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電線のある風景、最高じゃないか。電線づくしの「電線絵画展」

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2021年3月27日

電線のある風景、最高じゃないか。電線づくしの「電線絵画展」


電線のある風景、最高じゃないか。電線づくしの「電線絵画展」

 

私は空の写真を撮るのが好きで「今日の空いいな〜。」と思ったら、iphoneをすぐさま取り出し撮影をします。空だけの写真を撮りたい時は、なるべく他のものが写り込まないように画角との勝負です。

電線が写ると「あちゃー、写ってしまった。」と撮り直し、自分にとって「これだ!」と思う画角を見つけるまで空を眺め続けるので首が凝ることも)。

 

そんな私がお邪魔した展覧会は、練馬区立美術館の「電線絵画展」です。

 

 

展示室内を見渡すと、電線、電線、電線……!電線が描かれている作品がずらりと展示されていました。

 

電線を写り込ませないように必死に撮影していた私にとって、「電線が主役や名脇役として描かれている作品があるんだ!」と驚きました。

電線主役?名脇役

 

本稿では個人的に「この電線は、主役もしくはバイプレーヤーなのでは?!」と思った作品を3点ご紹介します。

 

 

 

 

電信柱が主演。笠井鳳斎「本郷三丁目及同四丁目の図」

 

笠井鳳斎《本郷三丁目及同四丁目の図》(『風俗画報』新撰東京名所図会第四十九編本郷区之部 其二より)明治40年(1907)個人蔵

 

電線が一番に目に飛び込んでくるインパクトのある挿絵が印象的なこちらの作品は、笠井鳳斎の「本郷三丁目及同四丁目の図」。華やかな映画で主演を務めるキャストのように感じました

 

なぜたくさんの電線があるのかというと、当時は電信線(電気通信、今でいう電話やメールを送受信するための電線)と電線(電気用の電線)がそれぞれ別の電線を使用していたため、多くの電線が交差していたそうです。

 

主役並みに描かれている電線ですが、よく見ると端のほうははっきりと描かれていません。そういった描かれ方が作品に奥行きをもたらしているのかもしれません。

 

そして本郷三丁目といったら、東京大学のある土地です。明治時代からレストランや本屋などの店が並ぶだったよう、当時の東大生はどんな学生ライフを満喫していたのだろう……と想像するのも楽しそうです。

 

 

 

主役顔負けのバイプレーヤー電信柱!小林清親《従箱根山中富嶽眺望》

 

小林清親《従箱根山中富嶽眺望》明治13年(1880)千葉市美術館

 

 

富士山顔負けの堂々たる電信柱の存在感。

日本の象徴である富士山をメインに描きたくなるところですが、電信柱を取り入れたことにより、富士山が描かれたよく見る風景画とは一味違う作品になったのではないでしょうか。

 

ふんわりとした色調で描かれている風景画のなかに存在する電信柱のおかげで、全体的にグッと引き締まった印象になっています。恐るべし、バイプレーヤー電信柱のファインプレー。

 

文明開化の象徴の一つでもある電信柱と、江戸時代らしい旅人の服装から時代の移り変わりを垣間見ることのできる作品です

 

 

 

まるでミュージックビデオのワンシーンのよう。川瀬巴水《東京二十景「新大橋」》

 

川瀬巴水《東京二十景「新大橋」》大正15年(1926)渡辺木版美術画舗

 

最後は、ミュージックビデオのワンシーンを切り取ったような川瀬巴水の《東京二十景「新大橋」》。

 

雨の中にさりげなく溶け込んでいる電線がなんとも言えません。雨を表現した縦線と多方向に伸びる電線の交差を描くと混沌としそうですが、全体的に統一された色で描かれているので夜の静けさ漂う雰囲気になったのではないでしょうか。

さらに藍色の夜空をぼんやりと照らす街灯が作品の世界観に切なさをプラスしています。BGMをつけるなら失恋ソングが似合いそうな浮世絵です。

 

夜中に間接照明で照らされた部屋の中でお酒を嗜みながら作品を眺めてみたい……と想像してしまいました。

 

 

 

今回は3作品に絞りご紹介しましたが、電信柱がモチーフとなっている現代アートや電柱に電線を固定するための道具、碍子(がいし)など電信柱に関わる作品や展示物が目白押しです。この「電線絵画展」を開催するために担当学芸員さんは約10年間調査に費やしたそうです!電線への熱い思いが伝わる展覧会、まだまだ魅力ある作品が展示してあるのでぜひ一度足を運んでいただきたいです

 

 

 

今まで電線を写さないように撮影していた私でしたが、この展覧会がきっかけで電線のある風景の魅力に気づくことができました。

さっそく、展覧会の帰り道駅のホームを見上げたら電線が見えたので写真を撮ってみました。

 

撮影:青波 凜

 

 

電線を主役として撮影するか、バイプレーヤーとして撮影してみるか。

写真の腕はまだまだですが、風景を撮影する時の楽しみ方がまたひとつ増えました。

 

文=青波 凜

写真=新井まる

 

 

 

【展覧会情報】

「電線絵画展-小林清親から山口晃まで-」

 

会期:2021年2月28日(日)~2021年4月18日(日)

会場:練馬区立美術館 

住所:東京都練馬区貫井 1-36-16

電話:03-3577-1821

開館時間:午前10時~午後6時 ※入館は午後5時30分まで

休館日:月曜日  

料金:一般 1,000円 / 高校・大学生および65~74歳 800円 / 

     中学生以下および75歳以上 無料 / 障害者(一般) 500円 / 

       障害者(高校・大学生)400円 

https://www.neribun.or.jp/event/detail_m.cgi?id=202012111607684505