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「その時のあの事と、3つの切れ端」大矢加奈子さんインタビュー

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2014年12月5日

「その時のあの事と、3つの切れ端」大矢加奈子さんインタビュー


Interview この人に会いたい!

「その時のあの事と、3つの切れ端」

大矢加奈子さんインタビュー

 

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表参道にあるhpgrp GALLEY TOKYOにて個展を開催していた(2014年10月31日(金)-11月24日)画家の大矢加奈子さんに作品やその世界観ついてお話をお伺いしました。

 

 また、その後大矢さん自身の作品を使ったコラージュ作品を一緒に制作できるワークショップにも参加し、大矢さんの世界観に浸りつつもこれからのギフトシーズンに喜ばれそうなアートボックス作りを体験しました。

 

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大矢加奈子さんは、美大卒業後、新進気鋭の画家として数々の美術賞を受賞、その独特の世界観と繊細な描写力で日常の風景や少女といった身近なテーマを中心とした絵画作品を制作し続けています。大矢さんは2009年のH.P FRANCE WINDOW GALLERYでの個展を皮切りに年に一度ほどのペースで個展を開催しており、今回が6度目の個展となります。(同時開催:ドローイング・コラージュ作品展 11月22日(土)-24日(月/祝))

 

 

 

 

<大矢加奈子さん インタビュー> 

 

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Q.作家を目指したきっかけや、美術に興味をもった理由を教えてください。

とにかく描くこと自体が、幼いころからとても好きでした。具体的なモチーフではなく、迷路や図形をひたすら描いていた事が多かったです。描くことはとても身近であり気持ちが落ち着く行為です。幸いなことに、両親も理解を示してくれたため、自由に絵を描き続けて美大に進学し現在に至ります。

他のメディアに比べ、紙という身近な素材に線を引くだけで世界が作れる感覚が親しみやすいため絵を描き続けています。

 

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Q.「その時のあの事と、3つの切れ端」という個展のタイトルはどんな意味がありますか。

 

これまでも作品を制作するときには、自分の体験や記憶からヒントを得て意識的に作ってきました。今回の個展の作品は特に、記憶、記録をテーマに探った作品が多いです。自分の中で印象的な出来事や逆に何にも印象が残っていないのに記録が残っている事柄、そんなはずはないと記憶違いをしていたような事柄などを抽象的にあらわした言葉が、「その時のあの事と、~」になります。

 

「3つの切れ端」については、生活していく中で周囲と切り離して存在することができない自分や事柄に対して、自分が選んできたもの、逆に選ばなかったもの、あいまいでありながらも、存在しているであろうものを混在させて、もう一つの世界として作品を作り出したい、といったイメージからタイトルをつけました 

 

Q.日常的な動作や場面をモチーフにした作品とそうではない非日常を扱った作品が本展には混在するようですが、どちらも大矢さんの頭の中に残っている記憶から制作されているのですか?

 

そうですね。ただ、一連の「風景」というタイトルの作品群は昨年VOCA展2013に出展した作品の一部であり、この作品に関しては、目の前に見ている風景は本当に存在しているのか、その確証はどこで得ることができるのか、そのことを裏返せば自分自身の存在を問うことになるのではないかと思い制作をしたものです。

 

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今回の個展では、「海」(2014)や「テーブルクロスと鳩」(2014)などの作品がメインとなります。これらの作品には、部分的にコラージュを取り入れており、それは直前に pratique vol.0 というコラージュをテーマにしたグループ展に参加していたことに起因しています。

 

今までも日常的に写真を撮ることは多かったしコラージュという作業は行っていましたが、それらを作品として表に出したことはありませんでした。どちらかというと、下絵や考察という感覚をもって位置づけていたのですが、それらを分けずに作品の一部として発表しても良いのではないかと思い、今回の様な形になりました。

 

Q.コラージュ部分は記憶のかけら、のようなものですか?

