「日本人が夢見たフランス」を再発見する旅へ
「夢見るフランス絵画」展
「夢見るってどういうこと?」
パステルカラーのタイトルに、添えられた絵画はモネ、ルノワール。ああ、マダムに大人気の印象派かと素通りしてしまったひともいるかもしれない。でもこの展覧会、じつはワクワクするような裏の顔を持っていました。
それは、「コレクターが夢と憧れを抱き集めたコレクション」であること。日本の個人コレクションで構成された展示に共通するのは、日本人が抱くフランス、芸術の都パリへの疼くような憧れ。「夢見る」とは「日本人が夢見たフランス」という意味だったのです。
プロローグ、ドビュッシーの三重奏曲を聴きながらとある邸宅の玄関のような入口を過ぎると、まずはセザンヌがお出迎え。進むとモネ『睡蓮のある池』やルノワール『宝石をつけたガブリエル』が現れます。
しかし、そこを通過すると現れるのは、少々ゴシックな世界観のボナール『トランプ占いをする女』やヴラマンクの風景画。つづくジョルジュ・ルオーと合わせて、そのほの暗さには不思議な吸引力があります。
個人的にはフォービズムやキュビズムを経てゴシックや古典派の表現に還ったというアンドレ・ドランの『森の妖精』や『花瓶の花』がお気に入りでした。まるでロココの画家シャルダンやラ・トゥールみたい!
明るいデュフィの絵画でお口直しした後は、膨大なユトリロ・コレクションがスタート。直線とモノトーンの「エコール・ド・パリ」の世界です。外国人芸術家たちが集い、第一次世界大戦の傷跡から立ち直ろうともがいていたモンマルトルの熱気が、静寂から伝わってきます。
印象的だったのが、ポーランド人画家キスリングの『若い女性』。なめらかな質感と鮮やかな色彩が現代的で、際立っていました。
そしてやっぱり大好きなのが、藤田嗣治やマリー・ローランサンのスモーキーな薔薇色。淡いピンクとミント色で構成された壁面にも美しく映え、展示室の中心にいるだけで幸福でした。中心のベンチにはかわいいチェック柄で、それがちゃんとスペースの雰囲気にマッチしているのも好印象です。
全71点の小ぶりなサロンの雰囲気。あえての「日本人が夢見たフランス」というコンセプトも明確で、宝塚のような懐かしさと発見の両方があり、ひたすら心地よい展覧会でした。音声ガイドのフランス音楽や草刈正雄さんの解説をプラスすれば、その思いはきっと深まるはず。堀口大学にならってつぶやいてしまうでしょう。
「おお、なんという驚き、なんという喜び!」
「夢見るフランス絵画 印象派からエコール・ド・パリへ」
12月14日まで開催中
Bunkamura ザ・ミュージアム
取材・文:高野麻衣
撮影:チバヒデトシ