたゆたう  ヘルナン・バス個展『異郷の昆虫たち』

 

 

 

今回、ご紹介するのはアメリカ・フロリダ州出身の画家、ヘルナン・バスだ。
彼は少年から青年の狭間に思いを馳せ、「ファッグ・リンボー(Fag Limbo)」とその期間を呼称し、作品の一貫したテーマにしている。

彼の日本初個展、ヘルナン・バス個展『異郷の昆虫たち』が六本木にある、ギャラリーぺロタン東京開催中だ。
ヘルナン本人が作品を説明する貴重な機会に立ち会えたので、彼の言葉を用いて作品の魅力をお届けしたい。

 

 

 


自身の作品の前で微笑むヘルナン・バス

 

 

 

その前に、本展の舞台となるギャラリーペロタン東京を今一度おさらいしたいと思う。

 

 

 

日本のアート界からの熱い視線を一身に浴びる『ギャラリーペロタン東京』

 

 

 

ギャラリーペロタンは、パリ、ニューヨーク、香港など世界の中でもホットなアートスポットにギャラリーを持ち、現代アート業界を牽引している。
オーナーのエマニュエル・ぺロタン氏の審美眼により、才能溢れる若手を世に送り出してきた。
2017年、満を持して日本の六本木にギャラリーぺロタン東京をオープン。
前回、開催された『TOILETPAPER Collaboration between Maurizio Cattelan & Pierpaolo Ferrari』は若者に人気となり、インスタグラムで大きな話題になるなど成功をおさめた。紹介する作家は骨太ながら、開かれた現代アートギャラリーだ。

 

 

 

#6_Hernan Bas View of the exhibition “Insects from Abroad”, Perrotin Tokyo, January 18-March 11, 2018 Photo: Kei Okano

 

 

 

ヘルナンが青年に投影した「昆虫の要素」「ダンディ」とは?

 

 

 

本展は、一冊の昆虫に関する古書がインスピレーションの元となっている。あえてクリーチャー的な要素を盛り込むことで青年たちの美しさが際立つ。

 

また「ダンディ」も本展のレイヤーの一つだ。「ダンディ」と聞いて日本人はポジティヴな意味合いを持つだろう。しかし、欧米では「軟弱」「ナヨナヨ」といったネガティヴなものだ。ヘルナンはその言葉のイメージをポジティヴに変革させるべく、展覧会に挑んだ。

 

 

 


#2_Hernan Bas While comforting to some, his melodies make for a noisy neighbor, 2017
Acrylic on linen
127 x 101,6 cm /50 x 40 in.
Courtesy Perrotin
Photo: Kei Okano

 

 

 

バイオリンが描かれたこの作品は「コオロギ」がモティーフだ。コオロギはバイオリンのような声で鳴くことに本作は起因している。注視すると足は細く長くデフォルメされ、扇は羽を連想させる。「具体的ではなく、ストーリー性を隠すのが好き」とヘルナンは語った。

 

 

 


When ready to mature it takes its first breath as an adult under the protection of night, 2017
Acrylic on linen
127 x 101,6 cm /50 x 40 in.

 

 

 

シェイクスピアのハムレットの一場面にも思えるこちらの作品は、「トンボ」がモティーフだ。彼はヤゴ(トンボの幼虫)であり、今まさに羽化しようとしている。身を潜め続けた青年(トンボ)は、憧れの外の世界へと旅立つ。しかし、外の世界には蜘蛛の巣が張られ、不穏な雰囲気が漂う。大人社会へ足を踏み入れることに対する不安を暗喩しているのではないだろうか。

 

 

 


The case for Mullerian Mimicry, 2017
Acrylic on linen
127 x 101,6 cm /50 x 40 in.

 

 

 

上の作品は特定の昆虫をモティーフとしていない。タイトルの中の「Mullerian Mimicry」は「擬態」といった意味だ。沢山の鏡と分厚い眼鏡は「自己防衛」の表れだ。ヘルナンは、「彼が今回の展示の中で一番隠れているかも」また「日本のアニメキャラクターのようだと今気づいた」とも。

 

 

 

子供から大人へ…。ヘルナンが持つ少年性への永遠の憧憬

 

 

 


Hernan Bas – Unlike other members of his species, camouflage is not in his favour, 2017
Acrylic on linen 127 x 101.6 cm

 

 

 

「自分はいったい何者なのか」。ヘルナンは思春期からずっと思案してきた。それは彼がホモ・セクシュアルであることとも関係するのかも知れない。
寂寥感と懐かしさが混在するヘルナンの作品は、私達は皆、昔は「小さな哲学者」だったことを思い出させる。様々な問いの前でおののき、自分でもコントロールできぬほどの若さゆえのエネルギー。
ヘルナンは「ファッグ・リンボー(Fag Limbo)」を繰り返し考えることによって、自身の中の少年の頭を撫でているのだろうか。

 

 

 


数年前、鳥をモティーフにした作品群を描いたが、今回は昆虫ということで、美しく見せるのが困難だったというヘルナン。作品を見渡しながら「みんな、私の可愛いモンスターです」とはにかむ姿は、ティーンエイジャーのようだった。

 

 

 

終わりに

 

 

 


#1_Hernan Bas Unlike other members of his species, camouflage is not in his favor, 2017
Acrylic on linen
127 x 101,6 cm /50 x 40 in.

 

 

 

現在、青年を描いているヘルナンだが、今後は描く人物が大人になる可能性も示唆した。ギャラリーに足を踏み入れた瞬間、圧倒的なストイックさと心地よい緊張感を覚える、ヘルナン・バス個展『異郷の昆虫たち』。是非、ヘルナン・バス、そしてギャラリーぺロタン東京に今後ともご注目頂きたい。

 

 

 

テキスト・写真 鈴木佳恵

 

 

 

【展覧会概要】
ヘルナン・バス個展『異郷の昆虫たち』
会期:2018年01月18日~2018年03月11日
会場:ギャラリーぺロタン東京
住所:東京都港区六本木6-6-9 ピラミデビル1F
開館時間:11:00~19:00 月曜・日曜休館
入場料:無料
ホームページ:https://www.perrotin.com

 

 

 

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Writer

鈴木 佳恵

鈴木 佳恵 - Yoshie Suzuki -

フリーランスの編集者。
広告代理店に勤務後、フリーランスに。
得意分野は映画と純文学。
タルコフスキーとベルイマンを敬愛し
谷崎潤一郎と駆け落ちすることが夢。

 

暇があれば名画座をハシゴしています。