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Interivew「若いうちに海外に出ろ!」西野達さんインタビュー

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2014年6月23日

Interivew「若いうちに海外に出ろ!」西野達さんインタビュー


Interivewこの人に会いたい!

「若いうちに海外に出ろ!」西野達さんインタビュー

 

 

 

 

merlion hotel photo Yusuke Hattori 0166. JPG

 

誰もが知っているシンガポールのシンボル、マーライオン。それをそのまま壁で囲ってホテルの部屋にしてしまったアーティストがいる。

 

そんな「誰も思いつかないし、やったことがないこをとやるのがアーティストだ。」と語るのは西野達さん。

何を考えて作品をつくるのか、またどういう経緯で作る事になったのか、そして気になるビッグプロジェクトのお金や許可の問題などなど・・・気になることを色々お伺いしてきました!

 

 

 

 

私が西野さんを知るきっかけになったマーライオンホテルは、世界各地でおこなってきた「ホテルプロジェクト」の一環だそう。夜20:00-翌朝9:00まではホテルとして泊まれて、日中は一般に無料で公開して中を見れるようになっているのだそうです。

 

 merlion hotel photo Yusuke Hattori 0601

merlion hotel photo Yusuke Hattori 0722 (1)

merlion hotel photo Yusuke Hattori 0407

G:とっても泊まってみたいです!でも、やっぱりすごく高いんでしょうか?

 

N:普段現代アートにあまり興味がない人たちに作品を経験してもらいたいというのが大きな理由なので、ホテルの宿泊代は誰でも泊まれる値段設定になってるんだ。宿泊代がすごく高かったらお金持ちしか泊まれなくなっちゃって、俺のコンセプトと矛盾してくる。なので、だいたい一泊一万円〜1万5千円ぐらいに設定してるよ。

 

 

G:すぐに予約が埋まっちゃうんでしょうね~

 

N:そうなんだよ、今年8月オープン予定のヘルシンキのプロジェクトは2日間でソールドアウト。

シンガポールのマーライオンホテルのときは、2ヶ月間の予約が1時間で完売した。

もっと多くの人に体験してもらえたらいいなと思うから、もし次にホテルプロジェクトをやれるとしたら半年ぐらいの期間でやりたいな。

 

 

 

DSC_0158

 

 

G:西野さんの作品は、ずっと残っているものではなく会期が終わったら取り壊してしまうし、大きなプロジェクトはとてもお金がかかりますよね。普通は、アーティストは自分の作品を売って、そのお金で生活していくと思うのですが、西野さんの場合はどうなんでしょうか?

 

 

N:今は展覧会にでるときの謝礼金と、写真作品やドローングを売ったりして生活している。

 

 

 

ここで、西野さんさんの今までの作品の写真集を見せていただいた。

DSC_0072 

 

 

N:例えば、これ、頭の上に色々なものを乗せて歩いているこの写真。

どうやって撮ったかわかる?

 

G:え~!なんだろう・・・本当にやっているんですか?

 

Tazro Niscino  Berlin ,Prenzlauer Promenade 15. Agust 2007

 

N:そうそう、積み上がっている家具なども本物だし、コンピューター処理の画像ではないよ。

 

 

G:あ!上から吊っているとか?

 

N:正解!

家具にワイヤーを通してクレーンで上から吊って、その下に自分が入って撮影

したんだ。

本当は別の人が入る予定だったのに怖くなって誰もやりたがらなくて、結局俺が家具の下に立ったんだ(笑)

 

 

 

 

Tofu Buddha and the aureole of Soy sauce ,2009

 

あと、「豆腐の仏像と醤油の後光」というタイトルの作品。

この冷蔵庫の中に豆腐で作った仏像と後光を表す醤油が後ろで噴射している作品があるんだけど、こういう作品はどんどん腐ってしまうから長く保たない。

 

さっきの頭の上に物を乗せている作品もそうだけど、長期の展覧会ではこういうアイデアを実現するのをキューレターはいやがるんだ。彼等にとっては、

作品は会期中ずっと見られるものであってほしいからね。

だから瞬間芸のような作品のアイデアは、自分で実現して写真に残すんだ。そういった写真シリーズが、数少ない販売できる作品のひとつだね。

 

 

 

G:それでプロジェクトのお金をためるんですか?

 

N:いやいや、プロジェクトは莫大なお金がかかるから俺が自ら出せないよ。

マーライオンホテルは2億円くらいかかっているんじゃないかな?

 

DSC_0067 

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G:いつも作品はどういうことを考えてつくっているんですか?

