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「線を聴く」展 @ 銀座メゾンエルメス フォーラム

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2015年5月21日

「線を聴く」展 @ 銀座メゾンエルメス フォーラム


©Nacasa & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d’enterprise Hermes 

 

有名なチェリスト、故パブロ・カザルスが奏でるバッハ作曲『無伴奏チェロ第一番』を聴きながら、

一体この一曲の中にどんな線があるのか想像してみてください。

 

http://youtu.be/lJr6EfLS5i0

 

線が一定の時を巡り、反復しながら、音楽の川を流れているよう

ジョン・ケージ『4分33秒』はどうでしょう?

沈黙から想像出来る「線」は人それぞれ。

 

楽譜、心拍数のグラフ、地図、文字、地図、自然に見られる線。

「線」の表現は、形と同様、芸術の中でも重要なテーマとして存在しています。

しかし、私たちはその「線」を日常の中できちんと知覚しているでしょうか?

そんな、身近ながら私たちが知覚することの少ない「線」を額縁の中に入れて眺めることで、
線とはどんな生き物なのか、私たちにとってどんなものを示しているのかを考えてみてはいかがでしょう?

銀座メゾンエルメスにて開催中の展覧会「線を聴く」展を通して、
今までと違った視点で「線」についてご紹介致しましょう。

「線を聴く」展は、森美術館にて開催される「シンプルなかたち展:美はどこからくるのか」
(主催:森美術館、ポンピドゥー・センター・メス、特別共催:エルメス財団)に呼応する形で開催されています。

少しだけ想像力をはたらかせ、頭の中に白い半紙を敷いて作品を見てみましょう。

 

画像エルメス1 のコピー©Nacasa & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d’enterprise Hermes 

 

たった一本の線、数学の世界では1。

美術の世界だと、ミニマルアート。

学校の机の上では、一本の鉛筆。

畑では、芽。

トイレの中では、壁。

年表の中では過去から遡る長い時の流れ。

一本の線には、始まりがあれば、終わりもあります。

数学者は、全ての事物は数字に置き換えられると言います。

もしそれが事実ならば、この太陽系に存在する万物のものを線に置き換えて、線を辿ったり、
伸ばしたり、短くしたり、先を追ってみることも出来るはずです。

まるで、銀河系のワープの地図を手に入れ、タイムマシーンに乗るかのように。

 

~日常生活の中で紡がれる線たちへ~

 

私たちが多くの時間を過ごす家やオフィスやアトリエからも、線は生まれてきます。

一般企業に会社員として働いていた経歴も持つイグナシオ・ウリアルテさんは、
自ら「オフィス・アート」と呼ぶ作品を制作しています。

その名の通り、オフィスの中での小さなアクションをインスピレーションの源としたアートたち。
輪ゴムやペンといった文房具を用いた作品が展示されています。

 

画像エルメス2 のコピー©Nacasa & Partners Inc. / Courtesy of Fondation d’enterprise Hermes 

 

 

形が異なる輪ゴムが集結して、一つの円になっています。

輪ゴムは本来、バラバラになったものを一つにまとめるために使用されます。

しかし、こうして一つの円に置かれていると、綺麗に並べられた美しい作品でもあり、
同時に形が異なる輪ゴムが置いてあることで無秩序に輪ゴム同士が摩擦し合うものとして
表現されているかのように見えます。

本来、モノをまとめる役目を果たす輪ゴムたちは一見美しく整列されているかのように見えますが、
銀河系の中心に存在するブラックホールの拡張のような「オフィスで生じる摩擦」も同時に思い起こさせます。

 

画像エルメス3

 

こちらの作品は12つの枠の中に、それぞれ異なる色が描かれています。

これを近くで見てみてみると、実はボールペンで電話線のような丸みのある線で描かれているのです。

ある枠の中には2色のボールペンで線が描かれ、
他の枠の中には異なる3色のボールペンで線が描かれているという、
事前に色を計算し作られた作品なのです。

あまりにも均一された色であるため、一見、一線のはみ出しも無いシンプルで美しく
「秩序ある作品」のように感じられるのですが、実は異なる色の丸みある線で描かれる
「混沌が広がる作品」でもあるのです。

 

~自然の中に見いだされた線から~

 

