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機械と人間の関係を問う「モダン・タイムス・イン・パリ 1925-機械時代のアートとデザイン」

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2024年1月12日

機械と人間の関係を問う「モダン・タイムス・イン・パリ 1925-機械時代のアートとデザイン」


機械と人間の関係を問う「モダン・タイムス・イン・パリ 1925-機械時代のアートとデザイン」

 

 

機械とアートを通して100年前にタイムスリップ
展示室に足を踏み入れると、そこにあるのは蒸気機関、車に・・・プロペラ?!

ここは・・・博物館?

いえいえ、ここはちゃんとポーラ美術館の展示室。

そんな、美術展のイメージとは少し違う意外な光景から始まる企画展「モダン・タイムス・イン・パリ 1925-機械時代のアートとデザイン」は、1920-1930年代のパリを中心に、当時急速に発展した機械と人間の関係を、アートやデザインを通して問いかける斬新な展示だ。

 

 

《蒸気機関模型》エリオット・ブラザーズ社 1870年代、東京大学総合研究博物館

 

 

AI、自動運転、電子決済・・・2023年の今を生きる私たちは、毎日どこかで新しいテクノロジーについての話題を耳にすることだろう。その時、あなたはきっと、期待ばかりではなく、不安や疑問も感じるのではないだろうか?

それは、20世紀初頭のパリを生きた人々にとっても同じだったらしい。彼らも、当時の最新テクノロジーだった電車や車、飛行機といった機械の先進性に胸を踊らせる一方で、どこか疑いも感じていたようだ。並べて展示された機械とアート作品から、当時の人々の心象を追体験することができる。

 

 

 

プロペラが鳥に!高まる機械への期待

(左から)《航空機用プロペラ》、株式会社青島文化教材社/コンスタンティン・ブランクーシ《空間の鳥》1926年(1982年鋳造)、滋賀県立美術館

 

 

大きなプロペラの横にそびえる黄金の彫刻作品は、20世紀を代表する彫刻家、コンスタンティン・ブランクーシの《空間の鳥》だ。天井へと真っ直ぐに伸びて輝く彫刻作品としての美しさはもちろんだが、実際のプロペラと並べて展示されることで、機械とアートが互いに影響を与え、近づいていった当時の様相を確かに感じることができる。

ブランクーシと共に航空ショーを見にいったマルセル・デュシャンの「絵画は終わった。誰がこのプロペラ以上のものを作れるというんだ?」という言葉は、当時の人々の機械への期待感をはっきりと伝えてくれる。

 

 

 

機械への疑いは新たなアートへ
一方で、機械が生んだ社会の変化は、人々の心に機械への疑いも生むようになっていた。その疑いを象徴するのが、本展のタイトルにもなっている喜劇王チャールズ・チャップリンの映画『モダン・タイムス』だ。歯車に巻き込まれていくチャップリンの姿が、機械に翻弄される当時の人々の様子を暗示する。

 

 

ジョルジョ・デ・キリコ《ヘクトールとアンドロマケー》 1930年頃、ポーラ美術館 ©SIAE,Roma & JASPAR, Tokyo, 2023 B0685

 

 

さらに、機械による近代化や合理主義に反発して、アート界で起きた大きな動きが「ダダ」や「シュルレアリスム」と呼ばれる運動だった。機械の機能を否定するようにアイロンに鋲を貼り付けたマン・レイの《贈り物》、機械のような無機的な人間の姿を通して人間の心を描こうとしたジョルジョ・デ・キリコの《ヘクトールとアンドロマケー》などからは、彼らが抱いた機械への疑いを読み取ることができる。

 

 

 

香水瓶に日本のポスター 見どころたっぷりな作品の数々

会場風景(展示室1)

 

 

その他にも、見どころはたっぷりだ。

特に、長い曲線の展示ケースにずらりと並ぶ、ルネ・ラリックらがデザインした香水瓶の数々は、ポーラ美術館だからこそ見れる展示だろう。実は、そうした香水瓶も機械と無縁ではない。そのデザインは、機械から影響を受けた幾何学的なスタイルを特徴とする「アール・デコ」のムーブメントの中で生まれたものなのだ。

 

 

(左から)杉浦非水《 ポスター「東洋唯一の地下鉄道上野浅草間開通」》1927年、愛媛県美術館/杉浦非水《ポスター「上野地下鉄ストア」》1931年、愛媛県美術館/杉浦非水《ポスター「ヤマサ醤油」》1920年代、個人蔵/杉浦非水《ポスター「萬世橋まで延⾧開通 東京地下鉄道」》1929年、個人蔵

