(DEVA LOKA 2008©YOSHITAKA AMANO)
異次元空間へワープ!!
この夏、美しく幻想的なファンタジーの世界、兵庫県立美術館の「天野喜孝展」を訪れてみませんか?
『タイムボカン』や『ファイナルファンタジー』など、多くのアニメやゲームキャラクターデザインを
この世に送り出してきたアーティスト、天野喜孝さんの個展は、見る者の心を一瞬で別世界へ導き、
まるで中毒になりそうなほど、魅力に溢れていました。
人々を異次元空間へ誘う、天野喜孝展のブースは、大きく6つに分かれています。
1. デビュー アニメーション
天野さんは、15歳でタツノコプロのアニメキャラクターデザイナーとしてデビューし、
「ヤッターマン」や「昆虫物語みなしごハッチ」など、多くのデザインを手がけました。
天野さんの描く、ベーシックな人物やキャラクターの数々が並びます。
天野さんの作品には、常に新しい流行が取り入れられており、どの作品のキャラクターも、
制作当時流行していた衣装を身にまとっています。
(ヤッターマン 1980年代 ©YOSHITAKA AMANO)
2.装幀画1
独立後、小説の表紙や挿絵を手掛けるようになった天野さんは、少しずつオリジナルのイラストを描き始めました。
自分の絵柄を模索する変化の時期でもあったようです。
天野さんは、西洋の古典から近・現代美術までを貪欲に学び、理解を深め、
ご自身の作品の糧にしていった様子がうかがえます。
SFファンタジーを何冊も読む中で、独特の世界観を自分の中に築いていったのではないでしょうか。
ひとつの線が女性的な繊細さで描かれ、とても神秘的です。
(夢なりし”D”装幀画 1986 ©YOSHITAKA AMANO)
3.ゲーム「ファイナルファンタジー」
「ファイナルファンタジー」は、当時の天野さんにとって、新たな表現への挑戦でした。
ゲームをする人をファンタジーの世界に誘うキャラクターは、それだけでアートなのです。
人々を魅了してきた天野さんが描くキャラクターは、「アニメーション」と「ゲーム」という
日本文化の象徴とも言えるでしょう。
このブースでは、「FANTASCOPE TYLOSTOMA」(33分間)が上映されており、天野さんが描いた200枚の墨絵を、
水面や雲といった”自然”に動きを持たせ、新たな世界観を演出しています。
ゲームの音楽(チョコボのテーマ等)がBGMとして流れているのも、ファンにはたまらない一時です。
(FINAL FANTASY 1 パッケージイラスト1987 ©YOSHITAKA AMANO)
(FINAL FANTASYⅢ イメージイラスト1990 ©YOSHITAKA AMANO)
4.装幀画2
このブースでは「やさいのようせいN.Y. SALAD」のアニメが上映されており、
どの人も「可愛い~」と笑顔で見入っていました。
これまでの妖艶な作品とは対照的なコミカルで愛らしいキャラクターが印象的です。
被写体をふわっと風になびかせる、天野さん特有の表現は、野菜のキャラクターたちに
生命力を吹き込み、コミカルでありながら、シリアスな一面を覗かせていました。
(N.Y. SALAD 挿画2002 ©YOSHITAKA AMANO)
5.神話
巨匠の名作の多くが神話を題材とするのを見て、天野さんは、日本人としての文化的背景や現代要素を反映した、
世界に共感される物語を創作したいと考えるようになったそうです。
自らを「アメリカかぶれ」と表現する天野さん。「私たちが西洋的ファンタジーを作っても、
それは純粋な意味での西洋じゃなく、どうしても東洋のフィルターを通してみる二次的ファンタジーになる。
今度は日本人として東洋のファンタジーを描いてみたいと思った」と語っています。
(源氏物語 明石の君1992 ©YOSHITAKA AMANO)
6.DEVA LOKA
「神々が住む場所」という意味です。天野さんの最新作が並ぶこのブースでは、
「ファイナルファンタジー」のキャラクターが混沌とした中から勢いよく飛びだしています。
天野さんとコラボ予定の「Candy Girlsシリーズ」は、アクリル絵具と自動車用塗料を用いて作品に艶を出すことで、
絵画の新しい可能性を打ち出していました。
このブースだけ照明が明るく、新しい技法での見せ方や時空を超える女神「EVE」の3D像がまるで、
近未来へワープした気分でした。
(DEVA LOKA 1©YOSHITAKA AMANO)
(Candy Girls ©YOSHITAKA AMANO)
会場を出ると、お土産コーナーでは多くの方が真剣にお土産を選んでいました。
天野さんの作品グッズはもちろんの事、”ウィリアム・モリス”や”オーヴリー・ビアズリー”の写真集もあり、
天野さんの歴史と人生観を堪能できる個展でした。
見るものの心を奪うような、特徴的なキャラクターの目は、
たぐいまれなる感性とSF・ファンタジーの世界を通して体得してきた天野さんの「鋭い目」と重なるようです。
全身全霊で創作に当たる一流アーティストから生まれるアートなのだと感じました。
■情報■
「想像を超えた世界 天野喜孝 展」
会期:2015年6月27日(土)〜8月30日(日)
休館日:月曜日(祝休日の場合は翌日)
開館時間:10:00〜18:00(入場は17:30まで)
会場:兵庫県立美術館 ギャラリー棟3F
文 / 川口 可南子