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ありのままを受け入れることで、作品になる。髙畠依子「MARS」展

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2020年11月2日

ありのままを受け入れることで、作品になる。髙畠依子「MARS」展


ありのままを受け入れることで、作品になる。髙畠依子「MARS」展

 

画面に幾重にも引かれた真っ黒な線たち。

遠目からみていると、なにかの暗号だったり、宇宙との交信のようにも見えてくるし、

ひとたび近づいてみると、ところどころ描かれた絵の具が盛り上がったり、毛羽立っていて、一体どのように描いているのだろうと観察してしまいます……。

 

黒一色で描かれた作品たちは髙畠依子さんによるもの。

展覧会のタイトル「MARS」は、今回使用した油絵具「mars black」からきていますが、同時に火星や、ローマ神話の軍神マルスの意味も持っています。

 

 

不思議なテクスチャーと、線の動きの秘密は磁石なのだそう。      

 

油絵具「mars black」には酸化鉄が含まれていて、磁石を近づけると、絵具がヒュッと吸い寄せられる。

そこにに更に砂鉄をプラスしているので、画面に毛羽立ちが出たり、立体的になったりしています。

 

 

今回の展覧会では2種類の描き方をされています。

制作のプロセスを髙畠さんから伺いました。

 

まずキャンバス上に油絵具で直線を引き、そのキャンバスを裏返して磁石をあてる方法。

磁石をあてる距離、スピード、回数で仕上がりが変わります。裏側から作業するので完成形が見えないため、予め回数を決めているのだとか。

 

もうひとつは、キャンバスの裏に丸型の磁石を置いて、表から直線を描く方法。

画面上に黒い丸がたくさんあるのがこちらの方法で描かれた作品たちです。

 

 

磁石を使って描くというユニークなスタイルの髙畠さんですが、

以前のシリーズからの変遷を知るとより興味が湧いてきます。

 

風、水、火…と1年ごとに取り組まれてきて、今回が磁力

しかもそれが毎回偶然にテーマが決まっていったというので驚きです。

 

過去の作品もほんの少しですが、ご紹介しましょう。

 

  •  

 キャンバスに引き描いた絵の具が乾く前にブロワーの風圧を当てることで、格子構造に動きを加え「風」の現象を留めたたシリーズ

 

髙畠依子  TAKABATAKE, Yoriko《水浴、砂》2020, Oil on canvas, 142×142cm

 

 水面上に垂らした油絵の具が水流や水圧、重力などの要素によって浮遊し定着したシリーズ

 

髙畠依子  TAKABATAKE, Yoriko《Dust, prussian blue》2017, oil, acrylic on panel, 142×85cm

 

 描いた線をバーナーで焼くことで、油絵の具が黒く変色し、熱で溶け出す瞬間を留めたシリーズ

 

髙畠依子  TAKABATAKE, Yoriko《ヴィーナス, 燃 PR3》2019, oil, oil, acrylic, alkyd resin, bees wax on panel, 142×95cm

 

 

今回の磁力もそうですが、髙畠さんの作品は自然にまかせる部分がかならずあって、余白のように感じました。

 

「自然を受け入れることが大切。

 ありのまま、そうなった現象を受け入れること。受け入れると、作品になる。」

 

と、話してくださった髙畠さん。

 

地球で生きている私たち、一人一人がそういう考え方ができたら、より自然と共存できるのではないでしょうか。

彼女の作品をみていると、そんな気持ちになってきます。

 

 

最後に、髙畠さんからメッセージをいただきました。

 

 

是非生でみてほしい。

物質と対峙すること、体感することが大切だと思います。

こんな時代だけれど、気をつけながら……

ぜひ実際に足を運んで見ていただけるとうれしいです。

 

髙畠依子

 

 

文・写真=新井まる

 

 

 

【profile】

髙畠依子(Yoriko Takabatake)

1982年福岡県生まれ、東京都在住。東京藝術大学大学院博士課程在籍中にアニ・アルバースの研究のためにアルバース財団でのレジデンスを経験した髙畠は、芸術やデザインなど多分野に渡る素材や色彩、ものの構造に対して常に意識的な制作を続けている。画布の上に絵具を糸のようにして網状に重ねてキャンバスを再生成するかのような絵画を始め、絵具に風、水、火などの「諸元素」を用いて「作り、壊し、また作る」という弁証法的な作法をベースに偶然性を取り入れるなど、実験・思索・試行を積み重ね、新たな絵画表現の可能性に積極的に挑んだ作品を発表し続ける。

主な個展に「泉」シュウゴアーツ(東京、2018)、「水浴」シュウゴアーツ ウィークエンドギャラリー(東京、2016)、「Project N 58 髙畠依子展」東京オペラシティアートギャラリー(東京、2014)など。主なグループ展に「TRICK-DIMENSION」TOKYO FRONT LINE(東京、2013)、「アートアワードトーキョー丸の内 2013」(東京、2013)、「DANDANS at No Man’s Land」旧フランス大使館(東京、2010)など。

 

 

【展覧会情報】

髙畠依子「MARS」

会期:2020年10月24日(土) – 11月28日(土)

会場:シュウゴアーツ 106-0032 東京都港区六本木6丁目5番24号 complex665 2F

火~土曜 正午 – 午後6時(日月祝休廊)

http://shugoarts.com/news/23496/

 



Writer

【代表】新井 まる

【代表】新井 まる - MARU ARAI -

話したくなるアートマガジン「ARTalk(アートーク)」代表

株式会社maru styling office 代表取締役

 

イラストレーターの両親のもと幼いころからアートに触れ、強い関心を持って育つ。大学時代からバックパッカーで世界約50カ国を巡り、美術館やアートスポットなどにも足を運ぶ旅好き。新卒採用で広告代理店に就職し3年間勤務の後、アパレルEC部門の販促に約1年間携わる。人の心が豊かになることがしたいという想いから、独立。2013年にアートをカジュアルに楽しめるwebマガジン「girls Artalk」を立ち上げる。現在は「ARTalk(アートーク)」と改名し、ジェンダーニュートラルなメディアとして運営中。メディア運営に加え、アートを切り口にした企画・PR、コンサルティングなどを通じて、豊かな社会をめざして活動中。

好きなものは、自然と餃子と音楽と旅。

 

●Instagram: @marumaruc   

話したくなるアートマガジンARTalk(アートーク)」