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建築家・隈研吾の大規模展!ネコの視点で考える”公共性”とは

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2021年7月25日

建築家・隈研吾の大規模展!ネコの視点で考える”公共性”とは


建築家・隈研吾の大規模展!ネコの視点で考える”公共性”とは

 

誰もが認める日本を代表する建築家のひとり、隈研吾氏。彼の作品の中から公共性の高い68件の建築を、隈氏が考える5原則に分類して紹介する『隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則』が、東京国立近代美術館で9月26日まで開催中だ。

 

エントランス風景《浮庵》(2007)

 

 

本展は、有料の第1会場と入場無料の第2会場からなる2部構成。第1会場は、隈氏が設計した参画した国立競技場のスタディ模型を紹介する序論から始まる。

1964年開催の東京オリンピックの際に見た丹下健三の国立屋内総合競技場(現・国立代々木競技場)に衝撃を受け、幼少期より建築家を志したという隈氏。彼が設計に参画した国立競技場がメイン会場として使用される東京オリンピックが開催される年に、東京国立近代美術館では初となる建築家単独の大規模展覧会が開催されたのは最初から決まっていた運命にも感じてしまう。

 

《国立競技場》(2019)模型

《展示風景》

 

 

隈氏はコロンビア大学客員教授を経て、90年に隈研吾建築都市設計事務所を設立した後は、20ヶ国超の国々でその土地の文化に溶け込む建築を手掛けているため海外でも人気のある建築家のひとりだ。世界でも認知度が高い建築家なだけに、海外からも訪れたであろう多くの観客がこちらの会場に足を運べないことは大変残念である。

 

彼の手掛けた建築の中でも”公共性”という部分に着目して隈自身がピックアップした68の建築の展示が息つく間もなく続く。

それらは時系列ではなく、自身が考える”人が集まる場所”のための5原則「孔」「粒子」「斜め」「やわらかい」「時間」という5つのキーワードで分類され、構成されている。

それらのキーワードについての説明文はどれも非常に興味深く考えさせられる内容なので、読み進めながら展示を堪能してほしい。

 

渋谷スクランブルスクエアなど都市のど真ん中のシンボル的な建築から、地方の市役所等住の生活の一部である建築、更には海外での活躍…”あれも、これも隈建築か”という圧巻の仕事量である。

 

作品の選定にとどまらず、章解説や作品解説はすべて隈氏本人によるもの。また、展示デザインは隈研吾建築都市設計事務所が手がけている。

 

《ホテルロイヤルクラシック大阪》(2020)模型

 

 

また、隈研吾といえば根津美術館やサントリー美術館などの美術館や、GINZA KABUKIZAの建築も手掛けていることから建築ファンのみならずアート好きにも良く知られている。

ついつい建築自体のデザインや美しさに目が行きがちであるが、本展では公共の場としての機能を果たしている日常風景を動画で紹介しているのも非常に面白い。

普通に働く人や何かの手続きをする人が映像には映るが、空間を面積以上に広く感じる吹き抜けの美しい空間に、きっと少し気持ちが高まっているのではないだろうか。

 

《 映像インスタレーション(アオーレ長岡)》監督:藤井光

《アオーレ長岡》(2012)模型

 

 

映像作品はその他にも、先端技術を用いて本展のために準備されたものが展示されている。

「映像インスタレーション(梼原の隈建築)」 

初期から最近作まで6つの隈建築が存在する高知県西部の山間にある梼原町で、それらの建築を写真家で映像作家の瀧本幹也がハイスピードカメラを用いて撮影。リアル4Kによるリリカルな映像インスタレーションを坂本龍一の音楽とともに観ることができる空間は、日本の伝統的建築にインスパイアされた建築の造形美を堪能できる。

 

《V&Aダンディー》(2018)模型

 

 

また、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館初の分館となる《V&Aダンディー》をアイルランドのマクローリン兄弟によるタイムラプス映像で紹介している。

この展覧会の中でも比較的大きい模型越しに観る映像がとてもカッコイイので見入ってしまった。

 

《梼原 木橋ミュージアム》(2019)模型

 

 

5つのキーワードの中でも最も隈研吾建築のイメージに直結していると感じたのは『粒子』だ。

ジェームズ・ギブソン(1904-79)のアフォーダンス理論に触れ、透明性にとって代わる概念として粒子という概念に到達したという隈氏。

 

