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新人作家が集結!アートの今と未来を知る、「VOCA展2022」

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2022年4月4日

新人作家が集結!アートの今と未来を知る、「VOCA展2022」


新人作家が集結!アートの今と未来を知る、「VOCA展2022」

 

今年で29年目を迎える、若手アーティストの登竜門・VOCA展。

毎年日本全国の美術館学芸員や研究者が、40歳以下の作家を対象に作品を推薦・依頼し、新作が発表される形で、平面美術における若手作家が表彰される。

全33作品は、東京・上野の森美術館にて、2022年3月11日(金) 〜 3月30日(水)の20日間開催された。

 

 

川内理香子 《Raining Forest》 油彩,カンヴァス

 

今年のVOCA賞を受賞した川内理香子は、以前から身体や色をテーマに作品を展開してきた。《Raining Forest》も、身体の内側を思い起こさせる赤やピンクの色使いと、臓器の襞のように厚く塗り重ねられたペインティングが特徴的だ。中央にはペインティングナイフで彫るようにして描かれたジャガーが鎮座し、周囲にはヤシの木も見て取れる。

 

 

川内は、今作品はレヴィ=ストロースの分析した南アメリカやアフリカの神話と、自身の身体や食に対する関心に共鳴する部分があったことに端を発すると語る。「レヴィ=ストロースによると、神話に登場する動物には隠された意味があり、その意味の整合性で物語が成り立っていると分析している。例えばジャガーの裏には、消化や排泄など食や身体に関することが暗喩されているという文献を読んだとき、元々食や身体に関心があった私の思考の中にジャガーが入り込んでくるような感覚があった。」

 

ジャガーは、自然のヒエラルキーの最高峰でありながら、神話では火をもたらす存在として知られている。自然と人間を結合し、分断させるジャガーの両義性は、肉体と精神の狭間で揺れ、自己と他者の曖昧さを保有する身体とも重なるとも述べている。

 

 

 

鎌田友介 《Japanese houses (Taiwan/Brazil/Korea/U.S./Japan) 》 アクリル塗料・インク・鉄・アクリル板・インクジェットプリント・紙・韓国に存在した日本家屋の部材、木材

 

VOCA奨励賞を受賞した鎌田友介の作品、《Japanese houses (Taiwan/Brazil/Korea/U.S./Japan) 》は、フィールドワークで訪れた台湾、朝鮮半島、ブラジルの日本家屋の現在と、日米の戦争の歴史を物語る資料を、床の間を模した空間でコラージュした作品。日本の外にあった日本建築の歴史を、床の間という内の空間で再度凝縮させている。中央下にお供え物のように置かれている廃木も、マンション開発によって取り壊されていく韓国の日本家屋の一部である。

 

 

右には計3枚の額縁に入れられた資料が並ぶ。上下はそれぞれ、アメリカの焼夷弾実験と、日本の耐火木材実験の資料。中央は、アメリカ側として実験に参加しながらも、戦前日本で活躍していた建築家アントニン・レーモンドの手掛けた日本の建築図面だ。日本家屋を背景に、さらに1人の建築家の人生が軸となって語られる、戦争の記憶。壮大な時間の経過が1つに抽出された、その濃度は計り知れないものがある。

 

 

 

小森紀綱 《絵画鑑賞》 油彩・アクリル・膠、麻布・ 木製パネル

 

大原美術館賞を受賞した小森紀綱は、1997年生まれと若手の中でも若手の作家だ。《絵画鑑賞》は、多くの宗教で用いられ、性別を問わない、黒のワンピーススタイルを身に着けた宗教画のアイコンたちが美術作品を鑑賞している様子が描かれている。よく見ると、風神雷神図までアイコンに成り代わっているのが面白い。

特に注目したいのが、作品右半分と、作品左端に確認できる円。仏教用語である三界を表現したという今作品は、鑑賞者の位置する欲界から、欲のない色界をのぞき込む構図として描いている。そして、画中の色界にはさらに物質のない無色解へと続く円が連なる。

実家がお寺を営み、母はカトリック信徒であるという小森のバックグラウンドを十二分に感じさせる、新鮮で普遍的な宗教画のスタイルが見て取れた。

 

 

 

 

会場の中でも、どこか遺跡のような歴史の深さを感じさせる、《知覚の標本》。作者の野原万里絵は、インド・デリーにあるクトゥブミナールを来訪した際に、多彩で奥深い石の魅力に惹かれ、制作を開始した。

 

 

それぞれのブロックは、青森県の磯松海岸を中心に、野原の集めた石がベースとなっている。

そしてこれらは、遺跡が大勢の手によってつくられるように、一般の方と協働作品であるという。人間の個性と、石の個性。それぞれが呼応しながらまた新しい表情を見せている。

 

それぞれのブロックが、どんな石をベースにしているのか、石の形に変換しながら鑑賞してみるのもオススメだ。

 

受賞作品以外にも、自由でまっすぐなテーマや表現手法で挑む33人の作家たち。

若手ならではのバイタリティも相まって、アートの概念がグンと拡張されたかのような、新鮮で盛りだくさんの展覧会であった。

 

 

文=荒幡温子

写真=新井まる

 

 

 

【展覧会情報】

VOCA展2022

会場:上野の森美術館

〒110-0007 東京都台東区上野公園1-2

会期:2022年3月11日(金) 〜 3月30日(水) ※会期終了

開館時間:10:00 〜 17:00(入場は閉館30分前まで)

入場料:一般800円/大学生400円/高校生以下無料

※障害者手帳をお持ちの方と付添の方1名は無料 (要証明)

Webページ:https://www.ueno-mori.org/exhibitions/voca/2022/