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大人も魅了されるアニメーション! 「スタジオ設立30周年記念 ピクサー展」 

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2016年4月8日

大人も魅了されるアニメーション! 「スタジオ設立30周年記念 ピクサー展」 


世界初のフルCG長編アニメーション映画を世に送り出し、世界中で多くのファンに愛されている

ピクサー・アニメーション・スタジオ。

独立から30周年の節目に、3月5日から東京都現代美術館で数々の人気作品を生み出す映画創作活動に

スポットライトを当てた展覧会が開催しています。

 

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会場入口ではさっそく『モンスターズ・インク』のサリーとマイクが出迎えてくれました。

思わず笑顔で記念写真!入る前からわくわくが止まりません!

 

まず入場して目に入る横長に並んだスクリーンで映し出されているアニメーションは、ジョン・ラセター氏の

初監督作品『ルクソーJr.』。

ぴょんぴょんと、人間のように動くライトスタンドはどこかで見覚えがあるようなー、、、

 

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そう、ピクサー作品のオープニングで流れる映像に登場する”あのスタンド”です。

この作品に出てくる星のマークの入ったボールは、その後の作品全てに必ず登場しているのだとか!

そんなちょっと友達に得意気に話したくなってしまうエピソードが、本展覧会には沢山散りばめられています。

 

次の部屋では人物が可愛いキャラクターで描かれた年表が壁一面を埋めています。

ちなみに今回の30周年とは、スティーブ・ジョブズ氏がルーカスフィルム社からコンピューターアニメーション部門を

買収し、独立させて「ピクサー」と名付けた時点から数えたものです。

ここではまだピクサーという名前になる前から現在までの大まかな歴史の流れを知ることができます。

 

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鳥の羽の表現技術を開発した2002年公開の『フォー・ザ・バース』、後に『モンスターズ・インク』のサリーの

毛皮の予行演習だったなどというエピソードも書かれています。

組織がどんどん拡大していく流れとともに、技術の進歩の歴史も知ることができます。

さて、ついに本編へ。

ピクサー・アニメーション・スタジオとウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオのチーフ・クリエイティ

ブ・オフィサーであるジョン・ラセター氏の挨拶ムービーと「芸術はテクノロジーの限界に挑み、テクノロジーは

芸術にひらめきを与える。」という言葉でピクサー世界の裏側を覗く扉が開きます。

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 今回の展覧会では、ピクサーが今まで発表してきた数々の名作ごとにまとめているほか、制作中に生み出された

数多くのスケッチ等のアートや制作裏話を紹介しています。

 

1つ目は『トイ・ストーリー』。

ここではトイ・ストーリーを例として、どの映像にも共通する制作過程の流れ知ることができます。

 

リー・アンクリッチ氏の

「私たちの映画は高度なテクノロジーで作られているが、その核にあるのは、想像力と鉛筆と紙から生み出される

ストーリーとキャラクターたちだ。」

という言葉には本展覧会のテーマといえるでしょう。 

 

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1つの映画ができるまで4~5年の年月をかけ、その内4分の3の時間をストーリーづくりにつぎ込むのだとか。

ピクサーのアニメが単なる子供向けのものではなく、どの世代が見ても楽しめ、時に感動するのは、説得力の

あるストーリーが土台となっているからだと納得しました。

 

なによりハイテクノロジーを駆使した映像イメージが強いにも関わらず、その創作過程にはアナログ作業が

とても多いことに驚きました。

例えば制作中、ストーリーを観るものにしっかりと伝えるために、手書きのストーリーボードで絵の各シーンを

説明していること。

また、その工程に加えてキャラクターのセリフを確認しながら何人かでダメ出しをする作業を納得のいくまで

繰り返し、その中で面白い発想や発言があればそれをまたセリフに加えていくのです。

 

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ストーリーが決まると今度はアーティストがキャラクターを色鉛筆などで大量にスケッチします。

バズやウッディも、設定の詳細が決まるまで何人もの手でスケッチが描かれていました。

今回はそれらも多数展示され日の目を見ていますが、採用されなかった1枚1枚の作品も全力で挑んでいる

立派な”アート”です。

 

最初、「ウッディには腹話術の人形という案があった」など、映画ファンからしたらたまらない裏話を知れる

スケッチもありました。

 

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『ジェローム・ランフト ,ロッツォ・ハグベア』

 

そして『トイ・ストーリー3』で登場する年配クマのぬいぐるみ「ロッツォ・ハグベア」。

写真は粘土の彫刻ですが、毛質にもこだわり何種類もぬいぐるみを実際に作ったのだとか。

杖で体を支えている設定のため何度もぬいぐるみを動かし、歩くときにできるシワや仕草のチェックをしていました。

 

その過程は映像で紹介されており、このキャラクター1つ切り取っても各パートの人がキラキラした目をしながら、

とてつもなく地道な作業を繰り返して生み出されていることがわかります。

他にも『トイ・ストーリー』に出てくるおもちゃの兵隊も、動きやセリフを考えるために戦争映画を参考に

していたり・・・

パソコンの中でCGを動かしてキャラクターを作るだけではなく、物を手で作ったり、歴史や昔の映像を見直したり、

と細かいところまで試行錯誤しながら作られているからこそ、ファンタジーの世界なのに妙に”説得力”があるので

しょう。

 

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このような大きく8つに分けたセクションごとにつくられた実際のスケッチや彫刻といった作品と、そこで実際に

働いてる技術者やアーティストのインタビュー映像はどれも必見!

