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現代美術に「それぞれのモネ」を発見!『モネ それからの100年』

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2018年7月30日

現代美術に「それぞれのモネ」を発見!『モネ それからの100年』


 

現代美術に「それぞれのモネ」を発見!『モネ それからの100年』

 

 

横浜美術館で『モネ それからの100年』展が始まりました。モネは印象派の巨匠として広く知られていますが、本展は印象派展ではありません。モネの絵画25点に対し、モネ以後の作家による作品が66点。モネによって切り開かれた印象派以降、リアルタイムで活躍中の作家まで続く現代美術に「それぞれのモネ」を見出し、モネの先駆性を改めて捉えようとする展覧会なのです。

 

 

 

 

 


クロード・モネ《睡蓮》1914-17, 群馬県立近代美術館(群馬県企業局寄託作品)

 

 

 

印象派が生まれた1870年代、モネのどこが新しかったのかをおさらいしながら、国内外のさまざまなアートとモネとの結びつきを発見していきましょう。

 

 

 

モネのここがすごい①描いた痕跡を隠さない!

 

 

 

印象派の特徴的な技法である色彩分割は、絵の具をパレットの上で混ぜるのではなく、原色を点や線に細かく分割してキャンヴァス上に並べ、離れて見た時に視覚混合を引き起こすというものです。色彩分割をすることで混色による濁りを防ぎ、自然光の明るさを表現しようとしました。

 

当時の主流は、筆の跡をきれいに消して実物のようになめらかに仕上げた絵画。筆触や塗り残しの目立つ印象派の絵画は、未完成のようだと批判されることもありました。しかし、絵が画家によって描かれたものであることを隠さない物質性や、瞬間を画面に写し取ろうとする即興性、そして画面に近づくとフォルムが崩壊していく抽象性が、その後、生まれる多様な絵画へとつながっていくのです。

 

 

 


[左から] ルイ・カーヌ《WORK 8》、ウィレム・デ・クーニング《風景の中の女》、クロード・モネ《モンソー公園》

 

 


クロード・モネ《バラの小道の家》1925, 個人蔵(ロンドン)

 

 

 

会場には、モネの作品と並んで、19世紀末から現代までの個性豊かなアーティストたちによる作品が展示されています。

 

 

 


湯浅克俊 [左から]《Quadrichromie》、《RGB#2》、《RGB#1》

 

 

 

湯浅克俊の作品は木版画です。左は、一つの風景が彫られた4枚の版を、青・赤・黄・黒の4色で重ね刷りした作品。右は、赤・緑・青それぞれの色で摺った3枚の和紙を重ね、後ろから光を当てたライトボックスです。モネとは違う形で色彩分割を行っています。色々な角度から眺めて、色調の変化を楽しみましょう。

 

 

 


ルイ・カーヌ [左]《彩られた空気》[右]《WORK 8》

 

 

 

1860年代にフランスで起こったシュポール/シュルファス(支持体/表面)運動の代表画家であるルイ・カーヌは、支持体に金網を使いました。網の目に載った絵の具は物質として浮かび上がり、壁に色のついた影を落とします。絵の具を物質として見せる方法にも多くの可能性があることが分かります。

 

 

 

モネのここがすごい②形のないものを写し取る!

 

 

 

モネが繰り返し取り組んだ代表的なモチーフに「睡蓮」や「ルーアン大聖堂」などがありますが、モネが描こうとしたのは植物や建物そのものではなく、水面や日光といった刻一刻と移ろい続ける自然でした。さらには画家と対象物の間にある大気という、形のないものまでを表現しようとしたのです。当時、絵画といえば対象物の形を写し取ることで、正確なデッサンが重視されていましたから、形の定まらないものを描くという発想自体が革新的でした。

 

 

 


[左] 根岸芳郎《91-3-8》[右] クロード・モネ《テムズ河のチャリング・クロス橋》

 

 


クロード・モネ《霧の中の太陽》1904, 個人蔵

 

 


[左] モーリス・ルイス《金色と緑色》[右] 丸山直文《Garden 1》

 

 

 

