もはや美の百科事典だ! ボストン美術館の至宝展
「ボストン美術館の至宝展-東西の名品、珠玉のコレクション」が上野・東京都美術館で開催されている。2017年7月20日(木)~10月9日(月・祝)まで。
世界有数の規模と質を誇るボストン美術館のコレクション。その数なんとおよそ50万点!
しかも、それらはボストン市民の寄付や個人コレクターの収集、寄贈によって構成されているというから驚きである。王室や大富豪のコレクションが元になった美術館とは違い、国や州の援助を受けずにゼロからスタートしているのだ。
本展では古代エジプト美術から日本・中国美術の名品、ボストン市民の愛したモネやファン・ゴッホを含むフランス絵画のほか、現代美術まで幅広いジャンルから選りすぐりの80点を展示する。
7月19日の報道内覧会で挨拶するボストン美術館館長マシュー・テイテルバウム氏。
「日本で展覧会を開くことは、当館の“作品をシェアする”という理念に基づいている。ぜひじっくり鑑賞してもらいたい」と挨拶した。
《ツタンカーメン王頭部》エジプト、新王国時代、第18王朝、ツタンカーメン王治世時、紀元前1336-1327年 砂岩
ジョン・シンガー・サージェント 《フィスク・ウォレン夫人(グレッチェン・オズグッド)と娘レイチェル》 1903年 油彩、カンヴァス
この作品は誰がなぜ収集したの?
美術に魅せられたコレクターの視点で見てみよう
本展では、美術館を支えてきた数々のコレクターにスポットを当てている。
彼らががなぜその作品を収集したのか、どんな想いがあったのか。作品の魅力だけではなくコレクターの情熱にも想いを馳せながら楽しみたい。
ボストン美術館は、1870年に設立されアメリカ独立百周年にあたる1876年に開館。とくに仏画、絵巻物、浮世絵、刀剣など日本美術の優品を多数所蔵しており、日本国外のコレクションとしては最大規模。 その作品の多くは、ボストンのコレクター達の日本への愛着と好奇心によってもたらされた。コレクター達は19世紀後半に日本中を旅しながら美術品を収集し、のちにアメリカに日本文化を紹介した。
英一蝶 《月次風俗図屏風》江戸時代、18世紀前期、六曲一双、紙本着色
高さ約4.8m! 英一蝶の巨大涅槃図
約170年ぶりの解体修理を経て初の里帰り
風俗画を得意とした江戸時代の絵師、英一蝶(はなぶさ いっちょう)が描く釈迦の入滅。表具をいれると高さは約4.8mにもなる巨大な涅槃図だ。
今回1年に及ぶ本格的な解体修理を経て初の里帰りを果たした注目の作品。
英一蝶 《涅槃図》江戸時代、 1713年(正徳3年) 一幅、紙本着色 Fenollosa-Weld
Collection, 11.4221 Photograph © 2017 Museum of Fine Arts, Boston
Fenollosa-Weld Collection
フェノロサ=ウェルド・コレクションとは?
日本の美術に魅せられたアーネスト・フランシスコ・フェノロサ(1853–1908)とチャールズ・ゴダード・ウェルド(1857–1911)によるコレクション。東京大学や東京美術学校(現・東京藝術大学)で教鞭をとったフェノロサと大富豪の元医師ウェルド。ともに日本中を旅しながら1000点の絵画からなる一大コレクションを築いた。フェノロサはボストン美術館の日本美術部初代部長を務めている。
本展にはこのコレクションの傑作6点が含まれている。
曾我蕭白《風仙図屏風》江戸時代、1764年(宝暦14年/明和元年)頃 六曲一隻、紙本墨画
Fenollosa-Weld Collection, 11.4510 Photograph © 2017 Museum of Fine Arts, Boston
ふたり揃ってようこそ日本へ!
ゴッホのルーラン夫妻
南フランス・アルルでファン・ゴッホが出会ったルーラン一家。夫のジョゼフ・ルーランと妻オーギュスティーヌは、見知らぬ土地で生活を始めたゴッホにとって最も親しい友人となり、またお気に入りのモデルでもあった。この夫婦の肖像画が、2点揃って日本で展示されるのは初めて。
フィンセント・ファン・ゴッホ《郵便配達人ジョゼフ・ルーラン》1888年 油彩、カンヴァス Gift of Robert Treat Paine, 2nd, 35.1982 Photograph © 2017 Museum of Fine Arts, Boston
フィンセント・ファン・ゴッホ《子守唄、ゆりかごを揺らすオーギュスティーヌ・ルーラン夫人》 1889年 油彩、カンヴァス Bequest of John T. Spaulding, 48.548 Photograph © 2017 Museum of Fine Arts, Boston
コレクターはどんな人?