そうとも言えます。

 

Q.今回の個展で特に注力した側面はありますか。また、それはどんなことですか。

 

これまでは比較的作品として描いたものを発表したいという思いや描くことへの執着が強く、また描くことからリアリティを得ていたふしがありました。しかし、pratique vol.0 コラージュ展に参加した体験などから、そのこだわりから一度離れてもう少し柔軟に制作に取り組めるようになりました。

 

「海」(2014)の中のクマのぬいぐるみの絵や、「テーブルクロスと鳩」(2014)のテーブルクロス部分のように、画中にさらに絵を描いたり、実際に手に取れる紙の破片を絵の中に入れ込むことで、現実を絵の中の架空の世界に組み込むというような並列の扱いをしています。そうした構造そのものも、展覧会のテーマと絡んだ作品になるよう意識しています。

 

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Q.今回の個展は記憶や記録をキーワードにしているそうですがご自身の中ではどんな記憶が強い思い出をもっていますか?

 

性格的なものかもしれませんが、個人的には記憶というものには縛られてしまう部分があります。記憶はあいまいで不安定なものであるにもかかわらず、時にそれに縛られて動けないこともあります。また、記憶があまり残っていなくてもその時に感じたであろう感覚だけが残っていたりすることもあります。

 

例えば実家にある焼き物の花瓶を、私が作ったものだと親が大切にしてくれているのですが、私にはそれは私が作ったものではないという記憶だけが残っていてもやもやとします。そういった不安感をみなさんも抱いたことがあるはずです。

 

記憶がなくなってしまったら、自分の存在はとても不安定なものです。一方で人は記憶に頼って生活をしているわりには、その記憶があいまいあることを自覚しておらず、そのことに気がつくと、とても不安になります。私自身は、そうした体験から自分という存在のあいまいさ、を認識しました。誰かに覚えてもらっていなくなったら自分はどうなるのでしょうか。

 

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Q.記憶と記録の食い違いがあるといったことでしょうか?

 

記憶も記録も、とても曖昧だと思います。
そういう体験の積み重ねが、形として作品に出てきている部分もあるかもしれません。 

 

Q.今回の作品の元になった記憶やエピソードはどんなことですか?

 

具体的な記憶がベースというより、日常的に写真を撮っていているのですが、後々写真を見返したときに、この写真は本当に自分がとったものだろうか、こんなものは見た記憶がない、などと思うことがありました。そういう経験も今回の作品のきっかけになっています。

 

Q.それでは、覚えているエピソードというより忘れていたものをかき集めたということでしょうか?

 

それも多いかもしれません。モチーフとしては、自分にとって価値があるもの、価値を見過ごしていたもの、あるいはそのものの存在が確かではないもの、他人の記憶や記録にだけ残っているものなど全てを一緒くたにして並べ直して、別のものを作る段階で、自分が描いたり、位置を決めるという制作行為にリアリティを求め、さらにはそこから現実的な感触が生まれるということだと思います。

 

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Q.大矢さんの作品には、「少女」がよく描かれています。同様に「少女」をモチーフに作品を制作するは作家は国内外にいますが、特定の作家からの影響は受けていますか。

 

私自身たくさんの作品を観て色々な影響を受けているので、他の作家から何らかの影響を受けていると思います。少女という素材は魅力的ですし、私が経験してきた過程であることは、自身の経験や考えを投影するのにちょうど良いと思っています。女の子を深く掘り下げるというよりは、モチーフとして扱いやすい対象の一つです。西洋の古典絵画の描かれ方は参考にしていますし、今回もモチーフの角度などフェルメールの絵画の女性像から影響されている部分があると思います。

 

Q.具体的には、少女のどんな側面に興味があるのですか?

 

形態やフォルム、着飾る姿に興味があります。それから、不安定さ、あいまいさ、の中に不思議な強さを持ち合わせているところ、などです。

 

Q.描かれる女性像のモデルはご自身なのですか?

