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不死身の関係性の美学 日々変化するアートを縦横無尽に楽しむ リー・ミンウェイとその関係 展

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2014年11月1日


不死身の関係性の美学 日々変化するアートを縦横無尽に楽しむ  リー・ミンウェイとその関係 展


 

 

不死身の関係性の美学 日々変化するアートを縦横無尽に楽しむ

リー・ミンウェイとその関係 展

 

 

現在、台湾出身でニューヨークを拠点に活躍するアーティスト、リー・ミンウェイ。森美術館では、過去20年の歩みを俯瞰しつつ、新たな試みにも触れる「リー・ミンウェイとその関係展」を開催しています。ミンウェイは、参加型アートと呼ばれる、観賞者が積極的にプロジェクトや対話に参加することで成立するタイプの作品で知られています。参加することで観賞者に他者や周囲との「関係性」を様々な角度から意識させる、作品=プロジェクトのテーマが、食べることや寝ること、衣服や花といった身近なもので、参加のハードルを下げているのが特徴です。

 

 

本展覧会は、作者がオープン初日の時点では、「展覧会の完成度はまだ40パーセント」と述べているように、観賞者が展覧会に訪れることで、どんどん展覧会全体を巻き込み変化し、107日間の会期中にどんどん進化していく様子を楽しめるものとなっています。また、ミンウェイの個展でありながら、ミンウェイが影響を受けた古今東西のアーティストや思想家などの系譜を辿ることで、展示全体にさらなる厚みを加え、魅力を倍増させています。

 

 

 

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会場は、ミンウェイの作品を、関係性やつながりそのものについて、日常の継続性、そして個人の記憶から文化・社会のつながりを考える、という3つのテーマ別セクションから構成されています。

 

 

 

◯セクション1:関係性、つながり、あいだについて考える

 

 

 

ここでは、観賞者と世界や環境、他者を含む「周囲」との関係性やつながりに意識を向ける作品が集められています。最初の大きなギャラリーでは、壁面に無数の色とりどりの糸巻きが配置され、長細い長方形のテーブルの前で黙々と繕いものをしている女性の姿が目に飛び込みます。これは「プロジェクト・繕う(つくろう)」という作品で、会場内に観賞者が持ち込んだ衣類をホストやアーティストが繕ったり、刺しゅう糸で飾ったりしていくものです。繕い終えた布類は、右端からテーブルに並べられていくのですが、全て壁一面に刺さったとても細いコーン巻の糸とつながったままで、会期が進むにつれて巨大なクモの巣のようなものに空間が覆われるようになるようです。

 

 

 

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《プロジェクト・繕う(つくろう)》(2009年)。お針子のホストや作家にどんな風にアレンジしてもらうか、相談できます。壁一面に美しい刺繍糸が取り付けられ、作品とつながっています。

 

 

 

セクション1には、このほか、真っ暗な部屋で、暗闇の中、砂時計のようにさらさらと一筋の砂が天井から床へとすべり落ちるさまを細い一抹の光が照らす「往くと留まるのあいだ」や、作家がニュージーランドで拾ってきた石とその石のそのまま摸したものを並べて展示する代表作「石の旅」(2012)、17世紀の台湾の山水画の名匠、石濤(せきとう)の山水画を11人の現代アーティストが伝言ゲームのように模写していく「名匠の目」などが展示されています。

 

 

 

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《石の旅》(2012年)

 

 

 

ミンウェイ自身の作品や思想の文脈を示す「参照作品セクション」では、作家が影響をうけた鈴木大拙をはじめとする禅の思想家や書家、彼の作品の背景にある歴史、文化、社会的な文脈を位置づける上で重要な役割を果たしているであろう、イブ・クラインやジョン・ケージ、アラン・カプローらのコンセプチュアルアートやハプニングの先駆者たちの作品、そしてさらには、小沢剛やリクリット・ティラヴァーニャといった同世代の作家たちの作品を、壁に記された彼ら自身の言葉と共に観賞することができます。

 

