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【前編】ー“伝統”と”伝承”の違いに迫るー 津軽三味線 吉田兄弟 吉田健一氏(弟)にインタビュー!

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2015年5月8日

【前編】ー“伝統”と”伝承”の違いに迫るー 津軽三味線 吉田兄弟 吉田健一氏(弟)にインタビュー!


4月25日(土)から森アーツセンターギャラリーにて開催される『連載完結記念 岸本斉史 NARUTO -ナルト- 展』。

みどことろの一つである展示会場で見られる迫力のシアター映像や、テレビで放送されている展示会CMの音楽を担当しているのが、世界を舞台に活躍しつづけている津軽三味線奏者 吉田兄弟です。

『連載完結記念 岸本斉史 NARUTO -ナルト- 展』の記事:https://girlsartalk.com/common/feature/17573.html

 

吉田兄弟 (よしだきょうだい)

北海道登別市出身。

ともに5歳より三味線を習い始め、1990年より津軽三味線奏者 初代佐々木孝に師事。

津軽三味線の全国大会で頭角を現し、1999年アルバム「いぶき」でメジャーデビュー。

邦楽界では異例のヒットを記録し、以降、現在まで13枚のアルバム他をリリース。

2003年の全米デビュー以降、アメリカ・ヨーロッパ・アジア・オセアニア等、世界各国での活動や、

様々なアーティストとのコラボレーションも積極的に行っている。

吉田兄弟 演奏動画:https://www.youtube.com/watch?v=x_CzD0GBD-4

 

伝統芸能である津軽三味線で素晴らしい功績をおさめるだけでなく、自らが第一線に立って活躍しつづけている吉田兄弟。今回、吉田健一氏(弟)にインタビューしてきました!

 

前編 ②

 

girls Artalk編集部:津軽三味線をはじめたキッカケって何ですか?

 

吉田健一氏:自分の父親が、20代前半の独身の頃に、プロの津軽三味線奏者を目指していた時期がありまして…

      当時、周囲の反対と生活を考え夢を断念せざるおえなくなってしまったんですが、

      サラリーマンで家族を養いながらも、その夢を持ち続けていたんです。

 

      それで、情操教育が発達していく中で…

      自分の兄が、5歳の頃に、何か楽器を習いたいと両親になげかけたところ、

      『三味線』という言葉が父親から返ってきたんです。

      それで、僕も2年遅れで兄を追うようにはじめたのがキッカケですね。

 

      父親からすると、自分の夢を息子に託したかたちですね。

      託されたほうからすると…結構、重いもの背負っちゃいましたが(笑)

 

      …今や、僕が35歳なので30年。

      三味線を奏でることが生活の一部のようになっています。

 

girls Artalk編集部:プロを認識したのはいつ頃からだったんですか?

 

吉田健一氏:プロを意識しはじめたのは、中学校3年生の高校受験の時ですね。

 

      兄弟でやっていることの珍しさからイベントに駆り出されたりするなかで、

      ある程度『吉田兄弟』の名前が、全国大会や北海道内で知られるようになりました。

      イベントの次の日には周りから冷やかされるのが本当に嫌でしたね。

 

      学校から帰ってくると勉強するというより、三味線を練習するというのが日課で…      

      普通の子のように同じことがやりたくて、中学校に入ったら本気でやめるつもりでいました!

      本気で”やる!”じゃなくて… “やめる!”のほうです(笑)

 

      ですが、子供ながらに父親の『三味線』にかける情熱が誰よりも強いことは理解していたので、

      「やめる。」なんて告げると、怒られるどころの騒ぎじゃなく、

      いろんな意味で大変なことになるな。と、思って、言えませんでしたね。

 

 

今や、世界を舞台に活躍しつづけている吉田兄弟。

健一氏の口から「本気でやめるつもりだったんです!」という、言葉に驚きを隠せませんでした。

 

前編 ③

 

girls Artalk編集部:三味線の楽器としての作りについて教えて下さい。

 

吉田健一氏:三味線は棹(ネック)の太さがそれぞれ違う、細棹、中棹、太棹、と、3タイプに分かれています。

      子供の時は指が短いので、みんな細棹で練習します。

 

      大まかに言うと、細棹は関東から西の民謡で使用され、「ちん・とん・しゃん」の世界を演奏しますが、

      関東より東の民謡は、太棹タイプを使用します。

 

      実は…全国に民謡ってあるんですが、使われている三味線の種類が違うんですよ!