 

あくまでモチーフとして女の子を描いていますが、形を求める上で自然と自分に似てくることはあると思いますし、自分の考えが表れているという部分では自画像的な側面もあるとは思います。ただ、意識的に顔を影でぼかしたり、目や表情などをつくり込まず、あいまいな状態に描くことで、特定の人物ではなく、単に少女として認識できるようにしたいと思っています。また、肌も人形のような質感に仕上げるなど、イメージとしての少女を描いています。もっと言えば鑑賞者も自身を投影しやすい姿を描いているのかもしれません。

 

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Q.今回の個展を通じて観賞者に伝えたいメッセージはありますか。またそれは、
どのようなものでしょうか。

 

固定したメッセージはあまりありません。ただ、作品を発表することは時に自身の弱い面をさらけ出すことでもあり、私にとっては勇気が必要な行為です。しかし作品を見た人から、安心したとか共感できたといった感想を聞くと発表してよかったと思います。そういうお話を聞くことで、ある意味自分も救われるような感覚を抱きます。何かメッセージを伝えたいというよりも、私は自分の為に作っている部分が多いのだと思いますが、そうして出来た作品が見た人にも何かを感じるきっかけになればいいと思います。

 

Q.今後はどのように制作活動を展開していく予定ですか。

 

今まで通り制作活動を続けたいと思います。私は、自分の生活の中で見たものや感じた事から作品を作っているので、環境が変わればモチーフの選び方などを含め作品も変化するかもしれません。旅行で訪れた場所の風景を描いたのもそういった影響があります。そうした点では、生活環境を変えてみたいとも思います。

 

Q.作品制作以外にはどんなことに関心を持っていますか。

 

趣味はあまりないので、この質問の返答には少し困ってしまいます。ただ、旅行をして場所を移動すること、またはそれと同じ感覚で映画を観たりするのが好きです。

 

氷河を描いた作品は沢山の国を旅行した時に制作したもので、アルゼンチン南端にあるエル・カラファテで氷河をトレッキングしたとき眼にした風景がモチーフです。旅行へ行ったのは、写真で見て知っている風景と実際触れた風景はどう違うかが知りたいと思ったからで、砂漠や高山、氷河、暑い所や寒い所など様々な場所を訪れました。時間が許せば長く別の場所に滞在したいですし、実際に長期の旅行へ出かけているので旅行が趣味のようなものかもしれません。

 

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Q.最後にgirlsArtalkの読者に向けて一言メッセージをお願いします。

 

私自身作品を描いているときに自分の部屋に飾りたい、と思うことがあります。絵を買ったり飾ったりという習慣はあまりなじみがないかもしれませんが、一枚の絵が生活を変えることもあると思うので、好きな絵があったら、ポストカードを飾るような手軽なことから、日常的に美術作品を飾ったり観賞することを楽しんでして欲しいと思います。もちろん、可能ならぜひとも本当の作品を購入して飾っていただきたい!と思います。
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<インタビューを終えて>
ほんわかした雰囲気の中にも芯の強さを感じさせる口調で一つ一つの質問に丁寧に答える大矢さんのおかげでインタビューはとてもなごやかに進みました。
Girls Artalkとしても日常的にアートが楽しめるような楽しみ方をみなさまにご提案していきたいと考えているので、大矢さんの気軽にアートを生活に取り入れてほしいという最後のメッセージには深く共感しました。大矢さんの絵が自宅に飾れたら本当にとても素敵な空間が出来あがりそうです。

 

個人的には、「世界の穴」(2014)という作品のタイトルの意外性と画面に広がる緊張感に強く魅力されました。この作品に関して質問したところ、世界の穴に興味をもって色々な穴の写真を見たりしたことが着想のきっかけだったとお伺いしそのユニークなリサーチの姿勢に驚きました。

 

 

<大矢加奈子さんによるドローイング・コラージュボックスのワークショップ>

 

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インタビュー終了後、一般の参加者の方に交じって大矢さんと共に、彼女らしいモチーフや技法、色合いなどを用いたドローイング・コラージュボックス作りが行えるワークショップに参加しました。

 

美術の授業を思い出しながらアクリル絵の具をといたり、はさみでちょきちょき画像を切り抜いたりとしばし制作に没頭。時々行き詰った時には大矢さんが優しくアドバイスをしてくださり、心強かったです。一緒に制作をしていた方々の作品の出来栄えに刺激されつつもなんとか世界に一つのアートボックスを完成することが出来ました。

 

