創造的な古都・京都におけるアート 『KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2018』を楽しむ
歴史と洗練が共存する京都で、2018/04/14(土)~2018/05/13(日)の期間、『KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2018』が開催中です。世界最大の現代アートの祭典である、ドクメンタのアーノルド・ボーデ賞受賞アーティストロミュアル・ハズメや、写真、ファッション、デザインなどでボーダーレスな活躍をしているジャン=ポール・グード、自己と写真について生涯に渡って探求した深瀬昌久、海外でも話題をさらっている若手写真家、宮崎いず美など、国内外の気鋭アーティストの作品が揃っています。以下、特に印象に残った作品をご紹介します。
ジャン=ポール・グード《So Far So Goude》京都文化博物館 別館
ジャン=ポール・グード《So Far So Goude》京都文化博物館 別館 ©Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2018
写真家、デザイナー、映像監督などさまざまな顔を持ち、どのジャンルにおいてもスタイリッシュで刺激的な作品を残しているジャン=ポール・グード。会場には写真や映像、インスタレーションなど多彩なアートが並び、先鋭的なドレスとジュエリーを纏った美しい女性たちが往来しています。
ジャン=ポール・グード《So Far So Goude》京都文化博物館 別館 ©Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2018
異世界から来た女王のような風情の女性たちはコレオグラファーで、約14分間隔でパフォーマンス「炎、シャネル ファインジュエリー」を演じます。コレオグラファーたちは映像作品を上映している空間にも優雅な身振りで現れ、会場に非日常の空気が漂っていました。
深瀬 昌久《遊戯》誉田屋源兵衛 竹院の間
誉田屋源兵衛店舗外観
江戸時代から続く京都の帯問屋、誉田屋源兵衛の町屋に展示されているのは深瀬昌久の写真。写真家自身のポートレートの他、ひび割れの写真にペイントされた《HIBI》シリーズなどがあり、『KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2018』のチラシにも採用されている猫の写真、《遊戯―A GAME―》もこちらにあります。
深瀬昌久《遊戯》誉田屋源兵衛 竹院の間 ©Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2018
サスケは深瀬の愛猫で、一連の写真からはサスケへの溺愛ぶりを感じることができるでしょう。展示空間には緑豊かな中庭があり、外の喧騒を忘れることができます。
ロミュアル・ハズメ《On the Road to Porto-Novo ポルト・ノボへの路上で》誉田屋源兵衛 黒蔵
ロミュアル・ハズメ《On the Road to Porto-Novo ポルト・ノボへの路上で》誉田屋源兵衛 黒蔵 ©Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2018
誉田屋源兵衛 竹院の間に併設されている蔵で開催されているのは、アフリカを代表する現代美術家であるロミュアル・ハズメの展示です。ドイツ・カッセルのドクメンタ12でアーノルド・ボーデ賞を受賞し、国際的なアーティストとして名を馳せるハズメの本展のメインとなる作品は、隣国からガソリンを密輸する人々の力強い姿と、祖先を敬う仮面舞踏「エグングン」の祭祀の写真になります。
ロミュアル・ハズメ《On the Road to Porto-Novo ポルト・ノボへの路上で》誉田屋源兵衛 黒蔵 ©Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2018
階段を上った先の空間では、ハズメのアートにしばしば登場する、廃物を使った作品が展示されています。今回はコンビニなどで置き去りにされた傘で構成されており、天井付近の和傘ももともと廃棄予定だったとのこと。薄暗い蔵の中で天井からの光に照らし出される赤いシルエットには詩的な美があると共に、歴史の重みと深さを感じさせます。
宮崎 いず美《UP to ME》ASPHODEL
宮崎いず美《UP to ME》ASPHODEL ©Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2018
身近なものと自分自身を組み合わせたセルフポートレートがユーモラスな宮崎いず美。大学時代にTumblr(インターネット上のメディアミックス・ウェブログサービス)で発表していた作品が世界的に注目を浴びるという、「今」を感じさせる形でデビューを遂げた彼女は、1994年生まれの新星写真家です。
