feature

写生に傾倒し、日常から美を抽出した画家 『没後50年 福田平八郎』

NEWS

2024年5月5日

写生に傾倒し、日常から美を抽出した画家 『没後50年 福田平八郎』


写生に傾倒し、日常から美を抽出した画家 『没後50年 福田平八郎』

 

2024年3月9日(土)から5月6日(月・休)まで、大阪中之島美術館にて、『没後50年 福田平八郎』が開催されました。

明治時代に大分県で生まれた福田平八郎は、京都市立美術工芸学校と京都市立絵画専門学校で絵を学び、20代で第1回帝展にて初入選と第3回帝展で特選を獲得、京都画壇の寵児となり、大正から昭和にかけて日本画家として活躍しました。

 

以下、大阪の美術館では初、関西では17年ぶりであり、初期から晩年までの優れた作品約120件が集結している貴重な本展の見どころをご紹介します。

 

自称「写生狂」 自然を見つめる

 

自らを「写生狂」と認めた福田は、自然を隅々まで観察することによって対象を捉え、動物の骨格や毛並み、植物の葉脈やグラデーションなどを正確無比に描き出します。

 

彼の絵において、果実は多様な色味を含み、猫は油断のない表情を浮かべ、花々や葉の線は繊細この上なく描かれています。線の細かさや巧みな筆致、対象の質感を生かした表現、緊張感のある構図や余白の美など、一枚の絵の中に見どころがぎゅっと詰まっていました。

 

 

《朝顔》 大正15年(1926) 大分県立美術館

 

日常から抽象を取り出す

 

写実の時代を経て、昭和以降の福田は、鮮烈な色彩と大胆な構図、単純化された線などで構成される装飾的な絵を描くようになりました。

 

まるで着物の文様や北欧のテキスタイルのようにデザイン性が高い絵の数々は、海の波や水の波紋、水にはった氷などを抽象化することで生まれた作品とのこと。最初から線や点を選んで描いたのではなく、もともと自然の中にある具体的な要素を抽象に落とし込んだというのですから驚かされます。

 

恐らく、優れた写生の目を持っていたために対象を点と線に単純化できたのでしょうし、特徴的な形だけを取り出すセンスがあったのだろうと思います。

 

《氷》 昭和30年(1955) 

 

福田は釣りを愛好し、「描くのに水ほど興味があり、また水ほど困難なものはない」と言うほど水の観察に執心したそうです。

本展のキービジュアルになっている《漣(さざなみ)》は、重要文化財にもなっている作品で、うつりゆく水の波紋を捉えた名作です。

 

 《漣》重要文化財 昭和7年(1932) 大阪中之島美術館

 

他にも水面のメタリックな表情を捉えた《水》や、長らく未発表で複雑な線が目をひく《水》など、さまざまな水を描いています。いずれも多様な水の姿を先鋭的な感覚で切り取っており、優れた観察眼と集中力を感じさせます。

 

 

《水》 昭和33年(1958) 大分県立美術館 

 

水に近しい画題である雪を描いた《新雪》は、石は裏千家の路地と光悦寺の庭で写生したものを組み合わせており、触れるとホロホロと柔らかく崩れそうな雪は、明るい紫の下地に胡粉を置いて刷毛で叩くことで質感を出しているとのこと。

選び抜かれた線や色、質感を自分なりに再現する力、本質を単純化して配する画力など、この時期の福田が獲得していた技巧や工夫が感じ取れます。

 

 

《新雪》 昭和10年(1935)頃 大分県立美術館 

 

抽象性が際出つ絵の中では、《雲》も見逃せません。

大分県立美術館収蔵のこの作品は、所蔵館以外では初めての公開になります。歌川広重や葛飾北斎が愛好したベロ藍を思わせる深く鮮やかな青空は、プルシアンブルーなどの化学合成顔料が使われた可能性があるとのこと。

もくもくと沸き上がる雲は陰影が抑えられており、白色の印象が強化されています。選び抜かれた色と形が記憶に残る作品です。

 

 

《雲》 昭和25年(1950) 大分県立美術館

 

その他、福田は、日常のなにげない風景を画題に選んでいます。

例えば《牡蠣と明太子》はタイトル通りに牡蠣と明太子を画題にしていますが、形が似ている二種の食材において色の違いが際立ち、白の中に青を含んだ牡蠣と、朱色の中に多様な濃度がある明太子を見事に描き分けています。福田作品を鑑賞していると、生活の中には絵になりうるテーマ性や意外性が無数にあるのだと実感させられました。

 

 

《牡蠣と明太子》  昭和28年(1953) 大分県立美術館

 

福田の絵には、洗練や斬新さと共に、抒情性や静けさが伴います。また、素朴な画風の作品においても、品の良さが伴っています。画題がもともと持つ個性を残しながら、センスを発揮して絵に落とし込む技が福田作品の魅力であり、そういった点に国境や時代を越えて受け入れられる可能性が潜むのだろうと思います。

 

福田の肖像、言葉なども 作家本人を伝える展示

 

本展では、福田を捉えた写真なども展示されています。風雅な日本家屋で家族に囲まれる姿や、画業を行っていた部屋で佇む様子、日なたで本を眺める姿などを見ると、画家の人となりや、日常を大切にしていたことが伝わってきました。

 

 

会場パネルの福田の文章からは、詩情が漂います。これらは絵をより理解するヒントになりますし、また絵から滲み出る情緒が言葉の形を取ったのだと考えて読むと、展示全体が味わいを増すようにも思います。

 

 

画題に熱を注ぎ、写生に傾倒した福田平八郎は、なにげない日常から美を抽出し、生涯に渡って絵を描き続けました。

豊かな絵の才と比類ないセンス、尽きない創作欲と瑞々しい好奇心によって生み出された作品は、今後も古くなることはなく、見る者の目を楽しませ、心に染み入るのだろうと思います。

 

 

文=中野昭子

写真=新井まる

 

 

【展覧会概要】

没後50年 福田平八郎 

会期 : 2024年3月9日(土) – 5月6日(月・休) 

会場 : 大阪中之島美術館 4階展示室

https://nakka-art.jp/exhibition-post/fukudaheihachiro-2023/

 



Writer

中野 昭子

中野 昭子 - Akiko Nakano -

美術・ITライター兼エンジニア。

アートの中でも特に現代アート、写真、建築が好き。

休日は古書店か図書館か美術館か映画館にいます。

面白そうなものをどんどん発信していく予定。