モーリス・ルイスの大画面で何層にも重ねられた色は、不思議な奥行きを持っています。ルイスや丸山直文は、キャンヴァスに直接絵の具を浸透させる「ステイニング」の技法を用いました。パレットで絵の具を混ぜ合わせないという点は印象派と同じですね。しかし、印象派が現実を写し取ろうとしたのに対し、ルイスはキャンヴァスに現れた偶然のイメージを読み取ろうとしているようです。

 

 

 


マーク・ロスコ [左]《赤の中の黒》[右] 《ボトル・グリーンと深い赤》

 

 

 

マーク・ロスコの鑑賞者を飲み込むようなカラーフィールド・ペインティングは、ただの大きな色面ではありません。隅々までじっくり眺めてみてください。微妙なぼかしや歪み、ところどころに透けるキャンヴァス地などが、画家の動きの痕跡を留めています。

 

 

 

モネのここがすごい③枠を超えて広がっていく!

 

 

 

画面の中央にモチーフを置くのではなく、風景の一部を切り取ったような構図は、画面の外まで絵が続いているような感覚を与えます。どこまでも続いていく連続性、いつまでも繰り返される反復性は、壁紙のように枠を持たないオール・オーヴァーや、複製した同じイメージを並べるウォーホル的な手法へと進化していきます。

 

 

 


[左] アンディ・ウォーホル《花》[右] サム・フランシス《Simplicity》

 

 

 

ハイビスカスの花を蛍光色に塗りつぶして、配色を変えながら並べて展示したウォーホルと、鮮やかな色斑を画面から飛び出すほどの勢いで描いたフランシス。それぞれ、部屋の壁を覆ったモネの睡蓮を思い起こさせます。

 

 

 


小野耕石《波絵》

 

 

 

小野耕石《波絵》は、シルクスクリーンを数十回も摺り重ねた作品。かがんで横から見ると、何層も重なっていることと、小さいドット状のインクが盛り上がっていることが分かります。場所に合わせてどこまでも拡張させることのできる作品です。

 

 

 


クロード・モネ《睡蓮》1897-98頃, 鹿児島市立美術館

 

 


鈴木理策 [左から] 《The Other Side of the Mirror》、《水鏡 14, WM-77》、《水鏡 14, WM-79》

 

 

 

「睡蓮の主題で一室丸ごと飾りつけてみたい」というモネの願いは、パリのオランジュリー美術館や直島の地中美術館で実現されています。オランジュリー美術館の展示室を思い起こさせるような円形の空間に、モネによる《睡蓮》の連作と、それにインスピレーションを受けた鈴木理策による写真と映像を使った作品が展示されています。さまざまな形で表現された睡蓮の池に囲まれて、自分の中に新たな《睡蓮》のイメージが出来上がっていくのを感じることができるでしょう。

 

 

 


水野勝規 [左]《reflection》[右]《photon》

 

 


福田美蘭 [左]《睡蓮の池》[右]《睡蓮の池 朝》

 

 

 

他にも、写真や映像など多様なメディアで、モネの影響を多角的に考えることができるほか、同時開催中のコレクション展でもモネを切り口としたテーマで所蔵品が展示されています。ある絵画を深く理解しようとする時、他の作品と比較してみるのはとても有効な方法です。さまざまな作品の中にモネの息吹を感じることで、モネの作品自体にも新たな発見があることでしょう。それぞれの作品がどのようにモネに結びついているのか、ゆっくり鑑賞しながら考えてみてくださいね。

 

 

 


展覧会グッズも充実しています!

 

 

 

文・稲葉 詩音
写真・丸山 順一郎

 

 

 

【展覧会概要】
モネ それからの100年
会期:開催中~2018年9月24日(月・休)
  開館時間:10:00~18:00 
※9月14日(金)、15日(土)は20:30まで ※入館は閉館の30分前まで
会場:横浜美術館
住所:神奈川県横浜市西区みなとみらい3丁目4番1号
観覧料:一般 ¥1,600、大学・高校生 ¥1,200、中学生 ¥600他
展覧会ホームページ:http://monet2018yokohama.jp/

 

 

 

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Writer

Sion

Sion - Sion -

イタリア留学を経て、東京大学で表象文化論修士号取得。
現在はコンテンポラリーアートギャラリー勤務。

好きなものはアートと言葉。
日常世界がアートに浸されるのが夢。