 

ピクサーの「世界観」「キャラクター」「ストーリー」という3本柱に携わる人々の情熱と、彼らのジョン・ラ

セター氏に対する止まない敬意に思わず胸が熱くなります。

「線に息づく生命に注目する」「ものの形を愛してる」などなど、独特な視点を持った技術者やアーティストの

メッセージはかなり興味深いです。

文章としての解説も多く、 ”モノクロで細部まで書込まれたストーリーボード がアクション設計図で、その後に

色彩を用いて大まかに絵を描き作られるカラースクリプトは感情の動きを見せる地図のよう” など表現がとても

わかりやすかったです。

 

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『トイ・ストーリー,カラースクリプト』

 

また、意外だったのは台本の台詞はアニメーターが作業を始める前に必ず録音し、アニメーターは声優の言い回しや

声色を聞いてぴったりあった動きや表情を作るということです。

 

日本アニメの音声は”Afterrecording”を略してアフレコというように、映像に合わせてるイメージだからです。

確かにその方がより一層演技も俳優に任されます。あくまでデジタルアニメーションはストーリーを伝えるための

”ツール”なのだと納得しました。

 

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その後は各作品ごとのブースが続きます。ピクサーの生み出してきた作品は多く、登場するキャラクターは

魅力的なものばかり。

 

例えば、カーレースの世界を車の目線で描いた『カーズ 』では、「作中に出ているキャラクターの瞳の色が

150種類もある」というのがデジタルドローイングで展示されていたり・・・

 

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作中に出てくる魚の柄は400種類を越え、魚の目を大きくすることで感情移入を狙ったという『ニモ』では、

『モンスターズ・インク』に出てくるマイクの大きな目の動きを描いた経験が生きていたというエピソードや・・・

 

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『カールじいさんと空飛ぶ家』では、実際家屋が浮くにはいくついるか計算した上で、2万個以上の風船が描かれて

いたなどなど…こぼれ話しが盛り沢山です。

最新作の『アーロと少年』のコーナーもありますよ!

 

IMGP0174『シャロン・キャラハン,カラースクリプト』

 

各作品の制作秘話を読むとその作品が見たくなってしまいます。

さらに、今回の展覧会は過去の作品の過程で生まれた”アート”にとどまりません!

三鷹の森美術館にあったゾートロープを見てヒントを得たというこ作品・・・

グレゴリー・バーサミアン氏をご存知の方ならもうお分かりでしょう。

立体フィギュアを18フレームのサイクルで回転させ、それをストロボライトで照らすことであたかも動いている

ように見えるものです。これはもう説明するより実際に見るべき!とってもかわいいおもちゃたちに会場でも

歓声が湧いていました。

 

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『トイ・ストーリー,ゾートローフ』

 

開催期中、訪れる時期によって異なる短編作品が約6本上映されています。

5分程の短編でもストーリーがしっかりと構成されており、人間以外の主人公でも表情が豊かです。

私が初期のピクサーアニメーション作品で見た、1988年の『ティン・トイ』というおもちゃと人間の赤ちゃんの

短編アニメは、最近の作品と比べると赤ちゃんの肌質などが少し硬く、不気味にも見えました。

その一方、おもちゃの表面のプラスチックは既にかなりの技術力を感じ、人のように生きているものは質感を描く

難易度が高いということを感じました。

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本展示で1番広くスペースを占めていたのはやはり『トイ・ストーリー』シリーズでしたが、その中で特に印象に

残った解説を紹介します。

 

それは「映画の中で、おもちゃは人間の前では単なるおもちゃとして描かれている。日々を過ごす上でのルールと

お互いの関係性を持ち合わせてる。想像する力は範囲を決められたり、制約があるほど発揮される。」という

ような内容でした。

 

おもちゃが人間のように喋り動くという、一見想像をこえた別世界でも説得力があるのは、やはり視覚としての

工夫だけではなく、”ストーリ”に力を入れ、こういった考えを持って作品を制作しているからでしょう。

「観念にすぎなかったものが物質として現実になる」過程を知ることで、達成感と感動を疑似体験し、より一層

ピクサーのファンになること間違いなしの展覧会です。

 

文・山口 智子    写真・丸山 順一郎

 

【情報】

「スタジオ設立30周年記念 ピクサー展」

会期:2016年3月5日(土)―2016年5月29日(日)
会場:東京都現代美術館
時間:10:00〜18:00*入場は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(2016年3月21日、5月2日、23日は開館)、3月22日(火)
観覧料:一般1,500円/ 高校・大学・専門学校生1,000円/ 小・中学生500円/ 未就学児無料

公式サイト:http://pxr30.jp/

 

 

 



Writer

山口 智子

山口 智子 - Tomoko Yamaguchi -

皆さんは毎日、”わくわく”していますか?

幼いころから書道・生け花を始めとする伝統文化を学び、高校では美術を専攻。時間が許す限り様々な”アート”に触れてきました。

そして気づいたのは、”モノ”をつくることも大好きだけれど、それ以上に”好きなモノを伝える”ことにやりがいを感じるということ。

現在、外資系IT企業に勤めながらもアートとの接点は持ち続けたいと考えています。

仕事も趣味も“わくわくすること”全てに突き動かされて走り続けています。

instagram: https://www.instagram.com/yamatomo824/
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