”まず建築という大きな塊をとりあえず、粒子の集合体として粒子が集まった雲(クラウドのようなもの)としてデザインする。そうすると建築のりにある雑多なモノたちと建築を構成する粒子の区別がなくなり、どちらも同じように、モノの集合体として見えてくる。その状態を「すべては粒子である」と呼んでもいいし、「すべてが建築である」と呼んでもいい。”

 

森のような建築物を作り、梼原の森の中に溶け込ませることをイメージしたという《梼原 木橋ミュージアム》も伝統的な木材表現をモチーフとして、刎木(はねぎ)を何本も重ねながら、桁を乗せていく「刎橋」という架構形式を採用した。刎橋は山梨県にある『猿橋』のみが木板貼りの鉄骨造に変わって唯一現存しているだけである。更にこれを敷地の地形に適用させるために、鉛直荷重を受ける橋脚を中心として両端のバランスを取ることで、「やじろべえ型刎橋(はねばし)」と言うべき新たな架構形式が出来上がった。この建築は森林の景色とマッチしており、建築のみを切り離してみることの方が難しい。隈建築がその場所の歴史や文化だけでなく景観も含めて私たちに印象として残ることの理由が少しわかった気がした。

 

《梼原 木橋ミュージアム》(2010)模型

 

 

”ネコの視点”という切り口の本展覧会は、会場内の模型にネコが多数出現しているので是非みつけることも楽しんでほしい。

 

 

第2会場では、人間ではなく、「ネコ」の視点から都市での生活を見直すリサーチプロジェクト《東京計画2020(ニャンニャン)ネコちゃん建築の5656(ゴロゴロ)原則》(Takramとの協働)が展示されている。ネコにGPSをつけた記録や、ネコの習性、生態を取り入れた新しい都市の考え方だ。

 

元々はオリンピックが開催される予定だった2020年日本博の一環として企画された本展だが、コロナウルスの影響により延期。未曾有のウルスによって世界中が建物の在り方を今一度見直し考え直すきっかけの一つになったのではないだろうか。

 

土地の特性や景観にになじみ、空間を広く感じさせるような設計が得意な隈建築の魅力とその本質に迫ることができる重厚な内容の本展をお見逃しなく。

 

文:山口 智子

写真:新井 まる

 

 

【開催概要】

隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則

東京国立近代美術館 1F 企画展ギャラリー

〒102-8322 千代田区北の丸公園3-1

https://kumakengo2020.jp/

 

【期間】

2021年6月18日(金)~9月26日(日)

休館日:月曜日[ただし7月26日、8月2日、9日、30日、9月20日は開館]、8月10日(火)、9月21日(火)

時間:10:00-17:00

*入館は閉館30分前まで

※当面の間、金・土曜日の開場時間は 10:00~20:00(*最終入場19:30まで)となります】

【料金】

⼀般 1,300(1,100)円

大学生 800(500)円

*( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。

*高校生以下および18歳未満、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。それぞれ入館の際、学生証等の年齢のわかるもの、障害者手帳等をご提示ください。

*キャンパスメンバーズ加入校の学生・教職員は、学生証・職員証の提示により団体料金でご鑑賞いただけます。

*本展の観覧料で入館当日に限り、同時開催の所蔵作品展「MOMATコレクション特別編 ニッポンの名作130年」(4-2F)、コレクションによる⼩企画「鉄とたたかう 鉄とあそぶ デイヴィッド・スミス《サークルⅣ》を中心に」(2F ギャラリー4)もご覧いただけます。

※混雑緩和のため、オンラインでの事前予約をお勧めしています。詳細は美術館ウェブサイトをご確認ください。

 



Writer

山口 智子

山口 智子 - Tomoko Yamaguchi -

皆さんは毎日、”わくわく”していますか?

幼いころから書道・生け花を始めとする伝統文化を学び、高校では美術を専攻。時間が許す限り様々な”アート”に触れてきました。

そして気づいたのは、”モノ”をつくることも大好きだけれど、それ以上に”好きなモノを伝える”ことにやりがいを感じるということ。

現在、外資系IT企業に勤めながらもアートとの接点は持ち続けたいと考えています。

仕事も趣味も“わくわくすること”全てに突き動かされて走り続けています。

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