自由を求め、孤高を貫いた女性作家の生き様を知る【篠田桃紅展】
昨年107歳で惜しくもこの世を去った篠田桃紅(1913~2021)。東京では初となる回顧展「篠田桃紅展」が東京オペラシティ アートギャラリーで開催中だ。
篠田桃紅に対していて抱いていたのは、偉大な書家であり中々若年層には敷居が高いイメージであったが今回の展覧会を見てその先入観は大きく変わることになった。
ジェンダーレスや男女平等、個性の尊重を主張する現代を生きる人にこそ観てほしい展覧会で、時代の風潮に流されず公私共に芯を持って生きた女性に強い憧れを抱くことになった。
篠田桃紅は中国大連に生まれ、東京で育つ。
幼少より厳格な父の手解きを受けながら書に親しみ、成長するにつれ自由な表現を志した。その後、文字に囚われない抽象的な作品を手がけるようになった後に単身渡米し、ニューヨークで約2年にわたり活動。抽象芸術と日本の前衛書が時代の先端で響きあうなか、その表現は大きな注目と高い評価を獲得していく。
この渡米などの経歴が”戦後すぐ”であり、且つ”女性”のものであるということは当時の日本ではかなり特別な存在だったのではないだろうか。
帰国後は書と絵画、文字と形象という二分法でもなく、一般的な分類に分けることがができない独自の抽象表現を確立していくのだが、彼女は終始いかなる団体や動向からも少し距離を置いておりいわば一匹狼のような存在だったという。
今回の展示では70年を超える活動の中の120余点もの作品・資料を一挙に鑑賞できる。
初期作品のころから晩年まで彼女が一貫して深層ではブレがなく作品を生み出していたことを再確認できる展示だ。“いろは”や“火”など年代をまたいで好んで使われたテーマも多く、それを比較するとその時の視点や成熟していく技術力は感じるものの、受け手が感じる作者の意思はさほど変わらない。自由を好むことは器用に生きることよりも覚悟がいるのではないだろうか。おそらく、楽ではなかった中でも自由を追求していくことで生み出される作品は“彼女らしい作品”となり、その作品は置かれる空間までも巻き込んで特別な存在を放つのだと感じた。
身近な自然や日々のくらしの森羅万象に感覚を研ぎ澄まして向き合い、晩年にいたるまで、衰退することなくむしろ感性的体験の豊かさを強めながら制作を続けた桃紅氏。彼女は自らの作品を「こころのかたち」と呼ぶのを好んだそう。
“「こころ」とは、 たんに自分の「気持ち」というよりも、さまざまな事象によって自身の内にもたらさ れる感覚の総体、身体や五官をまきこむ感覚の総体、その豊かさを指しているように思われます。桃紅の作品には、人間の感性的な体験のあらゆる局面が、凝縮して表現 されているのです。”―プレスリリースより抜粋―
抽象的な作品であったとしても観るものに共感をもたらす不思議な感覚は、日々の暮らしの中で注意すれば感じることのできる感覚がテーマだからなのかと納得した。
個人的には特に渡米を経たあとの太い線や面の構成による抽象表現が印象的だった。和の空間にも洋の空間にも、はたまた無垢な空間にも心地よく馴染むような作品たちだった。強く、骨太な造形が彼女自身を強く投影しているようで魅了されたのだろう。”いつか部屋に飾りたい”そう思ったのは作品の中にしっかりと彼女の生きざまが宿っているからかもしれない。
まだまだ知られているようで深く知られていない、篠田桃紅というかっこいい女性の生きざまを、作品を通してぜひ体感してみてほしい。
文:山口 智子
写真:新井 まる
【篠田桃紅展 開催概要】
展覧会名:篠田桃紅展
会期:2022 年 4 月 16 日[土]― 6 月 22 日[水]
会場:東京オペラシティ アートギャラリー(ギャラリー1,2)
開館時間:11:00-19:00(入場は 18:30 まで)
休館日:月曜日(ただし 5 月 2 日は開館)
入場料:一般 1200[1000]円/大・高生 800[600]円/中学生以下無料
*同時開催「収蔵品展 073 1960‒80 年代の抽象」「project N 86 諏訪未知」の入場料を含みます。
*[ ]内は各種割引料金。障害者手帳をお持ちの方および付添 1 名は無料。割引の併用および入場料の払い戻しはできません。
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