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まるでベストアルバム!『現代美術に魅せられて―原俊夫による原美術館コレクション展』(後期)

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2018年5月1日

まるでベストアルバム!『現代美術に魅せられて―原俊夫による原美術館コレクション展』(後期)


 

まるでベストアルバム!『現代美術に魅せられて―原俊夫による原美術館コレクション展』(後期)

 

 

原美術館で6月3日(日)までの期間、『現代美術に魅せられて―原俊夫による原美術館コレクション展』(後期) が開催されています。
後期は、1979年12月に美術館としての歴史が開始してからの作品の中から主に90年代から現在までのものが展示されています。

 

「現代アート」を約40年も前から”コレクションしてきた原美術館は、80年から10年間、開催された、若手の作家にスポットライトを当てた「ハラアニュアル」という企画展や、様々な作家の個展を開催してきた歴史があります。

 

その中でも原俊夫館長が自ら、特に思い入れの深い作品を選定した初めての展覧会です。

 

普段なかなか聞く機会がない「どのように作品の購入に至ったか」といった貴重なエピソードを聴くことにより、新たな視点で作品を鑑賞することができました。

 

今回は、購入に至った経緯別に3つの作品をご紹介したいと思います。

 

 

 

一目惚れ!作品先行パターン ミカリーン・トーマス作『ママ ブッシュ:ママは唯一無二の存在』

 

 

 


ミカリーン トーマス「Mama Bush : One of a Kind Two」2009年 パネルにラインストーン、アクリル絵の具、エナメル塗料 274.3x365.8x5.1 cm ©Mickalene Thomas

 

 

 

Gallery1の展示室に入ってすぐに展示されているのは、大画面かつパワフルな色使いの作品、ミカリーン・トーマスの『ママ ブッシュ:ママは唯一無二の存在』です。

 

原館長はマイアミのアートフェアでこの作品を見た瞬間「この作品が欲しい!」と強く惹かれました

 

それは、ギャラリストに「今回は何をお目当てでマイアミにいらっしゃったのですか?」と聞かれ、「これを買いに来た」と即答してしまったほど。
(その後すぐ、同作品をMoMAが購入を希望したと言われています。)

 

購入時点では、イエール大学を卒業したアーティストだったミカリーンを知らなかったにも関わらず、直感で購入に至った決断力と、審美眼を持つ原館長に驚かされます。

 

モデルのアフリカンアメリカンの女性は、ミカリーンの母親です。当時、距離ができてしまっていた大好きな母親ともう一度向き合いたい思いからモデルを依頼したという背景があります。

 

この振り向いたポーズに、見覚えがありませんか。西洋画でミューズたちが描かれる際に多く見られるポーズです。ミカリーンにとって母親がどれだけ大切な存在であるかが伝わってきます。

 

ちなみに、原館長がN・Yに行った際、彼女の元を訪問したところ、70年代を思わせるファブリックな雑貨や毛皮が散乱している部屋に通されて話をした体験が印象的だったため、作家のスタジオを再現した展示を原美術館で行ったことがあります。

 

 

 

展覧会を起点に…アドリアナ・ヴァレジョン作『スイミング・プール』

 

 

 

展覧会を開催した作家の作品を購入する、ということも勿論あります。その例が下記の作品アドリアナ・ヴァレジョンの『スイミング・プール』です。

 

 

 


アドリアナ ヴァレジョン「スイミングプール」2005年 カンヴァスに油彩 110x140 cm ©Adriana Varejaõ 

 

 

 

アドリアナ・ヴァレジョンはブラジルを代表する作家で、ポルトガルが植民地だった背景を感じる作品を多く描いていました。

 

例えば、名産であるタイルをモチーフにして、無機質に見えるタイルの中には柔らかい肉のようなものが見え、血が流れている…。といった、少々グロテスクな作風でした。

 

一方、上の『スイミング・プール』は雰囲気が大きく異なります。実はこの時、彼女は妊娠中でした。子供を授かるという人生の転機を迎え、作風ががらりと変わり、その後、浴室を描いた一連の作品を作成してるのだそうです。

 

彼女の人生のターニングポイントを感じる作品だったので購入に至ったとか。原美術館のタイルを彷彿とさせるプールの床が魅力的です。

 