      僕の出身である北海道の民謡や『津軽三味線』は、太棹タイプを使用しているので、

      細棹から太棹に持ち替えなくてはならないんですが、
      最初の頃は体がなかなか付いていけないんですよね(苦笑)

 

      音のチューニング部分である「ねじめ」と呼ばれている箇所に手が届かなくて、

      下に降ろしては調整し、上にあげては音を確認する、という動作を繰り返しました。

      本当に子供の時は大変でした。

 

girls Artalk編集部:動作の繰り返しとありましたが、一曲のなかでチューニングは何回もするんですか?

 

吉田健一氏:三味線って、5分もチューニングが保たない楽器なんですよ!

      糸が絹なので温度や湿度で伸び縮みすることはもちろん。

      べっこうで作られた大きな撥(ばち)を使用して、叩きながら演奏するんで伸びちゃうんです。

      糸が新しければ伸びやすく、古ければ伸びづらいんですけど、糸が減っているので切れやすいんです。

 

      三味線の糸にも種類があって、絹、テトロン、ナイロン、と。

      それぞれ糸の太さを変えて、音色の違いを出すんです。

      (※テトロン…絹とナイロンの間で、少し強度が高いもの。)

 

      僕が演奏している『津軽三味線』の場合は、アドリブで構成されているので、

      チューニングも曲の一部として聴かせられるんです。

 

girls Artalk編集部:アドリブと仰っていましたが、楽譜というのは存在するんですか?

 

吉田健一氏:楽譜というのは基本存在しません。

      先生から教わる時も、見て、聞いて、体験して、覚える。という、かたちです。

 

girls Artalk編集部:絶対音感は持っているんですか?

 

吉田健一氏:僕は絶対音感は持っていません。

      相対音感なら持っています。

 

      三味線は、ギターなどと比べてフレットがないので、自由自在に音が出せます!

      なので、音が下がってきたらポジションをずらして演奏できるんです。

      2人だけの演奏だとそれでも成り立つんですが、そこに洋楽器が入ってきちゃうとアウトなんですけどね。

 

girls Artalk編集部:フレットがないため自由自在に音が出せるということについて理解しましたが、

            三味線の音の広がりについて、兄弟ならではの”特徴”や”こだわり”は、ありますか?

 

吉田健一氏:吉田兄弟の”特徴”としては、三味線は三弦なんですが、三弦に聞こえないと思います。

      それは、“こだわり”として胴(ボディ)の部分を最大限に生かして演奏するんですが、

      前の部分と後ろの部分を交互に動かしながら弾くことによって、
                     とても豊富なバリエーションの表現をたくさん作るんです。

      その他にも、棹を動かしている指で弦をミュートさせたり、様々な工夫をこらしながら演奏しています。

 

 

会話中には…

三味線の胴(ボディ)に貼ってある皮が湿気や乾燥で破裂してしまう話や、

メンテナンスの難しさなどを自身のエピソード交えてお話して下さいました。

知れば、知るほど、『三味線』という楽器の繊細さを知りました。

 

 

girls Artalk編集部:その楽器の儚さたるや…楽器も一つのアートですね!

 

吉田健一氏:楽器としての形も雅ですよね。

      海外での公演の際は、三味線を3つに分解してジェラルミンケースに入るので、

      入国審査の時には危ない人と間違われることが多々ありますが(苦笑)

 

      楽器もそうですが…日本の文化自体とか、見て美しいものとか、

      僕らの舞台では99%着物で出演するので、『着物』というものは特に意味を持ちます。

      着物は人を大きく見せる作用があるので、演奏後の握手会では「小さいね。」と言われたり、

      人を神聖な気持ちにさせるのかアメリカのツアーでは、

      聴衆がスタンディングな会場なのに体育座りになったこともありました(笑)

 

girls Artalk編集部:着物は何着ぐらいお持ちなんですか?

 

吉田健一氏:1ツアー毎に作り直すので、十数着は持っています。

      着物って、実はとってもECOなんです!

      着物の色や柄に飽きたら、特別な薬品に漬けておくと、別の色に染められたり。

      もしもパーツが汚れてきたら、その部分だけ付け替えられるんです。

      その代わり、メンテナンスという意味でクリーニングに出す時は、

      それぞれのパーツに分けて出さないといけないんですけどね。

 

その普及率の低さから、他国では知られていない『三味線』。

9.11以降、テロ対策や世界情勢で入国審査での手荷物検査が厳しく、

持ち物の説明として大変難しいというお話しに驚きました。

 

前編 ④

 

girls Artalk編集部:海外ツアーなど精力的に活動されていますが、
                              その間に作曲などはどのようにされているんですか?