《郵便配達人ジョゼフ・ルーラン》を寄贈したのは、弁護士で実業家のロバート・トリート・ペイン2世(1861–1943)。1926年から18年間に渡って多くの作品をボストン美術館に寄贈し続けた。ペインは、画家やジャンルに捉われず自分自身の感性で美術品を探し求めた。
「何かしらを美術館に贈ることは私の人生において常に大切な喜びでしたし、またこうした絵を間もなく手に入れることを皆さんが喜ばれるだろうと考えるのは、私にとっても嬉しいことなのです」(本展図録より引用)
ボストン美術館のコレクションはこのような熱心なコレクターにより支えられてきた。
ゴッホだけじゃない!
モネ、ルノワール、ドガ…
印象派のコレクションも見どころ
フランス美術の新しい動きである印象主義をいち早く評価し、当時のフランスでの懐疑的な評価など気にせずに購入したボストニアンたち。
本展でもフランス絵画、とりわけ印象派・ポスト印象派の充実したコレクションは大きな魅力だ。
フランス絵画展示風景
手前から ピエール=オーギュスト・ルノワール《陶製ポットに生けられた花》1869年頃 油彩、カンヴァスに貼った紙
ギュスターヴ・クールベ《銅製ボウルのタチアオイ》1872年 油彩、カンヴァス
エドガー・ドガ《腕を組んだバレエの踊り子》1872年頃 油彩、カンヴァス Bequest of John T. Spaulding, 48.534 Photograph © 2017 Museum of Fine Arts, Boston
クロード・モネ《睡蓮》1905年 油彩、カンヴァス Gift of Edward Jackson Holmes,39.804 Photograph © 2017 Museum of Fine Arts, Boston
ポール・セザンヌ 《卓上の果物と水差し》 1890–94年頃 油彩、カンヴァス Bequest of John T. Spaulding, 48.524 Photograph © 2017 Museum of Fine Arts, Boston
ボストン美術館は、近年コンテンポラリーアートの収集にも意欲的だ。現代美術部が1971年に設立され、世界中で生み出される作品をすでに1,500点も収集している。
本展では、アンディ・ウォーホルやデイヴィッド・ホックニーをはじめ、21世紀の村上隆やケヒンデ・ワイリーの作品など充実した展示内容。最後までじっくり楽しみたい。
古代エジプトのツタンカーメンから、スポーツウエアの肖像画を描いたケヒンデ・ワイリーまで、まさに時空を超えた美の百科事典と言える展覧会。コレクター達の情熱に想いを馳せながら鑑賞しよう。
東京展は10月9日まで。その後、神戸市立博物館(10月28日〜2018年2月4日)、名古屋ボストン美術館(2018年2月18日~7月1日)に巡回。
文:五十嵐 絵里子
写真:丸山 順一郎
ミュージアムグッズも充実。蕭白、ゴッホ、エジプト美術… 迷うのも楽しい!
展覧会情報
会期:2017年7月20日(木)~10月9日(月・祝)
会場:東京都美術館 企画展示室
休室日:月曜日、9月19日(火) ※ただし、8月14日(月)、9月18日(月・祝)、10月9日(月・祝)は開室 開室時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで) ※ただし、7月21日(金)、28日(金)、8月4日(金)、11日(金・祝)、18日(金)、25日(金)は9:30~21:00
※バナー画像は左からフィンセント・ファン・ゴッホ《子守唄、ゆりかごを揺らすオーギュスティーヌ・ルーラン夫人》 1889年 油彩、カンヴァス Bequest of John T. Spaulding, 48.548 Photograph © 2017 Museum of Fine Arts, Boston
フィンセント・ファン・ゴッホ《郵便配達人ジョゼフ・ルーラン》1888年 油彩、カンヴァス Gift of Robert Treat Paine, 2nd, 35.1982 Photograph © 2017 Museum of Fine Arts, Boston
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