 

 

また、パリから影響を受けた日本の作品も必見だ。A.M. カッサンドルらアール・デコ時代のパリの作家に学び、日本の地下鉄のポスターを描いた杉浦非水、ダダやシュルレアリスムを受容して独自の表現を模索した中原實や河辺昌久といった作家の作品は、機械の力で急速に近代化を進めていく関東大震災後の日本の様子を教えてくれる。

このように、機械が発展した時代の影響を知って作品を見ると、作品のみを鑑賞するだけでは見えづらかった新たな美のレイヤーを見つけられることだろう。

 

 

 

今を生きる私たちとテクノロジー

(左から)空山基《Untitled_Sexy Robot_Space traveler》2022年/空山基《 Untitled_Sexy Robot type II floating》2022年/空山基《Untitled_Sexy Robot_Space traveler》2022年
Courtesy of NANZUKA © Hajime Sorayama

 

 

展覧会は、ムニール・ファトゥミ、空山基、ラファエル・ローゼンダールという3名の現代作家の作品で幕を閉じる。

『モダン・タイムス』が描いた時代から約100年の時を経て、今私たちは、テクノロジーが急速に発展する様を改めて目の当たりにしている。本展は、私たちがテクノロジーに感じる期待や不安が、対象が機械からAIやインターネットに変わったとは言え、当時のパリの人々とそう大きくは変わらないことを教えてくれる。

テクノロジーが好きなあなたはもちろんのこと、苦手なあなたも、ぜひ気軽に訪れてみてほしい。きっと、彼らの時代を追体験する時間は、今のテクノロジーとの向き合い方を新しい視点で考え直すきっかけを与えてくれることだろう。

展示室を抜けていつものようにスマホの画面を見たあなたの中には、いつもと違う感覚が生まれている・・・かもしれない。

 

 

ラファエル・ローゼンダール《Into Time .com》2010年、ヌー・アバス蔵
© Rafaël ROZENDAAL

 

 

ARTalk的見どころ

モチーフと作品を同時に鑑賞

絵画のモチーフは無数にある。例えば山や女性。モチーフと作品を並べて展示できたら面白そうだけれども、まさか山や女性を作品と一緒に展示することなんてできない・・・。

その面白そうな試みを実現してしまっているのが本展だ。そう、機械なら作品と一緒に展示できてしまえるのだ。作家が驚きをもって見たであろう本物の機械を、作品と一緒にあなたも体感することで、まるで約100年前のパリにタイムスリップしたかのような体験ができる。

 

テクノロジーを考え直すきっかけに

テクノロジーと聞くと、どうしても最先端というイメージが思い浮かばないだろうか?

本展に展示されている機械を見ると、昔の、古いものに感じられるかもしれない。でも、どんなテクノロジーも、いつかの昔は最先端だった。逆に言うと、どんなに最先端でも、いつかは古くなるものだ。振り返ってみると、携帯電話、パソコン、SNSに、クレジットカード、電子決済・・・今では当たり前になってしまったテクノロジーに不安を覚えた時代を思い出せることだろう。

本展で体感できる約100年前の人々の期待と不安は、そんな私たちのちょっと昔を思い出させてくれ、テクノロジーのこれから、そして自分とテクノロジーとの関係を考え直すきっかけとなるはずだ。

 

 

 

文=山下港
写真=新井まる

 

 

 

展覧会概要
モダン・タイムス・イン・パリ 1925-機械時代のアートとデザイン
会期|2023年12月16日(土)-2024年5月19日(日) 会期中無休(※一部展示替えあり)
会場|ポーラ美術館 展示室1、2
住所|〒250-0631 神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285
電話番号|0460-84-2111
開館時間|午前9時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
料金|大人 / 1,800円、シニア割引(65歳以上) / 1,600円、大学・高校生 / 1,300円、中学生以下 / 無料、障害者手帳をお持ちのご本人及び付添者(1名まで) / 1,000円
主催|公益財団法人ポーラ美術振興財団 ポーラ美術館
後援|フランス大使館/アンスティチュ・フランセ
展覧会特設サイト|https://www.polamuseum.or.jp/sp/moderntimesinparis1925/

 

 

トップ画像:会場風景(展示室1)