            また、アーティストとのコラボレーションはされていますが、
                              アーティストのカバーはされていませんよね。

            そこにはどのような想いがあるのかを教えて下さい。

 

吉田健一氏:三味線があればその場で作りますけど。

      ボイスメモという機能を用いて、録音した鼻歌をもとに作ります。

 

      その他には、音楽的ジャンルの組み合わせですね。

      ブルースを聴きながら弾いてみたりだとか…

      でも、その時に注意して考えなくてはいけないのが、”三味線の必然性”や”吉田兄弟である必然性”です!

 

      アーティストとのコラボレーションをする際には、互いの歩み寄りはもちろん第一なのですが、

      それに加えて、その楽曲を聴いた時に『三味線』で、できることを探します。

      それは、モンキー・マジックさんやももクロさんなどの国内アーティストだけでなく国外アーティストも
                  同じです。

 

      ワールドツアーを回っていると、各国からカバーの依頼を受けるんです。

      ですが、例えばその楽曲をカバーする際に、三味線以外の楽器で出来ることであれば、
                  僕らが演奏する意味はありません。

      そこにシッカリとした大義名分が存在して、『三味線』というものが出せるのかを重要視しています。

      なので、僕らはカバーしない理由はそこにあります。

 

      誤解して欲しくないのがカバーを否定するわけではないんです。

      ただ、『吉田兄弟』がカバーをしてしまうと、若き奏者たちが出てこれなくなる可能性があるんです。

      カバーとオリジナルという”違い”があってこそ、聴いてくれる人の選択肢を増やす役目も、
                  『吉田兄弟』にはあるんです!

 

girls Artalk編集部:その熱い想いのもと、『俺フェス』も開催されているんですか?

 

吉田健一氏:そうです!

      結局、僕らだけが頑張ってもしょうがないんです。

      全体的な底上げがされないと意味がないんですよね。

 

      僕らが『吉田兄弟』として15年間を費やし、和の世界ではなくエンターテイメントの世界で頑張れば、

      自ずと下が付いてくるかな。と、思って頑張っていたんですが、
                  そこに限界があることに気づいたんです。

 

      それは、”浅く広く”になってしまったんです。

      例えば、『吉田兄弟』みたいになりたい!と、やってくる子たちはいても…

      事前に伝統を習わずにオリジナルを演奏しているので、奏者人口は増えていても”芯”がないんです。

      そういう子たちが増えてしまったんですよね。

      それは、ある意味では僕らのせいでもあるんですけど…

 

      その一方で、僕ら以外のやり方。

      『吉田兄弟』というアーティストと、比べられる対等な存在も必要だと思っています。

      「吉田兄弟より、この奏者が好き。」と、言えるような環境が必要であり、

       それは、同時に聴き手の耳も養うということに繋がります。

       そうでなければ、出ているものは良いという価値観に囚われてしまい、
                    その明確な“違い”さえも分からなくなってしまうからです。

 

      今までは、”良い”も、”悪い”も、引き出しを開けつづけるという作業をずっとやってきたんですが、

      自分たちでやっていくには、どうしても限界があって…

      その作業自体に対しても、良くも言われるけれど、悪くも言われるんですが、
                  それでも僕らは構わないんです!

      『吉田兄弟』と比べられる奏者の数や存在が必要であり、
                  もちろん前提として奏者に光が当たっていなきゃいけません。

 

      なので、先ほどのカバーの話にもどりますが…

      カバーを演奏してアーティストとして光が当たるなら、
                  僕らは同じことをして光を奪ってはいけないんです。

 

girls Artalk編集部:今後の『吉田兄弟』としての活動としては、
                              色んな奏者を引き出していけるようにということでしょうか? 

 

吉田健一氏:はい!

      僕がプロデュースしている『疾風(はやて)』という津軽三味線集団があるんですが、

      彼らが持っている演奏技術は『吉田兄弟』とほとんど変わりません。

      ただ、それぞれ持っている個性の部分が違うんです!

      僕は、その子たちの頑張りを見せていかないといけないと思っているんです。

 

      実は、今年も『疾風』という団体グループで、津軽三味線の全国大会に出場してるんです!

