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縁起物だらけの展覧会「国宝 雪松図と吉祥づくし」

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2022年12月25日

縁起物だらけの展覧会「国宝 雪松図と吉祥づくし」


縁起物づくしの作品を雪松図とともに 「国宝 雪松図と吉祥づくし」が三井記念美術館で開催中

 

 

東京・日本橋の三井記念美術館にて、「国宝 雪松図と吉祥づくし」が、2023年1月28日(土)まで開催中。

本展は毎年この時期恒例の、三井記念美術館の代表コレクションである円山応挙筆 国宝「雪松図屏風」の公開に合わせ、“吉祥(縁起の良い主題)”を扱った作品に焦点を当てた展示となっている(館の大規模改修などのため、《雪松図屏風》の冬の公開は3年ぶりとなる)。

《雪松図屏風》は、応挙の写生の到達点に位置付けられ、表現の迫真性や、奥行きを意識した構図から、「描かれたモチーフがその場に存在するかのような絵画」と語られることが多い。また、元来主題の松は、永遠不変や長命を表わし、地の金泥や金砂子は祝祭的な気分を演出する、まさに“吉祥”そのものである点に注目したい。

今回の展示では、《雪松図屏風》とともに、古来電量の花とされる牡丹、長寿や多子の象徴とされる鶴や鹿、柘榴(ざくろ)や枇杷(びわ)、瑞鳥(ずいちょう)とされる鳳凰、雉など、縁起のよい主題を表した絵画、陶限器、漆器などの作品を展示する。本記事では、その一部を紹介しよう。

 

国宝《雪松図屏風》円山応挙筆(18世紀) 三井記念美術館

和歌山城で飼育されていたクジャクの卵を使った香合。 孔雀卵香合 了々斎好(19世紀)  三井記念美術館

藤花独猫図 沈南蘋筆(18世紀)  三井記念美術館

 

応挙や伊藤若冲らにも影響を与えた中国の画家、沈南蘋の《藤花独猫図》。子孫繁栄を象徴する蔓草の下に、輪郭線を用いず描かれた、鮮やかな色彩の牡丹や蒲公英(たんぽぽ)。ふてぶてしくも見える、猫の表情もどこか愛らしい。唐の皇帝・玄宗と楊貴妃が愛した逸話があるように、牡丹は“百花の王”として中国の貴族たちに好まれ、「国色天香(国で最も美しい色と芳香を備える花)」と謳われてきた、おめでたいモチーフである。また、中国語で、猫は長寿を意味する「耄(ぼう)」と同音で、しばしば富貴の象徴である牡丹とセットで描かれたそうだ。

 

麝香猫図 伝徽宗筆(16〜17世紀)  三井記念美術館

 

《麝香猫図》は、額に大きな斑点をもつ猫が、竹の枝にじゃれつく様子が描かれている。伝称筆者である北宗の皇帝・徽宗(きそう)は、日本では猫図・鷹図の名手としても認識された。しかし本作を含めその多くは、南宗の宮廷画家様式を継ぐ、後代の画家による作品と考えられているため、あくまでも“伝” 徽宗筆とされている。猫の表情自体には愛嬌はないが、もふもふとした尻尾の質感が魅力的な作品だ。

 

東都手遊図 源琦筆(1786)  三井記念美術館

 

天明6年(1786)の夏(新暦1~5月)に、北三井家7代・高就の誕生に先立って描かれた祝い品と伝わる《東都手遊図》は、紅葉を背に様々な玩具とミミズクが描かれている。ミミズク自体に縁起物のイメージはないが、「みみずく達磨」は当時、子供を天然痘から護るお守りとして好まれた。初夏であるにも関わらず描かれた、秋の紅葉の赤もまた魔除けの護符と考えられ、赤子への愛情を感じ取れる一幅だ。

 

紫交趾写蓬莱山舟形香炉 乾山写竜田川絵箱入 永樂得全作(1907)  三井記念美術館

 

《紫交趾写蓬莱山舟形香炉》は、花入および香知として作られた作品。題名に蓬莱山とあるが、主題は謡曲の「白楽天」とみられ、右から船頭、白楽天、漁夫を配したものであろうか。それぞれの岩には琳派風に松竹梅が描かれ、めでたさを添えている。

 

堆朱乗鶴仙人図桃形料紙箱 (17〜19世紀 )  三井記念美術館

 

