ゴッホの絵画が、彼の人生を語る「ゴッホ -最期の手紙-」
(c)Loving Vincent Sp. z o.o/ Loving Vincent ltd.
「愛か、狂気か。」というサブタイトルが衝撃的なポスターをもう目にしただろうか。
11月3日から公開されるアート・サスペンス『ゴッホ最期の手紙』。
この製作手法を耳にして、最初は理解が追いつかなかった。”世界初、全編が動くゴッホ自身の油絵作品で構築されている?!”
当然ながらゴッホは亡くなっているし、油絵は動かない。よくよく解説を読む。
なんとこの映画、125人の画家たち(日本人画家、古賀陽子氏も参加!)がゴッホの”燃え上がるような情熱を感じさせる筆遣い”を習得した上で製作した62450枚もの油絵で構成されている。
つまり、”彼の人生を彼自身の絵で再現する”ことを叶えたというのだ。
(c)Loving Vincent Sp. z o.o/ Loving Vincent ltd.
例えば上の絵は映画の1シーンである。独特な筆づかいと一度見たら忘れない強烈な印象に「あ、見覚えある!ゴッホの作品だよね。」と誰もが思うだろう。私もニューヨーク近代美術館にある『星月夜』(1889)かと思った。
しかし画像を検索すると構図と印象は酷似しているが建物や色使いが微妙に異なる。
”本当にこれ全部描きおろされているのか…”と感動したがまだまだ甘かった。
(c)Loving Vincent Sp. z o.o/ Loving Vincent ltd.
最初は1コマ1コマの美しさにばかり感動していたが、登場人物たちの動きは滑らかで見慣れてくるとサスペンスのストーリーに集中してしまう。この人たちはどのように描いたのだろう…。
なんと、ゴッホ作品の遺した肖像画たちを元に、よりルックスが近い俳優で一度実写版の映画を撮った後、特殊な技術でキャンバスに投影し、画家たちの筆で”ゴッホの筆遣い”を再現した油絵となっているという。
また本編の1秒は、12枚の油絵を撮影した高解像度写真によって構成(前編で64250枚!)されている…こんな眩暈がするような工程をなぜ試みたのか。
謎が多く、好色化、狂人、天才、怠け者、探究者…と様々な見解がされているゴッホが弟テオに書いた最期の手紙に記された一文がそれを教えてくれる。
「我々は自分たちの絵に語らせることしかできないのだ」
(c)Loving Vincent Sp. z o.o/ Loving Vincent ltd.
この映画で描かれているのは郵便配達人である父からゴッホの手紙を託されたアルマンが、ゴッホの真実を求めて旅する物語。
銃による「自殺」により37歳という若さで息を引き取ったされるゴッホ。アルマンは最初、ゴッホに対して否定的であり手紙を運ぶのも拒否していたのだが様々な人から彼の話しを聞いているうちに”命を絶った理由”を追及し始めスリリングに謎解きが進んでいく。
今や誰もが知る画家であるゴッホは、生前には1作品しか売れなかったといわれている。
亡くなってから評価された故にその人生はリアルタイムでの記録が少なく神格化され、今まで優に100本を超える映画がつくられてきた。
しかしその多くは伝記のようなものが多いため映像化の手法だけではなく完全なフィクションである物語展開も新しい作品だ。
切り口はフィクションだが参加した画家の技術的努力だけではなく、近年のゴッホに関わる論争等を踏まえたうえで作られた物語背景がリアルであり、ゴッホの世界に没入できる。
(c)Loving Vincent Sp. z o.o/ Loving Vincent ltd.
ゴッホファンが観ると見覚えのあるゴッホ作品がシーンとして散りばめられていたり、
上のように物語の中で”彼の作品”としても登場するので何度も見直したくなること間違いなしだ。
是非、最後までゴッホの世界に入り込んで観てほしい。
細部まで製作に携わる全ての人の”ゴッホ愛”を強く感じ心が揺さぶられることであろう。
文:山口 智子
画像:広報画像
『ゴッホ~最期の手紙~』
▽公開表記
11月3日(金)よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国順次ロードショー!
▽公式HP
【2017年/イギリス・ポーランド/96分/カラー/原題:LOVING VINCENT】
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