60年後の未来は文化と対話する!?コルベール委員会×東京藝大『2074、夢の世界』
2017年6月17日(土)から6月25日(日)まで東京藝術大学美術館B2Fで開催されていた『2074、夢の世界』の取材と、コルベール委員会プレジデント&CEOのエリザベット・ポンソル・デ・ポルト(Elithabeth Ponsolle des Portes)さんへのインタビューを行いました。
▼コルベール委員会(Comité Colbert)とは?
1954年に創設されたコルベール委員会は、設立に寄与した『ゲラン』をはじめ、『シャネル』や『クリスチャン・ディオール』『ルイ・ヴィトン』『エルメス』など、名だたるフランスのラグジュアリーブランド81社と歴史的文化施設14団体を代表する多様なメンバーで構成され、フランス流「美しい暮らし(Art de vivre)」を世界に伝えるという理念のもとに活動しています。
コルベール委員会プレジデント&CEOのエリザベット・ポンソル・デ・ポルト(Elithabeth Ponsolle des Portes)さんとGirls Artalkライター・矢内美春
▼「2074、夢の世界(Rêver 2074)」とは?
“60年後にそれぞれのクリエーションがどう発展しているか?”、展覧会タイトルにも掲げられている2074年に自己を投影させながら、クリエーションの軌跡とその先の未来に迫ってみるプロジェクトです(2014年からこのプロジェクトが始動したため、その60年後の2074年に設定されています)。60年後の「ユートピア」の世界を具体的に表現する方法として、まず6名のフランス人SF小説家による物語が生まれました。コルベール委員会ジャパンは、未来のアーティストを支援するべく、東京藝術大学美術学部の協力を受け、学生を対象に、このユートピア世界を視覚化するコンペティションを開催しました。
左から リシャール・コラス(コルベール委員会ジャポン チェアマン)、八谷和彦(東京藝術大学先端芸術表現科 准教授)、エリザベット・ポンソル・デ・ポルト(コルベール委員会 プレジデント&CEO)、SF小説家 オリヴィエ・パケ氏、サマンサ・ベイリー氏、グザヴィエ・モメジャン氏 撮影:森政俊 ©COMITÉ COLBERT
コンペティションでは、6遍のSF小説からインスパイアされた作品プランを募集し、第一次審査で選考された50人の学生に、資金を支給し、制作を依頼しました。およそ半年間の制作期間を経て、2017年6月には作品50点を展示する運びとなりました。ここで選ばれた3名の優秀者の作品は、同年10月にパリで開催される国際コンテンポラリーアートフェア『FIAC』にも出展される予定です。
コルベール委員会がこのようなプロジェクトを行うのは、世界でも初めて。それは「フランスと日本の文化的な対話を行いたい」というメンバーたちの思いを実現させるという目的が根底にあります。
▼小説家と藝大生のワークショップ
2016年10月にはSF小説により文章化された60年後のユートピアを作品として視覚化するために、フランス人小説家と藝大生が話し合うなど、ワークショップが開催されました。
「2074、夢の世界」ワークショップ第二部の様子。SF小説家 オリヴィエ・パケ氏、サマンサ・ベイリー氏、グザヴィエ・モメジャン氏、八谷和彦(東京藝術大学先端芸術表現科 准教授)、エリザベット・ポンソル・デ・ポルト(コルベール委員会 プレジデント&CEO)と50名の藝大生たち。 撮影:森政俊 ©COMITÉ COLBERT
ワークショップで話し合われた話題の概要:
「リュクス」と「芸術」、「価値」の関係性
・言葉の定義について学生が持つイメージ
・「リュクス」とは経済的な豊かさを表すだけでなく、人々の生活に精神的、文化的な豊かさをもたらす
「ユートピアとは何か」と「アーティストの役割」
・夢、希望の2つの視点から考えられ、他者との関係がいかに重要であり、アーティストはそうした他者との関係性に新しい視点を投げかけて世界をクリエイトすることを提案する役割を担う
・アーティストの創造という個人的な必然性と「幸せ」がどう繋がるのか、「幸せ」とは何か
▼優秀作品の決定!