 

N:流行を追っかけたらアーティストじゃないと思ってる。今の最先端のことをやったらアートじゃなくて、それはデザインになる。

アートとは目先の流行を追うのではなくて、まだ誰も経験した事も見た事もないものを作る事なんだ。だから時代を変えてきたアーティストは最初は理解されない事が多いよね。

最初のものだから、まだ人々がついてこられない。死んでから、あるいは長い時代を経てからアーティストが認められることがあるのは、そういう理由からなんだ。人類初のものを作り出すのは楽しいよ。この魅力に取り付かれたら抜け出せなくなる。

 

 

 

G:日々考えてアイディアをストックしているんですね。

 

N:そうそう。今は東京とベルリンに住んでいるんだけど、仕事場として主に使っているベルリンの家はアイディアが沢山溜まっている。

山積みになってるアイデアのなかで革命的なのは10ぐらいかな。普通にすばらしいのは50〜100はある。一生かかっても実現しきれないね。

アイデアは1日で何個も浮かぶ事もあるし、半年に一つってこともある。乗り物に乗っていて外を眺めてぼーとしている時が、俺にとっては一番インスピレーションを受けやすい。あとはシャワーを浴びている時で、アイデアが突然浮かんだりまとまったりして、裸でバスルームを飛び出す事があるよ。

 

 

 

 

DSC_0176

 

G:すごくいいものから形にしていくんですか?

 

N:本来はそれが一番なんだけど、すごくいいアイデアは実現するのが難しい。さっきも言ったけど、まだ誰もやっていないという事だから、俺自身どうやって実現していけばいいのかわからないからね。

屋外の場合は、当然役所からの許可も難しくなる。一回でも実現したという実績があれば、役所は安心するものなんだけれど。

展覧会に呼ばれる度に新しいアイディアを提案するんだけど、キューレターはビビってしまう事が多いよね。

 

 

 

 

correnteza de modernização 2013 Brazil  photo Joana França 

 

G:西野さんは大学を出てからすぐ海外にいかれたんですか?

 

N:武蔵野美術大学を終了するぐらいからアートに対して袋小路に入り始めて、アートから距離を置く為にしばらくは遊んでいた時期があったよ。もちろんただ遊んでいるだけでは何も変わらないから、アートという概念が生まれたヨーロッパへ行って、本物の作品を見ながら美術史のおさらいをしようと考えたんだ。往復の旅費もだしてくれるし飢え死にはしないと思ったので、結局はドイツの寿司屋に就職してヨーロッパに渡った。

日本を離れるときはドイツの大学で学ぶなんてことは全く考えていなかったけど、寿司屋で朝から晩まで働いていると、やっぱり制作したくてうずうずしてくる。結局は向こうの美大を受験して受かったから、労働ビザから学生ビザに変えたというわけ。

ドイツの美大では、武蔵野美術大学時代の繰り返しにならないように、違うアプローチでアートに取り組もうと考えた。日本では絵を描いていたから、それ以外のこと、写真や彫刻やパフォーマンスから入っていったよ。

 

 

 

 

G:それで今のスタイルに行き着いたわけですね。

 

N:そう。でも今のスタイルになるまで7年くらいかかったかな。それまで試行錯誤して、最終的にここに辿り着いた。その時に、やっと俺のスタイルが出来たと思って大学をやめたんだ。

ドイツでも大学は一応4年間だけど、あそこは学費もタダに近いし何年在学してもいいから、10年くらい学生やってる人も結構いるよ。

 

 

 

untitled 2010 Germany photo carsen gliese 

merlion hotel photo biennale office

 

G:これから先、やってみたいことはありますか。

 

N:日本で大きなプロジェクトをやりたいね。日本は屋外で何かをやろうと思うと許可をとるのがムチャクチャ難しいから、これまで大きなプロジェクトが出来なかったんだ。

 

 

G:場所はどこにするかは決めているんでしょうか。

 

N:ハチ公でやりたいな、とは思ってる。一番有名だし、分りやすいし、東京の俺の家のすぐ近くだからね。

でも、色々権利関係でハードルが高そうなんだよね~。

 

 

DSC_0105 

 

G:日本は規制が厳しいですもんね。他に海外からみて日本はこうだ、っていうのはありますか。

 

N:日本には、現代アート界にも、建築界にも世界的に有名な人が沢山いるのに、日本人はそのことを知らないというのが残念だな。

 

 

G:情報が足りていない、届いていないというのは私もすごく感じています。girls Artalkもそれを少しでも解決できればと思ってはじめたことだし。

 

N:そうやって若い人たちに広まっていくのは良い事だと思う。自分の国の文化を知る事は日本という国を知る事でもあり、誇りにもなるからね。

 例えば、世界で価値のある建築家30人を挙げて、といったら四人に一人は日本人になるかも。建築界のノーベル賞と言われるプリツカー賞を、日本人は2年連続で受賞してる。

日本で暮らしているとそういう情報がはいってこないでしょ。入ってきたとしても、芸能人の恋愛よりも小さな取り上げ方。だから日本人は文化にあまり興味を持っていないのかもしれないと思うことがよくあるよ。歴史的に見て、そんな事ないはずなんだけどね。

