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束芋さんインタビュー 全ては偶然性のコラージュ 個展「flow-wer arrangement」「ズンテントンチンシャン」

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2018年2月24日

束芋さんインタビュー 全ては偶然性のコラージュ 個展「flow-wer arrangement」「ズ


 

束芋さんインタビュー 全ては偶然性のコラージュ
個展「flow-wer arrangement」「ズンテントンチンシャン」

 

 

浮世絵を想像させる線や色彩の手描きのドローイングを使った映像インスタレーションで広く知られる現代美術家・束芋さん。2009年から2010年にかけて横浜美術館で「束芋:断面の世代」展を開催(大阪・国立国際美術館へ巡回)、2011年には第54回ヴェネチア・ビエンナーレの日本代表を務め、近年ではパフォーミング・アーツとコラボレーションするなど多岐にわたる活動をしています。

 

現在、束芋さんの個展が都内の二つのギャラリーで開催されています。ギャラリー小柳の「flow-wer arrangement」ではウォールドローイングとドローイング、ギャラリーキドプレスの「ズンテントンチンシャン」では銅版画作品が展示されています。

 

今回、束芋さんにギャラリー小柳で「flow-wer arrangement」の展示作品についてインタビューを行いました。またギャラリーキドプレスではオーナーの木戸均さんに、束芋さん初の発表となった銅版画の作品制作について伺いました。両会場の様子と併せて紹介します。

 

 

 

人体に生けた花が発光する 「flow-wer arrangement」

 

 

 


《flow-wer arrangement》 (2018)© Tabaimo / Courtesy of Gallery Koyanagi  

 

 

 

銀座・ギャラリー小柳に足を踏み入れると、まず目に入る《flow-wer arrangement》は、ウォールドローイングにプロジェクターを用いた映像を投影するインスタレーション。2017年にロサンゼルスのハマー美術館のプロジェクト「Hammer Projects: Tabaimo」で発表された作品を、会場に合わせて再制作したものです。ギャラリーの壁に描かれた巨大な体の一部とそれに生けられた花。花は妖しく発光し液体が滴ります。

 

会場に展示される作品は《flow-wer arrangement》とflow-werシリーズのドローイング7点。

 

 

 


《flow-wer012》 (2014)© Tabaimo / Courtesy of Gallery Koyanagi

 

 

 


ギャラリー小柳 展覧会会場にて

 

 

 

girls Artalk(以下、gA):2013年から制作しているflow-werシリーズが、今回の展示で終了するそうですね。  

 

束芋さん:「これまで30点以上制作しましたがシリーズとして成熟したと思います」

 

 

 


《flow-wer029》 (2015)© Tabaimo / Courtesy of Gallery Koyanagi

 

 

 

gA:このシリーズが誕生したきっかけはどんなことだったのでしょうか?

 

束芋さん:「私が過去に作ったインスタレーション作品「blow」をドローイングとして描いてみようとしたのがきっかけです。当初は色をつけていなかったのですが、たまたま友人からプレゼントされた蜜蝋クレヨンを使ってみたら、今までには体験したことのない描き心地を得られ、予想していなかった形で作品が生きてきた感覚があり、この作品に欠かせない要素となりました」

 

 

 


《flow-wer010》 (2014)© Tabaimo / Courtesy of Gallery Koyanagi

 

 

 

gA:なぜこのモチーフの組み合わせになったのですか?

 

束芋さん:「体の中から一部を取り出して描いても、その内臓の持ち主の性格や人生を感じさせるような絵は描けませんが、そこに草花を生けることで、個人の個性を想起させられるかもしれない。また、草花を土から引き抜き、または根から切り取り、器に生けられる花は、また新たな形で生かされる。人も健康で健全な場所にあるときだけが生きていることを実感する時間ではなく、病気になったり弱ったり、自分が思ってもないところに連れていかれたりすることで生きていることを強く実感することもあると思います。そういう共通点を感じ、絵の中で共存させようと思いました。

 

以前は花を美しいものとして描くことに抵抗があったのですが、軽井沢に住むようになり、自然に触れる機会が増えました。そこで草花の持つ毒々しい側面が見えるようになり、モチーフとして選ぶようになりました。植物の中には木に巻きつき枯らして殺してしまうツタや、日陰を奪い合うようにして群生しているものがあります。後ろをパッと振り返ると何かが起こっているかもしれない−−そういった想像が働きます。私たちとは違う時間の流れを生きているのではと感じることもありますね」

 

 

 

インスピレーションは出会わせることで生まれる

 

 

 

gA:作品の発想はどのように生まれるのでしょうか。

 

束芋さん:「私は普通の人間なので、自然に湧き出してくる感じではないんです」

 

gA:いやいや、普通の人には間違っても思えないですよ…。

 

束芋さん:「美大に通っていた頃、周りの友人はおしゃれでキラキラしていました。そうなれない自分は『普通なんだ』と、思った時点で楽になったんですね。無趣味なので、時間があっても趣味を持った友人に連れ出してもらうことが必要で…。機会、場所、周囲のサポートがあってこそ自分は納得のいく制作ができ、最高のものを追求できています。新しい発想についてもその場で自分が見ていたものや体験から引き出されるものが多々あって、全てがコラージュの素材のように制作につながっています。

 

制作の手法も全てがコラージュです。例えば、映像インスタレーションに使用するドローイングをパソコンに取り込むと、たまたま画面上でサイズの大小が変わることがあります。それを分解し組み立てる。頭の中で想像している段階ではまだベストではなく、偶然性に出会わせられたものをコラージュすることで想像以上のものが形になっていきます」

 

gA:ありがとうございました。世界的アーティスト・束芋の活動に、これからも期待しています。また同じ女性としても共感できました(笑) インタビューの最後に、Girls Artalkの読者へメッセージをいただけないでしょうか?