展覧会のオープニング時にはコルベール委員会のフランスメンバーも来日し、優秀作品受賞者を祝福しました。
6月16日の授賞式の様子 photo: Yasuyuki Takagi ©COMITÉ COLBERT、東京藝術大学
①北林加奈子 「肌」
モチーフにした作品:サマンサ・ベイリー「ファセット」
陶土、磁土、糸、羊毛、木など
© COMITÉ COLBERT、東京藝術大学
北林 加奈子さんは1990年東京都生まれ。現在、東京藝術大学大学院美術研究科修士課程彫刻専攻に在籍中です。
作品タイトル「肌」にあるように、私たちの感覚器官を表す皮膚膜を、焼き物、糸や木などの異素材を組み合わせて、立体作品を制作されました。
作品について
北林さん「自分と外界との壁、境界を形作っている皮膚の上で行われる、小さな公信の一つ一つ、感触の一つ一つは、何より信憑性があり、確かなものだと思う。私はそこに、目に見えないものへの、信仰とも言えるような、尊さを感じている。」と語っています。
展示インスタレーション
②川人 綾「織り合い」
モチーフにした作品:サマンサ・ベイリー「ファセット」
木製パネルにアクリル絵具、シルクスクリーン
© COMITÉ COLBERT、東京藝術大学
川人 綾さんは1988年奈良に生まれ、京都で育ちました。京都で日本の伝統的な染織を学んだ後、パリ国立高等美術学校(l’école des beaux-arts de Paris)での交換留学を経て、東京藝術大学大学院先端芸術表現科を修了しました。
作品タイトルについて
川人さん「『ファセット』を読み、私は人々が異なるものを直面した時、調和を探すことが妥協することよりも重要だと考えるようになった。それは異なる種類の糸で1枚の布を織るようだ。この考えを、伝統とテクノロジーという異なる種類の糸で織られた布のような私の絵画のタイトルに組み入れた。」
展示インスタレーション
250x200cmもある大きな絵画です。visual image reconstructionという、将来的に心的イメージを画像化する可能性を秘めた技術によって作られた画像を採用されたそうです。近づいて見ると、小さなキューブが隙間無く描かれていました。
③島田 清夏「Voice of the Void : 4600000000」
モチーフにした作品:ジャン=クロード・ドゥニャック「霧のダイヤモンド」
ガラス、ベルチェ素子、冷却ファン、隕石、LED、PC、モニター、カメラ
© COMITÉ COLBERT、東京藝術大学
島田 清夏さんは、日本大学藝術学部映画学科卒業後、現在、東京藝術大学大学院美術研究科在籍中です。映像やインスタレーションを中心に作品を発表されています。在学中に花火の持つエネルギーに魅了され、卒業後は花火師として活動されています。
作品について
島田さん「46億年の無言の声を聴く・・・鉱物から出る微量の放射線と空中に飛ぶ宇宙船をキャッチし、その値の変化に応じて、LEDライトによってモールス信号のように言葉に変換し、鉱物の発する声を聴く。
『霧のダイヤモンド』で描かれた「人の人生」、「昔の記憶」、「未来に受け継がれていく思い」といった「人間の中心の時間」を、「鉱物の時間」へ還元したい。」
展示インスタレーション
選考基準の3つのポイント
①SF小説からのインスピレーションを踏まえているか
②明るい未来(ユートピア)がメッセージとして出ているか
③造形技術のクオリティ
▼展示室1
諏訪 葵「実験は並行して行われる」
菅谷 杏樹「所作の記憶」
井村 一登「self-well」
井村 一登「self-well」
▼展示室2
稲垣 美侑「光の森」
Rainbow Beam「RAINbows」
窪添 博之「人間の波動性と粒子性シリーズ3」
土屋 うつ樹「コーラル メモリー」
一ノ瀬 健太「あなたは私たちのアート」
一ノ瀬 健太「あなたは私たちのアート」
50点の作品を見終え、私が個人的に好きだと感じた作品は一ノ瀬 健太さんの「あなたは私たちのアート」です。20世紀美術に影響を及ぼしたフランス人美術家、マルセル・デュシャン(Marchel Duchamp)の「泉(Fontaine)」を思い出しました。一ノ瀬さんが便器に残したフランス語は「あなた/ 希望!(Toi / Espoir!)」です。「”あなた”=希望」というメッセージを受け取りました。とても挑戦的な作品でした。
作品について
一ノ瀬さん「本作品はデュシャンにより開始された藝術概念の解体の終着点に位置する。拡張された藝術はリュクスの拡散と相成って※アルス・テクネーへと原点回帰した。人生そのものが藝術であるという思想が全世界で共鳴したその時、私たちはみな美しき花と光に包まれるのだ。」
※アルス・テクネー……「「ars(アルス)」はラテン語で「art(アート)」の語源、「techne(テクネ)」はギリシャ語で「technic」テクニックの語源。両語とも日本語の「芸術」に対応する西欧語である。
▼コルベール委員会プレジデント&CEOのエリザベット・ポンソル・デ・ポルト(Elithabeth Ponsolle des Portes)さんへインタビュー!
