隈研吾氏によるギャラリーツアーをリポート『くまのもの 隈研吾とささやく物質、かたる物質』
東京ステーションギャラリーリニューアル後、初となる建築家に焦点を当てた展覧会『くまのもの 隈研吾とささやく物質、かたる物質 Kengo Kuma:a LAB for materials』が3月3日から開催されています。
現在、隈氏は、『新国立競技場』の設計に携わっており、認知度と人気が高まっています。隈氏に対し多くの人が「木を組み合わせる独創的な建築家」というイメージを持っているのではないでしょうか。しかし、木だけではなく多くの素材と向き合っています。
隈氏自らが解説を添えて本展を紹介する機会に恵まれたので、その模様をリポートしたいと思います。
ナンチャンナンチャン 2013 Photo: Designhouse
隈氏は本展のタイトルの意味と、展示全体のテーマを次のように語りました。
隈氏「我々が今やろうとしているのは物質の復権です。30年間、竹から始まり10種類の物質を”研究”し向き合ってきました。今回は、今までの活動の経緯を樹形図にまとめてみました。その理由は、1つの物質に向き合ったとき、”ここは失敗したな”とか”こんなこともできたな”という反省や発見があり次の物質に活かしてます。普段はそれを振り返って考える時間もなく活動しているので、この機会に改めて考えてみようと思ったからです」
隈氏「樹形図は素材で縦に分かれていますが、並べてみると素材間で横の繋がりが見えてきます。縦の線は2つに分類できます。1つは操作、もう1つはジオメトリー(グリットや螺旋形状など)です。
樹形図は私たちが”研究”を続けてきた軌跡だと思います。今回は”研究”の意味を込めてlaboratoryの”LAB”(ラブ)をとり、発音が材料に対しての”LOVE”にもつながっているなと考えてこのタイトルにしました」
隈氏の今までの研究結果の発表会ともいえる本展。
重要なキーワードである【物質主義】【建築の民主化】という2つの概念で展示作品をいくつか紹介します。
1.物質主義
本展は、まず『竹』から始まります。
隈氏「材料は形だけではなく五感全部に訴えかけてくるところに面白さがあります。竹でいうと”しなる”ことで、床として使ったときその上を歩くと”ボンボン”と足から伝わって音が鳴るのです。残念ながら本展覧会は、展示の上を歩けないのですが、僕の建築は実際に歩いてもらうときにもその素材を感じてほしいのです。あとは質感や、香りですね。中でも八角形の部屋の中につくった『においのパビリオン』と呼んでいるものは、細い竹ひごを組んで作りました。最小限の物質から最大限、匂いの効果を引き出そうと考えて作ったものなのでゆっくり匂いを感じながらご覧になってください」
素材の研究は建物に対してだけではありません。『ガラス』のスペースには小さなグラスや照明が展示されていました。
隈氏「これは、焼杉の型枠にガラスを吹いて形を形成しています。大きな建築の場合は作りたいと思っても色々なしがらみが多く(笑)なかなか困難なこともあるので、こういった作品を作ることが一番楽しい仕事だったりします」
大型建築だけではなく、飲食店の改装工事やこういったプロダクトの設計でさえ隈氏は自身の材料を愛し、向き合って研究する姿勢には脱帽するばかりでした。
2.建築の民主化
江戸時代以降、建築は木造から煉瓦作りと材料を変えながらも、人の手のみで作られていました。その後、昭和以降にコンクリート建築やパネル工法が開発され、簡単且つ短時間で建設できるようになります。これにより大手建設業が似たような建物を大量生産する”建築の工業化”時代へと移りました。
物質を今一度、見直している隈氏は、”建築の民主化”を推進したいと考えています。 『新国立競技場』から『紙』の展示スペースにかけての解説で、隈氏の建築に対する考え方の本髄に触れることができました。
隈氏「僕の建築はなるべく小さい材料をピースとして使うようにしています。昔の建築って、10センチくらいの材料を組み立てて作っていたんですね。そうすると人の手で運んで作ることも可能ですよね。
”簡単に運べる”ということはある種、建築の民主化だと思っています。大きな建築会社に頼まないとできないのが建築、というイメージだと思いますが、例えば木造だったら大工さんでも作ることができるし、さらには紙でできているものであれば完成した建物だって軽いから簡単に持ち運ぶこともできるわけです。
ここに展示している『和紙の茶室』は小さな袋に入れて運ぶことができるようにしています」
”広大な敷地に建つ壮大な建築”だとばかり思っていた『新国立競技場』が、実は(主に屋根部分)10センチほどの木のピースを組み立てて出来ていること、そして日常生活で私たちが気にも留めていなかった卵を運ぶ紙のケースにまでインスピレーションを受けるほど常に物質の構造に興味を持つ姿勢。
隈氏は建築家でもあり、科学者のようでもあります。
また隈氏の探究心は留まることを知らず、中国やイタリアのミラノ、チェコといった様々な国の技術者とも積極的に共同研究を行っていることも知ることができました。
これから先、隈氏の建築はどこまで進化し発展していくのでしょう。
gA編集部からも「今現在、新しく興味を持っている素材や、構造はありますか?」と質問してみました。
隈氏「素材は常に、色々なものに興味があるのですが、今一番考えているのはどうすればより経年してもメンテナンスや維持が楽になるかということです。例えば緑化屋根が流行っていて私も取り入れたりしますが、クライアントからは”土をのせるのだけは勘弁してほしい”といわれることがあります。
理由は土をそのまま乗せるととても重いですし、維持が大変だからです。そこで今回はセラミックパネルを基板として緑化屋根をつくりました。これによりとても軽く、かつメンテナンスがしやすくなったのです。新しい素材や、構造も研究しますが既にあるものをより良く改良していく活動も今後より一層行っていこうと考えています」
今回の取材を通してその設計過程を知り、とても未来的だと感じました。 今後も隈氏の活動から目が離せません。
ちなみに鉄骨で補強された煉瓦のユニークな構造を時々のぞくことのできる、この東京ステーションギャラリーは隈氏自身も大好きな場所だそうです。 実際に行かないと体感できない物質の温もりと香りの先に、新しい建築の未来予想図が見えてくる本展をお見逃しなく。
文・写真:山口 智子
【展覧会概要】
くまのもの 隈研吾とささやく物質、かたる物質
【会期】2018年3月3日(土)- 5月6日(日)
【休館日】4月30日をのぞく月曜日
【開館時間】10:00 - 18:00 ※金曜日は20:00まで開館 ※入館は閉館の30分前まで
【入館料】一般(当日)1,100円 高校・大学生(当日)900円
※中学生以下無料 ※20名以上の団体は、一般800円、高校・大学生600円 ※障がい者手帳等持参の方は当日入館料から100円引き(介添者1名は無料)
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