《堆朱乗鶴仙人図桃形料紙箱》は、厚く塗り重ねた漆に文様を彫り表す“彫漆(ちょうしつ)技法”による作品で、鶴に乗る仙人を表した桃形の料紙箱だ。三千年に一度実を結び、食べると長寿になるとされた「蟠桃(ばんとう)」の伝説から、桃は長寿と結びつけられた。仙人を囲む円窓も、長寿を意味する霊芝文からなり、鶴と合わせて長寿への願いで埋め尽くされた作品と言える。

 

色絵鶏香合 野々村仁清作(17世紀)  三井記念美術館

 

身近な飼い鳥である鶏は、夜明けを告げる瑞鳥(縁起のいい鳥)としても親しまれてきた。古代中国では、長く続いた善政のために、不満を訴える太鼓に苔がむし、鶏が止まったという伝説(かんこどり)があり、鶏は天下泰平とも結びつけられた。

 

桜雉子蒔絵文台、桜雉子蒔絵硯箱 (18世紀)  三井記念美術館

 

《桜雉子蒔絵文台、桜雉子蒔絵硯箱》は、文台天板と硯箱蓋表には、繁殖力が強く、子孫繁栄を象徴する雄雌の雉子とひな鳥、桜・梅などの春草などが高時絵で表されている作品。文台に描かれた親鳥の一羽は飛来する姿で表し、変化を見せる。硯箱蓋裏にも、松・橘・鶴・亀など吉祥的なモチーフが配されている。

 

大黒図 寄合描 三井高祐ほか7名筆(19〜20世紀)  三井記念美術館

 

《大黒図 寄合描》は、本展初公開の作品。「七福神」中でも、商売繁盛に結び付く大黒天・恵比寿の二神は、呉服商であった三井家にとって特に重視されたモチーフだ。北三井家6代・高祐(1759-1838)が文化元年(1804)に大黒を描き、そこから幕末前後にかけて、三井家の人々が何らかの節目に、段階的に描き加えた一種の合作とみられる。北三井家7代・高就(1786-1857)が俵の山を、その子である高福(1808-85)、高潔(1819-81)らが宝珠を描いている。左下の「六才」とだけ記された子どもが描いたであろう宝珠図が何とも微笑ましく、本作を囲んだ北三井家の一家団欒の様子を見るかのような気分にさせてくれる。

 

寿老人図 伝秋月等観筆(15〜16世紀)  三井記念美術館

 

医療が未発達な近代以前においては、長寿を保つことや、子宝に恵まれることへの祈りは切実なものだったことは想像に難くない。《寿老人図》は、円窓型の画面に、鶴と鹿を連れた長頭の仙人が描かれている。牙をむき出しにする鹿や、険しい表情を浮かべる仙人は、七福神の寿老人と福禄寿の両方の元となった、道教神の寿星の威厳を表現したものであろう。寿星は竜骨座のカノープスという実在の恒星で、信仰にあたって長頭の仙人として擬人化された。

 

不安定な世が続く中、縁起物づくしの本展を鑑賞し、新年を晴れやかな気持ちで迎えてみてはいかがだろうか。

 

文=鈴木隆一

写真=新井まる

 

 

【展覧会情報】

「国宝 雪松図と吉祥づくし」

会期|2022年12月1日(木)〜2023年1月28日(土)

会場|三井記念美術館

住所|東京都中央区日本橋室町2-1-1 三井本館 7階

開館時間|10:00〜17:00(入館は16:30まで)

休館日|月曜日(1月9日(月・祝)は開館)、年末年始(12月26日(月)〜1月3日(火))、1月10日(火)

入館料|一般 1,000円(800円)、高校・大学生 500円(400円)、中学生以下 無料

※70歳以上は800円 (要証明)

※リピーター割引:会期中、一般券ないし学生券の半券の提示により、2回目以降は( )内の割引料金で入館可

※障害者手帳の提示者および介護者1名は無料(ミライロID可)

※開催内容は変更となる場合あり(最新情報については、美術館ホームページないしハローダイヤルにて確認のこと)

TEL:050-5541-8600 (ハローダイヤル)

https://www.mitsui-museum.jp

 

 

 

トップ画像:国宝《雪松図屏風》円山応挙筆(18世紀) 三井記念美術館



Writer

鈴木 隆一

鈴木 隆一 - Ryuichi Suzuki -

静岡県出身、一級建築士。

大学時代は海外の超高層建築を研究していたが、いまは高さの低い団地に関する仕事に従事…。

コンセプチュアル・アートや悠久の時を感じられる、脳汁が溢れる作品が好き。個人ブログも徒然なるままに更新中。

 

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