インスピレーションの源である自然の中から、
アーティストや思想家たちは様々な方法で線を見つけ出します。

今回の展示の中で、特に私が注目したのは、フランス人の批評家ロジェ・カイヨワが収集した
ストーン・コレクション(フランス国立自然史博物館所蔵)。

何万年もの時を経て、出来る瑪瑙はとても美しいものー
 他のどの作品より自然が持つ引力に引き込まれました。

「対角線の科学」で、インターディシプリナリー(複数の学問分野にまたがった研究)の先駆者といわれるカイヨワは、
自然界が織りなす人智の及ばない普遍的な美しい風景について多くの言葉を残しています。

 

画像エルメス4

 

~自然は常に0である~

 

自然の中にも、黄金比などの数学的な規則性や自然現象で生じる線やかたちがあること。

それは偶然というより必然、

自然がこの世界で生き延びていくための必要最小限のデザイン設計地図でもあるのです。

人間たちも自然から恩恵を受け、学び、自然のデザイン設計地図をヒントにして
飛行機や電気や日本庭園など、自分たちに必要なモノを作ります。

もし自然の存在が「0」で普遍的な原型として存在するならば、
人類に与えられた数字は「1~1068(無限対数) 」。

自然からのリ・クリエーションであり、イノベーションでもあります。

ベートーベン作曲交響曲第六番『田園』も「0」を元にベートーベンが五線譜の中に埋め込んだ芸術作品。

線の始まりは常に「0」、自然の中にあるのです。

 

画像エルメス5

 

もし、この展覧会を詩に例えるなら、宮沢賢治作『春と修羅』序になるでしょう。https://docs.google.com/document/d/10zFlmcPhgpwmzBL_jC6t2UirkZ-Y5KeO7Hd-DwR3kss/edit?usp=sharing

頭の中に白い半紙を敷いて展覧会に足をお運び下さい。

何か考察出来ることがあるはずです。

宮沢賢治も鉱石や自然石を収集していたそうですよ。

 

わたくしといふ現象は

假定された有機交流電燈の

ひとつの青い照明です

(あらゆる透明な幽霊の複合体)

風景やみんなといっしょに

せはしくせはしく明滅しながら

いかにもたしかにともりつづける

因果交流電燈の

ひとつの青い照明です

(ひかりはたもち、その電燈は失はれ)

これらは二十二箇月の

過去とかんずる方角から

紙と鑛質インクをつらね

(すべてわたくしと明滅し

 みんなが同時に感ずるもの)

ここまでたもちつゞけられた

かげとひかりのひとくさりづつ

そのとほりの心象スケッチです

これらについて人や銀河や修羅や海膽は

宇宙塵をたべ、

または空気や塩水を呼吸しながら

それぞれ新鮮な本体論もかんがへませうが

それらも畢竟こゝろのひとつの風物です

たゞたしかに記録されたこれらのけしきは

記録されたそのとほりのこのけしきで

それが虚無ならば虚無自身がこのとほりで

ある程度まではみんなに共通いたします

(すべてがわたくしの中のみんなであるやうに

 みんなのおのおののなかのすべてですから)

 

(省略)

 

おそらくこれから二千年もたったころは

それ相當のちがった地質學が流用され

相當した證據もまた次次過去から現出し

みんなは二千年ぐらゐ前には

青ぞらいっぱいの無色な孔雀が居たとおもひ

新進の大學士たちは気圏のいちばんの上層

きらびやかな氷窒素のあたりから

すてきな化石を發堀したり

あるひは白堊紀砂岩の層面に

透明な人類の巨大な足跡を

発見するかもしれません

すべてこれらの命題は

心象や時間それ自身の性質として

第四次延長のなかで主張されます

 

宮沢賢治作『春と修羅』序より

 

【information】

「線を聴く」展

■ 開館日: 2015 年 4 月 24 日(金)~7 月 5 日(日)
■ 開館時間:
月~土11:00~20:00(入場は19:30まで)
日11:00~19:00(入場は18:30まで)
■ 休館日:エルメス銀座店の営業時間に準ずる
■ 入場料:無料
■ 会場:銀座メゾンエルメス フォーラム (中央区銀座 5-4-1 8階 TEL:03-3569-3300)

 

文 / 吉田 ゆりあ