 

束芋さん:「日本人の多くが美術作品に対峙すると、作家の意図などを気にしています。本来は、この作品は自分のためにあるというぐらい対等な気持ちで向き合っていいものだと思います。目の前にある作品と自分とがどのような関係を築けるのかを考えてみるのもおもしろいですよ」

 

 

 

にじむ線から生まれる感触 束芋さんが制作した工房へ

 

 

 

 

 

 

ギャラリーキドプレスの「ズンテントンチンシャン」で展示される銅版画は、発表する作品としては束芋さん初のものになりますが、大学時代に制作工程を経験していたそうです。手法としてずっと心に残っていたものの、多忙であることに加えて、設備面の問題もあり制作が難しかったといいます。1t以上もあるプレス機は置ける場所も限られているとか。同展のために束芋さんはキドプレスの工房で1ヶ月制作を行いました。同ギャラリーオーナーの木戸さんは技法のアドバイスをしながら、版を刷る工程も担っています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

展示される作品は10点。束芋さんは、2017年1月から開始した朝日新聞連載小説『国宝』(吉田修一・著)の挿絵を担当しています。同展に展示される作品は、これまで描いた約300点の挿絵の中から10点をピックアップし、再構成して挿絵の世界観を引き剥がし、独立した一枚絵として成立させたものです。

 

キドプレスに訪れると、ギャラリー内にインクの匂いが漂っていました。この日は木戸さんが束芋さんの作品を刷っている最中。束芋さんはインタビューで「刷り師の技量も重要なんです」と話していて、その言葉からも木戸さんへの信頼が伺えます。設備面だけでなく技術的なサポートが受けられることが、表現手段の一つとしてアーティストが版画作品を手掛ける入り口になるのだとか。これまでも舟越桂さん、奈良美智さん、町田久美さんなどが同工房で版画制作を行っています。

 

特別に工房の中を見せていただきながら、木戸さんに束芋さんが用いた「ドライポイント」という技法について伺いました。

 

木戸さん:「ドライポイントはニードルで直接、銅板を引っかくことでできた線のささくれにインクが絡まり、微妙な滲みが出ます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の制作で束芋さんは木戸さんから聞きながら色々な技法を試し、感覚的にフィットしたのがドライポイントの持つ「滲み」。

 

木戸さん:「今回の作品を見ると束芋さんが引いたアウトラインにじわっとした滲みが生まれ、そこから手のもっちりした肉感、温かみ、生々しさを感じられますね」

 

 

 

 

 

 

着彩はアクアチントという版画の手法で、水彩による手着彩の作品も2点あるそうです。

 

木戸さん:「今回、展示している作品のエディションは15点です。枚数を刷っていくとニードルで削った部分が埋まり、版が寝てしまいます。これ以上は状態のいい版画にならないのです」

 

 

 

 

 

 

束芋さんは展示構成にもこだわりがあり、会場に足を踏み入れると完成された空間だと実感できます。絵を鑑賞する自分も展示を構成する一つの要素として、コラージュされているかもしれません。素材やモチーフの違いで世界観も変容します。ぜひ両会場を続けて鑑賞し、作家の懐の広さを感じてみてはいかがでしょうか。

 

 

 

テキスト:石水典子
写真:新井まる

 

 

 

【展覧会概要】
「flow-wer arrangement」
会期:2018年2月10日(土)〜3月15日(木)
会場:ギャラリー小柳
開廊時間:11:00~19:00
休廊日:日・月・祝日
住所:東京都中央区銀座 1-7-5 小柳ビル 9F
Tel:03-3561-1896
URL:http://www.gallerykoyanagi.com

 

 

「ズンテントンチンシャン」
会期:2018年2月9日(金)~3月4日(日)
会場:ギャラリーキドプレス
開廊時間:12:00~19:00
休廊日:月・火・祝日
住所:東京都千代田区外神田6-11-14 3331 Arts Chiyoda 204
URL:http://www.kidopress.com

 

 

 

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Writer

石水 典子

石水 典子 - Noriko Ishimizu -

ライターです。

元々は作家志望でしたが、藝大受験で4浪し断念。予備校生時代に周囲にいた、アーティストの卵たちの言葉に影響を受けた10代でした。

今は、取材することで言語化されていない言葉を引き出し文章化するインタビュアーとして、アートの現場に関わりたいと思っています。

そして今、興味があることは場の活性化です。

 

好きなアーティストは、ヨーゼフ・ボイス、アンゼルム・キーファー、ダムタイプ、ナムジュンパイクなど。日本根付研究会の会員で、江戸時代から続く細密彫刻、根付(ねつけ)の普及に努めています。