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「うら」から浮かび上がる世界「宮廻正明展 行間のよみ」

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2018年1月18日


「うら」から浮かび上がる世界「宮廻正明展 行間のよみ」


「うら」から浮かび上がる世界「宮廻正明展 行間のよみ」

 

 

 

 

東京・上野の東京藝術大学大学美術館にて、「宮廻正明展 行間のよみ」が開催されました。本展は、同氏の卒業制作《日々のしおり》(1979年)から描き下ろしの新作まで70点を展示する大回顧展となっています。

 

 

 

 

 

 

「行間のよみ」という展覧会タイトルには、どのような意味がこめられているのでしょうか?展覧会の様子と作品をいくつか紹介するので、皆さんも一緒に考えてみて下さいね!

 

 

行間をよむ「見えないところ」をよむ

 

 

《水花火》(1998年)

 

 

《水花火》(1998年)部分

 

 

《天水(碧)》(2017年)

 

 

《天水(碧)》(2017年)部分

 

 

六曲一隻の屏風に仕立てられた《水花火》と、新作《天水(碧)》は、画面の大部分が網で覆われた作品です。近づいて見ると、気の遠くなるような繊細さで描かれた線の絡まりが現れます。宮廻氏の作品に登場する糸、その集合体である網は、中心にあるモチーフを緩やかに隠しながら、作品と鑑賞者の間にある空間を意識させます。網によるベールをめくって、隔たりの先にあるものを確かめたいという好奇心が刺激されます。

 

 

行間をよむ「見えない時」をよむ

 

 

《風の囁き》(1992年)

 

 

《風の囁き》(1992年)部分

 

 

《風の囁き》は、動きがポイントとなる作品。静謐な画面の中でこぼれ落ちる米粒だけが、時の流れを感じさせます。足元に溜まった量と籠に残った量から、米粒と風の舞踏が続いていたことが分かります。

米粒が籠にすべて収まっていた時はどうだったのか?最後の一粒まで落ちきった後はどんな光景が広がるのか?画面にはない米粒の前後の動きまでを想起させます

 

 

《守破離》(2014年)

 

 

《守破離》(2014年)部分

 

 

夜空に咲く大輪の花火を描いた《守破離》は、過ぎ去る「瞬間」を切り取っています。左手前の花火は、まさに弾けた直後でしょうか。緻密に計算された並びで揺れる無数の線が、花火が辿ってきた道筋とこれから辿る道筋を示しています。目に映るものだけでなく、打ち上げられる音や火薬の匂いまで立ち上るかのようです。

 

 

行間をよむ「見えない物語」をよむ

 

 

《影と光》(2016年)

 

 

宮廻氏の作品には、しばしば影となった人物が現れます。あるいは、うつむいて顔が隠れていたり、窓越しにぼんやり人影が浮かび上がっていたり…。《影と光》に描かれている人物は強い眼差しが印象的ですが、顔の半分以上が隠れているので表情も身なりも分かりません。影のような塊はそもそも人物なのでしょうか?全てを描かずに想像する余地を残すことで、鑑賞者はそれぞれの物語を紡ぐことができるのです。

 

 

裏からが7割?!「裏彩色」の技法

 

 

 

 

 

 

宮廻氏は、なんと彩色の7割を紙の裏から行っています。本展では「裏彩色」についても、パネルを使った解説で知ることが可能です。

 

 

作品には様々な和紙が層にして使われています。素描を描き写す本紙は、1.8匁(約6.75g)に漉(す)いた薄美濃紙それも5年から10年をかけて枯らされたものです。この裏から彩色をすると、完成した時には下の層が表面に出てくるのです。

 

さらに細川紙で揉紙(もみがみ)を作り、石州紙で裏打ちをし、薄い絵の具を塗り重ねるという丹念な工程を経て、独特な奥行きが生み出されるのです。

 

 

新しい技術を使った視覚体験も!

 

 

《協奏曲(輪)》(2016年)

 

 

《協奏曲(輪)》、そのままでも波が動き出しそうに見えますが、会場では本当に動いている様子を見ることができます。NTTが2015年に発表した「変幻灯」は、錯覚を利用して止まっている画像に動きを与える光投影技術。日本画の展覧会で予想をしなかった新しい視覚体験をすることができました。

 

さらに、馬の絵が走り出す360度のスクリーンが配置された小部屋もあり、現代のデジタル技術が効果的に使用されています

 

 

《午後の揺曳(ようえい)》(2006年)

 

 

360度スクリーンの展示スペースで、馬が走り出す

 

 

物事を極めることを山登りにたとえ、すぐに頂上に辿り着いて終わらせるのではなく、山を螺旋状に登ってなるべく遠回りすることで進み続けることの意味を説く宮廻氏。

 

「極めない人生とは、遠廻りをし、その行間を楽しみ、豊かにしつつ径を詰めることによって、そこで生まれたエネルギーを高さに変える修行とも言えます」(展覧会公式図録p.178)

 

1979年の卒業制作から2017年の新作まで、40年近くにわたる作品が一堂に介した大回顧展。現実と幻想が交差するような宮廻氏の世界に、あなたもどっぷり浸ってみませんか?

 

 

文・写真 稲葉 詩音

 

 

宮廻正明氏プロフィール

1951年島根県に生まれる。東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。 同大学院文化財保存修復技術(日本画)修了、平山郁夫に師事。1995年に東京芸術大学助教授、2000年教授。同大学学長特命、社会連携センター長。 日本美術院同人・理事、足立美術館評議員長、山種美術館理事、文化財保護・芸術研究所助成財団理事長、シルクロード美術館理事。

 

一見、正統派の日本画を学んできたように見える画風ですが、同氏の出身は東京藝術大学美術学部デザイン科。静けさの中にリズムを感じさせる絶妙な構成には、デザイン科での経験が生かされているのかもしれません。さらに大学院では古典的な絵画技法を習得しました。その後、同大学で教鞭を執りながら、平山郁夫氏に師事。現在まで独自の芸術を発展させ、国内外で作品を発表し続けています。また、文化財を形状から質感までそっくり複製・復元する「クローン文化財」開発の中心となるなど、現代の技術を積極的に用いてさまざまな活動に取り組んでいます。

 

【展覧会概要】

宮廻正明展 行間のよみ

会場:東京藝術大学大学美術館 本館 展示室3、4

会期:2018年1月4日(木)〜 1月17日(水)

開館時間:10:00~17:00 ※入館は16:30まで

休館日:会期中無休

観覧料:無料

展覧会公式サイト:https://www.geidai.ac.jp/labs/hozonnihonga/gyoukan/#profile

 

 

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Writer

稲葉 詩音

稲葉 詩音 - Shion Inaba -

イタリア留学を経て、東京大学で表象文化論修士号取得。得意分野はヨーロッパ近代絵画。
10ヶ国語以上学んだ語学オタクでもあり、現在は海外映画・ドラマの字幕翻訳ディレクターを務める。

好きなものはアートと言葉。
好奇心を大切に、旅するように暮らしたい。
特別な思い入れのある芸術家は、美術ではセガンティーニ、文学では安部公房、音楽ではきのこ帝国。






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