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参加者のみなさまは、自分の思い出の写真などを用意してきている方もおり、ワークショップにかける意気込みは中々のもの。
最初に、全体の制作の流れについての説明を聞きます。

 

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そしてさっそくギャラリーで用意してくれた大矢さんの作品からの切り抜きやドローイング、写真などの画像から好きなものを選びます。

 

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そして内側を好みの色に塗って乾かしている間に、少女モチーフの衣装部分を液体ゴムで模様付けし、その後好きな色で彩ります。

 

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その後、各自のセンスを発揮して箱のふたとその側面をそれぞれ好きなコラージュモチーフで埋めていきます。

 

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余裕がある方は周りもアクリル絵の具で塗ったりモチーフを思い思いに加工します。

 

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参加者を優しく見守る大矢さんのからのアドバイスを受けつつも

 

しばし一心不乱に作業に没頭。

 

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液体ゴムを消しゴムでそっとはがし、
完成した少女を箱の中などに貼りつけ最終調整をします。

 

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最後はニスで全体を固めて出来上がり!

 

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個性豊かなドローイング・コラージュボックスが完成しましたっ

 

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完成したアートボックスは、ギフトボックスに使ってもよし、
あるいは、お気に入りの作家さんたちの
ポストカードを保存するのにもぴったりのオリジナルボックスです。

 

 

 

☆大矢さんプロフィールテキスト
大矢 加奈子  Kanako OHYA
1983 神奈川県生まれ
2006 東京造形大学美術学部美術学科絵画専攻卒業
2008 東京藝術大学大学院美術研究科修士課程油画専攻修了

 

[ 個展]
2013「 庭の風景」hpgrp GALLERY TOKYO(東京)
2012「 風景」hpgrp GALLERY TOKYO(東京)
2011「 ひとりごと」hpgrp GALLERY TOKYO(東京)
2010「 室内風景」Gallery Jin Projects(東京)
2009 「Empty Room(gradation)」H.P.FRANCE WINDOW GALLERY(東京)
   「 大矢加奈子展」hpgrp GALLERY TOKYO(東京)
2008 「Empty Room」Gallery Jin Projects(東京)
2007 「Vanilla Days」Gallery Jin Projects(東京) 他多数

 

[ 主なグループ展]
2014 「塚本智也 小野さおり 大矢加奈子 3人展」池袋西武アートギャラリー( 東京)
   「pratique vo1.0」IOSSELLIANI( 東京)
2013 「VOCA 展2013」上野の森美術館(東京)
2010 「 酸化したリアリティー」群馬県立近代美術館( 群馬)
2009 「第28 回損保ジャパン美術財団選抜奨励展」損保ジャパン東郷青児美術館(東京) 
2008 「ART AWARD TOKYO 2008」行幸地下ギャラリー(東京)
   「群馬青年ビエンナーレ2008」群馬県立近代美術館(群馬)
   「MY Harmonious Exhibit 2008」Shonandai MY Gallery(東京)
2007 「Light room」神奈川県民ホールギャラリー(神奈川)
   「表層の内側Ⅲ」東京藝術大学大学美術館陳列館(東京)大邱カトリック大学校(大邱、韓国)
   「ヨコハマブギウギ」ギャラリーヨコハマ(神奈川)
   「Light room vol.6」エリスマン邸(神奈川) 他多数

 

[ 受賞歴]
2008 「群馬青年ビエンナーレ2008」大賞
2009 「第28 回損保ジャパン美術財団選抜奨励展」秀作賞
[ パブリック・コレクション]
群馬県立近代美術館

 

 

☆ 展覧会・ギャラリー情報

hpgrp GALLERY TOKYO
〒107-0062東京都港区南青山5-7-17 小原流会館B1F
(東京メトロ表参道駅B3出口より徒歩3分)
営業時間:12:00-20:00
定休日:月曜日・毎月最終日曜日
TEL:03-3797-1507
MAIL:art@hpgrp.com

URL:http://hpgrpgallery.com/
https://www.facebook.com/H.P.FRANCE.hpgrpGALLERYTOKYO
https://twitter.com/hpgrpgallery

 

 

 

文:ソウダミオ

撮影:石川奈菜