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【おすすめアート】久保田 沙耶 『肌をよむ』“Reading Texture”

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2021年8月28日

【おすすめアート】久保田 沙耶 『肌をよむ』“Reading Texture”


【おすすめアート】久保田 沙耶 『肌をよむ』“Reading Texture”

 

 

ARTalkおすすめポイント

◆ 瀬戸内国際芸術祭2013での「漂流郵便局」をはじめ、多岐にわたる創作活動をおこなう芸術家、久保田沙耶の個展が曙橋のSYP GALLERY にて開催中。

 

◆ あらゆる事象を独自のロジックで分解し、再構築していく姿勢は、作品以外に、 素材・技法・サイズを問わない彼女のシームレスな表現方法そのものにも表れています。 那須塩原の旅館「大黒屋」での滞在制作を経て完成した新作や、極彩色の色鉛筆でのドローイング新作などが展示される本展では、そんな彼女の多彩な表現を見ることができます。

 

◆久保田沙耶の原点は、考古学への興味。ロンドンにて、時間軸のみで捉えられた考古遺物の価値にアートという新たな息吹を吹き込み、その価値を昇華させる修復技法「ヒストリカルカービング」 を学んだ彼女が織りなす、不思議ながらも心地よい時間感覚にも注目です。

 

久保田 沙耶「肌をよむ」

ステートメント 「肌をよむ」
去年から文鳥の雛を飼いはじめ、コロナ禍もあって、ふたりきりの暮らしがはじまった。生まれてからほぼわたしとだけ接してきた文鳥はいわゆる「手乗り文鳥」になり、想像以上にみずみずしいコミュニケーションを交わしている。 わたしたちには上下関係がなく対等だ(とわたしは感じている)。もちろん彼女のためにわたしが変えざるを得なかった生活習慣はあるが、彼女もわたしの生活に合わせるために自分自身のこだわりや癖をあきらめる場面をいくつか発見した。そうやっていつの間にかお互いの在り方を尊重しあうように形成されていく新たな生活リズムに日々驚かされている。
 鳥類は恐竜、獣脚類の生き残りだそうだ。わたしと対等に向き合うこの小鳥の祖先は一体どのような手触りをしていて、どのような色で、どのようにコミュニケーションをし、どのような心を育んでいたのだろうか。幼い頃に図鑑を開けば、ザラザラした肌にむき出しの歯、ギラッとした怖い目の恐竜がいた。いま現在ネットで検索してみれば、羽毛が生えたり色が変わったりユーモラスなフォルムになったりと、月日を経て想像図の変化がめまぐるしい。
 発掘される恐竜の化石から、当時の様子をありのまま捉えることはまだ困難だろう。同様に私たち人間も先史、原史、歴史時代などと呼ばれる時代の様子は、残された土器や石器、文献記録などの限られた遺物を手がかりに想像するしかない。しかし多様な記録媒体が出現した現代にあっても、果たしてわたしたち人間に過去をありのままの姿で捉えることはできるのだろうか。たとえ身近に起きた昨日の出来事であっても、まるで恐竜の想像図がどんどん変わるのと同じくらいに、過去を断定的なひとつの真実として捉えることはわたしにとってとても難しいことのように感じはじめている。すると、これまで頼ってきた歴史意識のようなものは本当にあり得るのかと不安になってきた。過去をみつめることは未来のふるまいを考えることと同じだ。いまここにいる自分や自分をとりまく環境さえもとても不確かなものに思えてくる。
 わたしはしるしをつけるように作品を作りはじめることにした。日常生活のなかの手触りひとつひとつと、それに反応する五感、そんな言葉や考えにとどく前の感覚を「わたしの歴史」として見つめてみたい。わたしたち人間は視覚優位の猿から受け継いだ能力もあって、さまざまな考えを目に言える形で実体化してきた。けれども、鳥と私の関係をきっかけに自然界のありとあらゆる動植物に意識を傾けてみたとき、これまで彼らもずっと生存と共存を続けており、目に見えない倫理や宗教の萌芽があるにちがいないと気がついく。そして遠いむかしの恐竜もまた同じ心映えだったのではないかと思いを馳せる。   ばらばらな感じ方の総体によってうまれるこれらの作品が過去をいろんな角度から照らしはじめたとき、もしかしたらこの小さな恐竜の未来とまなざしを交わすことができるのかもしれない。そしてそのとき、わたしの肌は。

2021年 8月 久保田沙耶

 

 

【アーティストプロフィール】
久保田沙耶(Saya Kubota)
1987年、茨城県生まれ。 筑波大学芸術専門学群卒業。 東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程美術専攻油画研究領域終了。個展「material witness」(大和日英基金)、プロジェクト「漂流郵便局」(瀬戸内国際芸術祭2013)など 。

 

 

【開催概要】
「久保田 沙耶 展 『肌をよむ』“Reading Texture”」 

会期:2021年8月26日(木) – 9月19日(日)
会場:SYP GALLERY 
〒162-0065 東京都新宿区住吉町10-10 1F
*木曜日 – 日曜日 13:00~19:00
* Opening reception 8月28日 (土) 17:00~20:00
HP:https://sypgallery.com/2021-08-kubota/