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『高橋コレクション展 ミラー・ニューロン』で感じる、アートと私の「なぞらえ」

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2015年5月20日

『高橋コレクション展 ミラー・ニューロン』で感じる、アートと私の「なぞらえ」


 

 

まず、「ミラー・ニューロン」という言葉に惹かれた。

何て素敵なタイトルがつけられた展覧会なのだろう。

 

「ミラー・ニューロン」とは、脳の神経系細胞の一つである。

とある実験者が食物をとろうとした際、それを見ていたサルの脳も、自分が食物をとろうとする時と同じ部位の細胞が活性化していたらしい、見ていただけなのに。

この発見から、人の場合も相手のニューロン(神経細胞)の動きに合わせて自分のニューロンをなぞるように反応していくと言われている。ミラー、鏡のように。だからミラー・ニューロンとよばれている。

他者への理解や共感に重要な役割を担っているという点でとても興味深く注目されているため、カウンセラーとして日々を過ごす私にとってとても関心高い言葉だった。

 

高橋コレクションは、精神科医・高橋龍太郎先生の収集による日本現代アートのコレクションであり、ミラー・ニューロンはそんな高橋先生ならではの視点といえるだろう。

このミラーのように反応してしまう模倣行動がアートの歴史中にもある。それがこの展覧会のコンセプトなのだ。それは一見、イミテーションや真似と批判的に認識されそうだが、日本のアートはそうではないと高橋先生は考察されている。100年も前の作品をその後のアーティストが模倣する、それは、人と人の根底にある何かが反応し「なぞらえ」ることでより洗練された作品になるのではないかと。

 

08<写真08・左2作品>
会田誠(C)AIDA Makoto,Courtesy of Mizuma Art Gallery

photo:KIOKU Keizo

 

例えば、これらの会田誠の≪美しい旗(戦争画RETURNS)≫は「風神雷神図」、≪紐育空爆之図(戦争画RETURNS)≫は「洛中洛外図」であるように…と、伝統的な日本美術と比較し、説明されている。

こうした作品同士になぞらえがおこるのは、同じ時代ではなくとも変わらない意志があり、その何らかの普遍性が新たに素晴らしい作品を生むのだろう。

その他の作品も、一度はどこかで見たことのある有名な作品であり、どれもスケールが大きく情熱的な作品ばかりだった。いくつか紹介したい。

 

07<写真07・右側>
(左)大岩オスカールCourtesy of Oscar Oiwa Studio

(中央)森村泰昌(C)MORIMURA Yasumasa,Courtesy of ShugoArts

(右)小沢剛(C)OZAWA Tsuyoshi

photo:KIOKU Keizo

 

小沢剛の≪ベジタブル・ウェポン―ナン・プリ/チェンマイ、タイ≫。

食物を武器に見立てた作品で有名なシリーズである。実はこれは、撮影後にこの野菜は鍋にしてみんなで食しているというエピソードを教えていただいた。武器としては全く役に立たない野菜の銃が、紛争地帯の中でみんなで楽しく食事を囲むきっかけに変わっていく…。この写真を見たとき、人と人が本来幸福によってつながるべきであるという芯のあるはっきりとした「想い」が私達にも届くのは、撮るという行為だけでなくそうしたその後の流れの全てがそこにはつまっているからだろうか。

 

17<写真17 右側>
(左)伊藤存(C)ITO Zon,Courtesy of Taka Ishii Gallery

(右)名和晃平(C)NAWA Kohei

photo:KIOKU Keizo

 

名和晃平の≪PixCell-Lion≫。こちらをじっと見つめる輝くライオン。この部屋だけ少し照明が落とされた空間になっており、それまで赤い炎のように湧きおこっていた感情が一気に鎮静されたのだ。ライオンのもつ孤独で美しいたたずまい。その気高さ。表面に散りばめられたクリスタルビーズ越しの目であるにも関わらず、その視線からダイレクトに胸に届いてくるのはなぜだろう。

 

04<写真04>
奈良美智

(C)Yoshitomo Nara,Courtesy of the Artsist

photo:KIOKU Keizo

 

奈良美智の部屋である。私は奈良美智の絵を見ると、子どもたちの声にならない内的な世界がどうしてこんなにも巧みに表現されているのだろうといつも驚いてしまう。外から見ると静かで音のない世界に反して内にあふれるエネルギーと感情のアンバランスさ。

個人的な話だが、奈良美智の絵を見ていると、子どもへセラピーをしている時の感覚と同じ感覚に陥るのだ。同じ経験をしたわけではないのにどこか懐かしさを感じること、その子の痛みが自分にのりうつったようになるあの感覚。もしかしたら、観賞している時もセラピーの時も同じ部位のミラー・ニューロンが動いているのかもしれない。

 

1つ1つの作品を見ていると、作品同士の流れやなぞらえだけでなく、私のミラー・ニューロンも活性化して、作品から発する「想い」になぞっている気がしてきた。

 

そして、何よりも面白いのはこの展覧会が「高橋コレクション」の現在形という点である。このギャラリーそのものが、今もコレクションをつづける高橋先生の頭の中でそれをのぞき見しているようなわくわくした気持ちがわきおこる。情熱的で直感力のある方なんだろう…。そんな思いをはせて、高橋先生の一部をもなぞっているような不思議な感覚にもなれるのだ。

 

作品同士のなぞらえ、アーティストとコレクターとのなぞらえ、作品と鑑賞しているものとのなぞらえ、鑑賞している人の中で反応しあうなぞらえ…。

 

見た人のどこのミラー・ニューロンが動きだすのか。

何重もの楽しみがここには広がっている。

 

【情報】

 

高橋コレクション展 ミラー・ニューロン

 

会場:東京オペラシティ アートギャラリー

〒163-1403 東京都新宿区西新宿3-20-2

会期:2015年4月18日[土]ー6月28日[日]

開館時間:11:00-19:00(金・土は20時まで/最終入場は閉館の30分前まで)

               休館日 月曜日

公式サイト:http://www.operacity.jp/ag/exh175/

 

文 : Yoshiko 

 



Writer

Yoshiko

Yoshiko - Yoshiko -

東京都出身。中高は演劇部に所属。大学、大学院と心理学を専攻し、現在は臨床心理士(カウンセラー)として、「こころ」に向き合い、寄り添っている。専門は、子どもへの心理療法と家族療法、トラウマや発達に関することなど教育相談全般。

子どもの頃から読書や空想、考えることが大好きで、その頃から目に見えない「こころ」に関心があり、アートや哲学にも興味をもつ。

内的エネルギーをアウトプットしているアートと沢山携わりたいとgirlsartalkに参加した。昨年はゴッホ終焉の地であったオーベルシュルオワーズを訪れるため、パリに一人旅をし、様々なアートを見てまわる。