森美術館では、10月12日(月・祝)まで、ベトナム人アーティスト、
ディン・Q・レのアジアにおける初の大規模個展を開催しています。
ディン・Q・レはカンボジアとの国境付近のハーティエンに生まれ、
10歳の時にポル・ポト派の侵攻を逃れるため、家族とともに渡米しました。
アメリカでは写真とメディアアートを学んだ後、ベトナムの伝統的なゴザ編みの手法を用いて、
写真を裁断してタベストリー状に編む「フォト・ウィービング」シリーズを発表し、一躍脚光をあびます。
以降、綿密なリサーチとインタビューに基づき、人々が実体験として語る記憶に注目し、インスタレーションなど、
様々なアプローチで作品を発表しているアーティストです。
<<無題(二重の女)>> 2003年
ベトナムのゴザを編む手法で制作された「フォト・ウィービング」シリーズより。
見る人の位置により、イメージが様々に変化します。
<<農民とヘリコプター>> 2006年
自作のヘリコプターの開発に挑むベトナム人男性を中心に、
かつて戦争の武器として使用されたヘリコプターへの人々の記憶と今を描き出した作品です。
<<傷ついた遺伝子>> 1998年
ベトナム戦争時、アメリカ軍が散布した枯葉剤の影響で生まれた結合双生児を象った人形や服。
ベトナム人が語ろうとしないタブーを破り、議論を促す試みとして制作した本作。
最初の展示では、ホーチミン市内の店舗を使い、訪れる人々に衝撃を与えました。
<<抹消>> 2011年
散りばめられた裏返しになった写真を拾い上げると、そこには、ベトナム人の肖像写真。
戦争を逃れ難民となったベトナム人ひとりひとりの暮らしや歴史に思いを巡らせました。
<<ベトナム戦争のポスター>> 1989年
報道写真をポスター風に仕上げた作品。
アメリカとベトナム双方の戦争による被害者の統計が表示され、
数字という形で浮かび上がるベトナム人被害者の多さに圧倒されました。
ディン・Q・レの手がけた作品を通して、かつてベトナムで起きた出来事が、
もしかしたら私たちの社会に起こり得るかもしれない未来として、
様々な想像力を働かせながら、作品ひとつひとつに触れました。
ベトナム戦争終結から40年、日本にとっては戦後70年。
この節目を迎えた今、国家や政治の「公式な」歴史の陰で、
語られることのなかった市井の人々の名もなき物語を読み直しながら、
アートと社会の密接な関わりを感じ取れる本展。
個々人が経験し、蓄積された記憶から、私たちの過去と現在、そして未来を読み解く鍵があるように思います。
【情報】
◾会場:森美術館
東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53F
◾会期:2015年7月25日(土)~10月12日(月)
◾入場料:一般=1,800(1,500)円 高大生=1,200円 中学生以下=600円
65歳以上=1,500円 *( )内は前売料金
◾休館日:会期中無休開館時間10:00~22:00
(ただし、9/22を除く火曜日は17時まで開館)*入館は閉館の30分前まで
◾主催:森美術館公式サイトhttp://www.mori.art.museum
文 / 小川仁美 写真 / 洲本マサミ・小川仁美