 

 

セクション2:歩く、食べる、眠る、日々の営みを再考する

 

 

 

このセクションは、個人的に一番胸が高鳴る作品が多くありました。ここでは、希望者の中から抽選で選ばれた観賞者がアーティストとの直接的な対話や睡眠、食事といったイベント的な交流を通して、移ろい行く日々という時間を過ごすことを丁寧に再考できます。これらの作品は、イベントに使われるステージやその成果物が展示のメインとあり、観賞者は実際のイベントそのものに立ち会えるわけではなく、またそれらの記録が公開されたりしないのが特徴的で、想像力とプロジェクトの内容への自分なりの解釈が、観賞する上での重要なポイントと言えます。

 

 

 

「プロジェクト・ともに眠る」

抽選で選ばれた参加希望者が、美術館で他人(作家やスタッフ)と一夜を共にするという作品です。家出少女がN.Y.のメトロポリタン美術館に泊まるという設定の名作少女小説、「クローディアの秘密(著:E・Lカニスバーグ)の世界が堂々と実現されてしまう、美術館好きにはたまらないチャンス!

夜の美術館という非日常的な空間において、「眠る」という日常行為を他人と行うことにより、参加者は他者との関係性と信頼について考えさせられます。また、ベットサイドには参加者が自分が普段ベッドサイドに置いている好きなアイテムを持ちこみ、それらのアイテムは、会期中、そのまま作品として展示され、徐々に展示物が増えていくのです。

 

 

 

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《プロジェクト・ともに眠る》(2000年)

 

 

 

「プロジェクト・ともに食す」

こちらは、眠るプロジェクトと同様、見知らぬ人と食事をするプロジェクト。過去に行われた同プロジェクトの記録映像がたたみ敷きのダイニングセットの壁に投影され、観賞できます。このプロジェクトも抽選で参加者を決めますが、実際に作家と食事できるチャンスとなります。食べる、という日常の一コマを、美術館という非日常空間で行うだけで、その体験が忘れられないひと時へと華麗に変化します。

 

 

 

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《プロジェクト・ともに食す》(1997年)

 

 

 

「ひろがる花園」

このセクションでもっとも目を引くのがこの作品。巨大な石のような直方体の亀裂に鮮やかな花々が生けられており、観賞者はこのから一輪抜き取り、美術館を出て、なるべくいつもと違う道で帰り、その道すがら、見知らぬ人にこの花を贈るように指示されるという、美術館の空間を超えて展開するプロジェクトです。美術館を中心とした周囲の街に、ガーベラの鮮やかな花が繁殖していき、出会う人々や、花に対する新たな関係性が構築されます。見ず知らずの人に何かを贈るという行為は、知人や友人に贈ることとは全く異なる次元の関係性が生まれるきっかけとなりそうです。美術館から出ていく人々が、ガーベラを一輪手に携えてそれぞれの家路につく様子は、とても詩的で見る者の想像力を掻き立てる力がありますね。

 

 

 

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《ひろがる花園》(2009年)

 

 

 

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《ひろがる花園》。モデルになってくださったボーカリストの茂木みゆきさんは、帰り道、素敵な老婦人にガーベラを受け取っていただいたとか。

 

 

 

セクション3:パーソナルな記憶から歴史、文化への繋がりを考える 

 

 

 

このセクションでは、作家自身と社会や歴史とのつながりや影響を「記憶」を通じて考察できる作品に囲まれます。一般の方々から募集した思い出深い布製品とストーリーを一緒に、桐の箱におさめ、ステージに展示した作品「布の追想」では、観賞者が靴を脱いでステージに上がり、他人の思い出の品が収められた箱の前に座し、紐を解いて蓋を開けて作品を観賞する、という一連の儀式のような動作を促すもので、この“儀式”により個人的な思い出がパブリックな作品に見事に姿を変えていくさまが体感できます。

 

 

 

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《布の追想》(2006年)。「なぜか正座してしまいますね」とモデルを務めてくださったライターの弓月ひろみさん。畳だからかな?