宮崎いず美《UP to ME》ASPHODEL ©Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2018
今回は3階建てのビルのフロアをすべて使い、インスタレーションと写真を織り交ぜた、不思議な世界を構築しています。真っ白な雲、底抜けに青い空、パステルと原色を織り交ぜたビビッドな色合いの服は先品にかわいらしさやポップさを与えており、写真には日常的なモチーフが登場しますが、作者の視点は目の前のものだけを捉えているのではなく醒めており、そのギャップが魅力の一つになっていると言えるでしょう。
フランク・ホーヴァット《フランク ホーヴァット写真展 Un moment d’une femme》嶋臺(しまだい)ギャラリー
フランク・ホーヴァット《フランク ホーヴァット写真展 Un moment d’une femme》嶋臺(しまだい)ギャラリー©Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2018
美しい女性たちの無防備でリアルな姿を撮ったフランク・ホーヴァットの写真展は、
シャネル・ネクサス・ホール[会期:2018年1/17~2/18]からの巡回展です。靴と靴の間から見えるエッフェル塔や、ステージの外でショーを見守るココ・シャネルなど、独自の視点で撮られた写真は意表を突き、見るものの目を奪います。
嶋臺(しまだい)ギャラリー外観
今回会場となった嶋臺(しまだい)ギャラリーは、もともと400年以上の歴史を持つ生糸商の家でしたが、江戸時代に酒問屋も兼業することになり、嶋臺(しまだい)は日本酒の銘柄だとのこと。味わい深い日本家屋の壁や隙間からエレガントな写真が見え隠れし、建築物が個々の作品をフレーミングしているような効果が感じられました。
ローレン・グリーンフィールド《GENERATION WEALTH》京都新聞ビル 印刷工場跡
京都新聞 印刷工場跡 入口外観
アメリカの写真家・映像作家であるローレン・グリーンフィールドは、富や名声、美や若さなど、果てしない欲望とそれに憑かれた人々を追っています。テレビ番組のスターであり不動産開発業者であるドナルド・トランプがリーダーに選ばれる時代において、物質的な豊かさの獲得が人生の目的になることは、十分に頷けることなのかもしれません。しかし消費や美の対象はきりもなく移り変わり、一見裕福そうに見えるスターやセレブたちは満足を得ることはなく、彼らを模倣する一般の人々にもその焦燥が伝播しているように思えます。
ローレン・グリーンフィールド《GENERATION WEALTH》京都新聞ビル 印刷工場跡 © Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2018
会場である印刷工場跡には写真がベルトコンベア上の商品のようにずらりと並び、観客は金色のシートの上を歩いて眺める形になるため、会場自体が物質主義と消費社会の象徴のようにも感じられました。
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今回取り上げたものはほんの一部になりますが、展示作品は全て強靭でインパクトが強く、忘れられないものばかり。また、ピクニックや生け花パフォーマンスなど、さまざまな関連イベントが開催されるのも本フェアの楽しみの一つです。タイミングが合えば、各種パスポート提示にて無料でレンタルできるBMWクルーズ・バイク(自転車)や、アーティストの作品がラッピングされたBMWの巡回シャトルに乗ることもできます。
BMW i3 市内巡回シャトルカー
本フェアは美術館やギャラリー、もともと蔵だった空間など、さまざま会場の雰囲気を味わうことができますし、普段立ち入ることができない場所を見ることができる貴重な機会でもあります。歴史ある古都・京都で、今まさに活躍しているアーティストの作品に触れることができる『KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2018』を是非お楽しみください。
写真:中野昭子
文:中野昭子
【展覧会情報】
KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2018
開催期間:2018/04/14(土)~2018/05/13(日)
時間:詳細は公式ホームページをご覧ください
入場料:詳細は公式ホームページをご覧ください
会場:京都市内各地
公式ホームページ:https://www.kyotographie.jp/
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移りゆく儚き美の世界 『D’un jour à l’autre 巡りゆく日々』サラ ・ムーン写真展