Girls Artalk編集部(以下GA)「日本の若手アーティストを支援し、共同して、最終的な作品や受賞者を知り、どう思いますか?」
エリザベットさん「とても豊かで学ぶことの多い経験でした。私たちが最初に定めた目標を生かすことができました。期待以上のところに帰結しました。学生のみなさんがこのプロジェクトに夢中になってくれたこと、楽しんでもらえて、彼ら自身が興味を持って真面目に欲求を持って取り組んでくれたことが、すごく嬉しいです。まさにその結果がすばらしいものとして、今回の展覧会に表れていると思います。今回学生のみなさんが真面目に深く関わってくださった理由の1つの契機になったのが、去年の10月に行われた3人の作家とのワークショップだと思います。その結果も表れていると思います。表層的なものではなく、本当の対話がありました。フランスのリュクスがイマジネーションしたユートピアと、日本の若いアーティストたちが想像したクリエーションの間に対話がありました。ですから、今回日本とフランスの文化的対話が達せられました。」
GA「なぜ日本の文化、あるいは日本との文化的対話を選びましたか?」
エリザベットさん「コルベール委員会に加盟しているラグジュアリーメゾンが世界各国に存在しているんですけれども、コルベール委員会のミッションの一つは それらが存在している国々、行く先々で文化的対話を行うということですというのは、私たちが考えるラグジュアリー産業というのは、文化的でなければならないのです。行く先々、各国それぞれ異なる文化を持っていますから、どのようにダイアログするか、方法を変えています。日本の場合、日本とフランスの類似点について考えた時に、一つのキーワードとしてSFということを考えました。やはりフランスも日本も、SFなどの想像力を駆使して未来を見据える視線が多様であることが、二国間に共通しています。伝統に注目してもよかったのですけれども、今回は未来を予言するということがイメージでした。例えば、フランスには、ジュール・ヴェルヌ(Jules Gabriel Verne)というSF小説の開祖と言われている存在があり、日本には漫画やアニメといったSFタッチというものがあります。このようなオリジナルで新しい類似点に注目することができました。」
GA「日本とフランスで文化的に大きく似ているところはどこにあると思いますか?」
エリザベットさん「日本とフランスは伝統や歴史、継承財産をリスペクトして暮らしていると思います。それと同時に、現代性も体現しています。」
GA「なぜ創立60年を選びましたか?」
エリザベットさん「2014年に創立60周年を迎えたということもありますが、それを超えてコルベール委員会としての文化的な使命、ミッションがありました。でもそれと同時に、より良い未来を予言し、迎えるために年代を2074と先に定めました。
コルベール委員会のコルベールという人名は、ヴェルサイユ宮殿を17世紀に建設したルイ14世の財務総監を務めた人物の名前です。コルベール委員会の名前自体がフランスの歴史を表しています。このような名前を持つ私たち委員会が未来について考えているという点が、まさにポイントです。
コルベールは政治家でありながら未来を考え、今日まで続くラグジュアリー産業やコメディーフランセーズやパリ・オペラ座を作っていました。ですので、その方向性を私たちは継承していきます。」
▼取材後記
SF小説にしても、藝大生の作品にしても、密度の濃い時間と労力がかけられています。60年後は私自身も80歳を過ぎることになります。未来を見据え、フランスのイマジネーションに日本人のクリエーションが加わった今回のプロジェクトは、「展覧会」という枠組みを軽々と飛び越え、未来に向かって飛び立つ内容。10月には、フランス・パリの舞台で、日本人の若いアーティストたちは文化的対話を続けていくことができるのです。
Girls Artalkは10月のFIACも取材予定です。様々な人々がクロスオーバーして関わるという経験と対話は時間をかけて編まれ、折り重なっていきます。このプロジェクトが、国やアートの垣根を超えて、未来に続いていくことを心から願わずにはいられません。私たちの「夢の世界」はまだ始まったばかりです!
文:矢内美春
写真:矢内美春、丸山順一郎
【展覧会概要】
『2074、夢の世界』
会期:2017年6月17日〈土〉― 6月25日〈日〉
会場:東京藝術大学 大学美術館B2F
住所:東京都台東区上野公園12-8
観覧料:無料
主催:COMITÉ COLBERT コルベール委員会 東京藝術大学
後援:フランス文化・通信省 文化庁
公式サイト:http://www.comitecolbert.jp
【矢内美春の他の記事はこちら!】
白い糸で紡がれた150隻の船がパリの百貨店に!?塩田千春「どこへ向かって」特別展
芸術の秋!パリ最大のコンテンポラリーアートフェア「FIAC」に行ってみた♪
歴史の目撃者になる! 特別展「古代ギリシャ ー時空を超えた旅ー」