 

 

 

また、送れなかった言葉や気持ちを手紙を書く専用ブースで綴り、投函あるいは、展示用に会場に託せる「プロジェクト・手紙をつづる」といった観賞者が個人の記憶や思い出を振り返ることができる作品が展示されています。いずれの作品も他人の記憶の断片を覗いているのに、なぜかどこか懐かしく、しんみりとした気持ちになります。言えなかった思いを手紙に託してみたいという願望をどこかに抱え、目にするだけで思い出が蘇るような手作りのセーターやぬいぐるみをたんすの奥に置き忘れていることを思い出すからでしょうか。

 

 

 

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《プロジェクト・手紙をつづる》(1998年)。立って書くブース、椅子に座って書くブース、直に座って書くブースと3つのブースがあり、それぞれのブースで書く内容もかわりそうです。

 

 

 

本展の締めくくりに用意された「リビングルーム・プロジェクト」は、ガラス張りの東京の街を一望できる眺めのいい部屋に設置されています。ここで観賞者はソファで休みながら、部屋にいる森美術館や六本木ヒルズゆかりのあるホストと交流し、話を聞くことができます。このリビングルームは、20世紀初頭にボストンにあったアートコレクターのイザベル・スチュアート・ガートナーのサロンをイメージしたものであり(現イザベル・スチュアート・ガートナー美術館 ボストン)、オウムがさえずる鳥かごなどが当時の様子を彷彿させます。

 

 

 

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《リビングルーム・プロジェクト》。ゆったりと静かなサロンがひとたび人が集まれば活気ある場所に。

 

 

 

この部屋の窓際には、本展唯一の新作「星の星座」があります。これは、医師だったミンウェイの祖母が、診療の合間に休憩用に使っていた椅子で、座って六本木の街を見下ろして、景色を楽しんでいるとコップに入った水をスタッフが運んでくるという作品です。現代に生きる展覧会の訪問者が、六本木ヒルズの53階で故人であるミンウェイの祖母の愛用の椅子に座り 、観賞してきた作品に思いを巡らせ、新たな活動の源となる水を飲んでリフレッシュできます。

 

 

 

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《星の星座》(2014年)。ミンウェイさんのおばあさまの椅子に自分が座っているという不思議。この展覧会を通じて、縁(えにし)というものを感じました。

 

 

 

参加型アートの展覧会、と聞いて漠然とした不安なイメージが頭をよぎって二の足を踏むかもしれませんが、実際に本展に足を運べば、意外に気軽に楽しめる参加型アートの楽しさに目覚め、現代社会の写し鏡のようなプロジェクトを通じて、自分の新たな一面を発見したり、見知らぬ人と交流したり、さらには自分の過去や思い出と新たな関係性を構築できるのではないでしょうか。私は本展を通じて、どこかアンバランスさが介在する展示風景に強く魅了され五感を刺激されました。

 

ミンウェイの作品は、人間と他者や環境、歴史文化との関係性やその文脈をアートの素材としています。そのため、同じ作品を他の美術館で展示しても、人や場所、時代が異なるので、よい意味で再現性が低く、常に新しい作品であり続けることから、普遍性を追求するアートとは対局に位置すると言えます。美術館という固定された展示空間で、このような高度に流動的な展示を行うのは、相応の運営リスクや困難が生じるだろうと想像されます。だからこそ、本展を開催した森美術館の英断を支持したいと思います。

 

 

 

 

 

【開催概要】
リー・ミンウェイとその関係 展 参加するアート-見る、話す、贈る、書く、食べるそして世界とつながる
会期:2014年9月20日(土)〜2015年1月4日(日)*会期中無休
開場時間:午前10時〜午後10時 (火曜日のみ17時まで)*12月23日(火)は22時まで
会場:森美術館 (東京・六本木)
http://www.mori.art.com

 

 

 

 

執筆:ソウダミオ、モデル:茂木ミユキ、弓月ひろみ、記事監修:チバヒデトシ