 

 

Deixa eu Falar! 2011 Brazil 

 

G:世界長者番付のランキングは毎年発表されてニュースになるのに、アーティストのランキングはニュースにはなりませんよね。

 

N:5年前くらいに、村上隆はあらゆるジャンルの世界で最も影響力のある100人に選ばれているのに、日本では大きなニュースにならなかった。

文化についてだけでなく、俺は日本は世界からみると普通じゃない国だと考えてるけど、でも海外に出ない日本人はそれを知らない。普通じゃない事は悪い事では全くないけど、でもその異常さを日本人が普通だと思っている事が問題なんだ。日本での価値観だけに縛られて生きたら、それで人生の幅を狭めてしまう。

日本で作られた携帯電話が世界に全く売れなくてガラパゴスケータイって揶揄されたけど、日本だけしか見ていないと、日本人自体がガラパゴス化しちゃうよ。

 

これを読んでる人へ「若いうちに最低半年間海外に出て!」ということを勧めたいいね。価値観が変わるはずだし、日本をより知る事にもなるし、ひいては自分を理解する事にもなる。1ヶ月海外に住んだって、旅行者と変わらない体験しか出来ないから半年以上がいいよ。

あるいは、もし自分のいる場所が自分に合わないと思ったら、環境を変えてみるために海外へ出るっていうのもありだね。日本の規格に合わないのに、無理してとどまる必要なんてないんだから。 

 

 

G:場所はどこでもいいんですか?

 

N:もし最初の海外なら、やっぱり欧米が良いと思うよ。日本は欧米を追いかけてきたんだから、日本がどういう方向で進んできたかを見る意味にもなるしね。

人生は短いっていうことは真実なんだから、他人に迷惑をかけない前提で自分の好きなように生きないとつまらないよ。

 

G:今のお話を聞いて、高校時代になにも分らないままアメリカ留学に飛び出したことを思い出しました。その時は、辛いことが9割、楽しい事が1割くらいだったけれど、確かに今となっては色々自分の糧になっているなと思えます。

 

 

 

merlion hotel photo Yusuke Hattori 0891_訂正nakajima

 

 

パワフルでテンポの良い西野さんとの会話はとっても面白く、ついつい長話をしてしまいました。

次のビッグプロジェクトはどんなことになるのだろう、ハチ公ホテルとか出来たら絶対に泊まってみたいぞ!と心躍らせるgirls Artalk編集部なのでした。

 

 

 

 

 

 

<西野さんのこれからの展示>

2014/06/28 ~10/31 ロシア/サンクトペテルブルク 「マニフェスタ10」ヨーロッパアートビエンナーレ

2014/08/15~10/12ヘルシンキ ホテルプロジェクト Hotel Manta in Helsinki

2014/10/16~11/09  銀座 グループ展 The Mirror

 

 

 

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西野達(Tatsu Nishino)

1960年愛知県生まれ。武蔵野美術大学で学び、1987年にドイツに渡欧。ミュンスター美術アカデミーで学び、1997年にケルンでモニュメントを囲った「obdach 宿あり」で最初の屋外インスタレーションを発表。ドイツを拠点にしながら、2005年ロサンゼルス現代美術館、2009年「カルダープロジェクト」(オーストラリア)、「ナント・ビエンナーレ」(フランス)など様々な国でプロジェクトに携わり、2011年「シンガポールビエンナーレ」ではマーライオンをホテルにしたインスタレーションで話題を呼ぶ。2006年銀座メゾンエルメスの「天上のシェリー」、2010年「あいちトリエンナーレ」などの国内での発表につづき、2012年ニューヨークで行われた「ディスカバリング・コロンブス」が大きな動員を生んだ。

 

 

 

 

 

文:新井まる

撮影:洲本マサミ

 

 

 

 



Writer

【代表】新井 まる

【代表】新井 まる - MARU ARAI -

話したくなるアートマガジン「ARTalk(アートーク)」代表

株式会社maru styling office 代表取締役

 

イラストレーターの両親のもと幼いころからアートに触れ、強い関心を持って育つ。大学時代からバックパッカーで世界約50カ国を巡り、美術館やアートスポットなどにも足を運ぶ旅好き。新卒採用で広告代理店に就職し3年間勤務の後、アパレルEC部門の販促に約1年間携わる。人の心が豊かになることがしたいという想いから、独立。2013年にアートをカジュアルに楽しめるwebマガジン「girls Artalk」を立ち上げる。現在は「ARTalk(アートーク)」と改名し、ジェンダーニュートラルなメディアとして運営中。メディア運営に加え、アートを切り口にした企画・PR、コンサルティングなどを通じて、豊かな社会をめざして活動中。

好きなものは、自然と餃子と音楽と旅。

 

●Instagram: @marumaruc   

話したくなるアートマガジンARTalk(アートーク)」