筆者も以前、本作を展示されているのを鑑賞したとき、吸い込まれる感覚になり何分間か見入ってしまったのをよく覚えています。

 

真っ直ぐタイルが並んでいるはずのプールに水を張ることで歪みが生じ、正面から見たものが真の姿であるとは限らないと思わせる不思議さがあります。あるいは、生命の誕生をも想起させます。

 

 

 

「作家の名前で買ったことはない、作品が良いから買うんだ」 奈良美智作『Eve of Destruction』

 

 

 


奈良美智「Eve of Destruction」2006年 カンヴァスにアクリル絵の具 117x91 cm ©Yoshitomo Nara

 

 

 

奈良美智さんのEve of Destruction、焼野原をバッグに立つ少女を描くこの作品は命をつないでいくという強いメッセージがあります。
最後の展示室は本作と横尾忠則さんの『戦後』が対峙して展示されています。この2つだけではなくこの展示室では、生と死や国境という”戦争”や”内紛”といった世界の課題を彷彿とさせる作品が多く見られます。

 

原美術館には奈良さんの常設作品展示として、アトリエをイメージとした『My Drawing Room』(2004年8月ー)もありますが、親交が深い作家さんだから購入する、ということはないそうです。
原館長は、実際に奈良さんに対し「作家の名前を見て作品を買ったことは一度もない。作品を見て気に入ったら買うだけだ」とおっしゃったとか。
しかし、「友達を応援したい気持ちもある」と本音を笑顔で話しました。
その人を知って魅了され、作品により興味を持つのは自然の流れですよね。
その上で、「作品を見て買った」といわれるのは作家冥利に尽きるのではないでしょうか。

 

原館長が最後に投げかけたが言葉が心に残ったのでご紹介したいと思います。

 

 

 

「現代アートなんて”好き”か”嫌いか”でいい。気に入るか気に入らないか、それだけです。
”良い””悪い”なんていったい何をもって言えますか」

 

 

 

たった2行ですが、日本の現代アートの先駆者と言える原館長がおっしゃっると”例え知識がないジャンルでも、初めて見るアーティストの作品でも、素直に感想を言っていいんだ、もっと気軽に楽しんでいいんだ!と心が軽くなります。

 

普段知ることのできない購入時の貴重なエピソード、いかがでしたでしょうか?
原美術館の学芸員さんによるギャラリーガイドが日曜・祝日に14:30から約30分開催されているので、より作品を深く知りたい方は、日曜・祝日を狙うのがおすすめです。 原美術館のベスト盤のような本展を、是非、お見逃しなく。

 

 

 

文:山口 智子

 

 

 

【展覧会概要】
現代美術に魅せられて―原俊夫による原美術館コレクション展(後期)
会期:2018年3月21日[水・祝]-6月3日[日]
会場:原美術館
住所:140-0001 東京都品川区北品川4-7-25
原美術館公式サイト:http://www.haramuseum.or.jp/
Tel:03-3445-0651
開館時間:11:00 am – 5:00 pm(祝日をのぞく水曜は8:00 pmまで/入館は閉館時刻の30分前まで)
休館日:月曜日(祝日にあたる4月30日は開館)、5月1日
入館料:一般1,100円、大高生700円、小中生500円/原美術館メンバーは無料/学期中の土曜日は小中高生の入館無料/20名以上の団体は1人100円引

 

 

 

【原美術館に関する記事はこちら】
アートオタクな天使のスパルタ鑑賞塾 ~原美術館編~

 

 

 

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隈研吾氏によるギャラリーツアーをリポート『くまのもの 隈研吾とささやく物質、かたる物質』

楽しみながら挑戦し続けた生涯「シャガール -三次元の世界」



Writer

山口 智子

山口 智子 - Tomoko Yamaguchi -

皆さんは毎日、”わくわく”していますか?

幼いころから書道・生け花を始めとする伝統文化を学び、高校では美術を専攻。時間が許す限り様々な”アート”に触れてきました。

そして気づいたのは、”モノ”をつくることも大好きだけれど、それ以上に”好きなモノを伝える”ことにやりがいを感じるということ。

現在、外資系IT企業に勤めながらもアートとの接点は持ち続けたいと考えています。

仕事も趣味も“わくわくすること”全てに突き動かされて走り続けています。

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