      それは演奏を聴きに来てくれた子どもたちに、「こんなことやっていいんだよ。」って、
                  観せる目的でもあるんです。

      一緒に出場する団体グループからは「また来たよ。」って、顔で見られちゃうんですけどね(笑)

 

      でも、大会に見合った楽曲を演奏する時と、オリジナル溢れる楽曲を演奏する時で、

      どんなに演奏が上手くても、賞に入ったり、入らなかったりするんです。

      僕らがその基準を示す役割を担っていると思っています。

      それ自体が面白かったりもするんですけどね(笑)

 

      大会に来てくれたお客さんが盛り上がるのが一番嬉しいですね。

      出場者の中には本気でプロを目指そうとしている奏者がいると思うんです。

      その演奏は審査員に向けてのものなのか、聴きに来てくれたお客さんに向けてなのか、

      プロを目指す以上はどこに向けて演奏するのかということを考えていかないといけません。

      そういうプロとしての考え方の姿勢も見てくれる場所。

      『俺フェス』や『全国大会』を通して、子どもたちに見てもらって、
                  どのように感じてもらえるかですね。

 

      メンバーの技術力は、すでに家元クラスと変わらないと思っています。

      僕は個人の流派をこえて、『日本』という流派を作りたいんです!

      勘違いしないで欲しいのは…僕は個人の流派に対して否定していません!
                  むしろ大切にしていただきたいんです!

      ですが、海外の演奏を通して『流派』が理解されていない現状を目の前にすると、

      『日本』という統一されたものの必然性を痛感してしまうんです。

 

      ただ、僕が若い奏者に向けて言えることは、自信を持って突き抜けてもらいたいです。

      出る杭は打たれてしまいますが、突き抜けてしまえば打てませんから(笑)

                  何か似たようなことをやるのではなくて、”らしさ”を磨いて躍進していって欲しいです。

 

girls Artalk編集部:「子どもに見せたい。」、「日本」というキーワードから、

          5年後のオリンピックがポイントになりそうですね。

 

吉田健一氏:和のないオリンピックなんて考えられないですからね。

      個人の私利私欲に走るものではなくて、「これが日本だ!」と言える総合芸術を、世界に表現できる場だと思うんです。

      その時に、各ジャンルのトップが集まって一つの芸術を作るといことができなければなりません。

      更に言えば、トップを統括するという役目が必要になってくるでしょう。

      その役割を担えるなんて思っていませんが、その一端を担いたいと強く思っています。

 

      「三味線奏者を集めたい!」という、お声がかかった時の準備はすでに出来ていますし、

      「和楽器奏者が欲しい!」という、注文でも俺フェスのメンバーを集めて対応できます。

       こちら側としても一端を担うための準備をしておくことが大切だと思っていますからね。

 

 

「伝統芸能!」「津軽三味線!」

…特別な知識もなく緊張していましたが、知らない三味線の世界に溶け込めるよう、面白エピソードや例え話を用いてくれる、そんな健一さんの気さくで優しい人柄に触れていると、いつの間にか自然に笑顔がこみあげていました。

そして、その胸に秘めている熱い想いと覚悟に、歩んできた”30年”の歴史を感じました。

 

後半に続きます。

 

前編 ⑤

 

【情報】

PRANA NARUTO‐ナルト‐展メインテーマ 音楽:吉田兄弟

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○PRANA NARUTO‐ナルト‐展メインテーマ
※プラーナ(サンスクリット語:प्राण (prāṇa, praaNa); 英語: prana)
気息。サンスクリットで呼吸、息吹などを意味する。生命力そのものとも考えられる。
○悠 -You- NARUTO‐ナルト‐展クロージングテーマ
他、アルバムに全5曲収録。

2015年4月29日発売
品番:MHCL2516
価格:¥1,500+税購入特典付き

アルバム「Horizon」

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◯風翔音『Fusion』 (「藤原竜也の一回道」オ ープニング曲)
◯Regalia
◯decollage ~吉田兄弟版・鳥の歌~
◯HORIZON
◯原郷 ~ゆきのおと~ (月刊少年マガジン連載「ましろのおと」コミックス第8巻スペシャルコラボCD収録曲)
◯nemure
◯Rite Of Harmony (吉田兄弟公演「和の祭典」メインテーマ曲)
 
全7曲収録

2014年7月23日発売
MHCL2459 2,593円+税

 

 文 / 新 麻記子   写真 / 新井 まる