イラストレーターのYuko MとライターのAkko Nで、言葉とイメージをコラージュさせてつくる小片小説。
絵から物語が導かれたり、文章からイラストが生まれたり、あるいは単語の断片からイメージと文章が膨らみ、全然違う方向へ暴走したり。
不定期の連載で公開順も気まぐれ。楽しい迷路でゴールを目指さないような、少し奇妙で不条理なシリーズ。第四回目は「HAT」です。
昔、通学路の脇に小さな家が建っていた。
ある日、霧の中から色の塊が現れて、その家へ飛び込んだ。
ほどなくして、窓からこちらを覗く顔が見えた。
長い髪にはさっきの色が留まっている。蝶だった。
その日以来、彼女と何度か言葉を交わした。
太陽が苦手で外に出られないのだという。
いつしか彼女は引っ越して、家もなくなってしまった。
あれから数年後、僕は職人になり、彼女のための帽子を作った。
蝶の羽のようなつばが日差しを遮り、光を色に変換する。
明るい季節を閉じ込めた帽子を手に、僕は彼女を探している。
【Illustration:Yuko M Text:Akko N】
【過去の小片小説はこちら】
小片小説 vol.2~CASSANDRE THE PROPHET~
【Yuko M】
84年までロンドンで過ごす。以降、国内外を転々とする。一時は音楽系の会社に就職するが、留学を機に04年渡英。08年ロンドン芸術大学、セントラル・セントマーティンズ・カレッジ・オブ・アート卒業。恩師のすすめで高級ブランドのデザイナーアシスタント、ファッションスケッチの非常勤講師など務める。SUNDAY TIMES 「STYLE」誌、HARVEY NICHOLS、NET-A-PORTERなどに作品を寄稿。帰国後は商業デザインをする傍ら、気の赴くままに音楽やファッション関連の絵を描いている。
《Tumblr》http://fancykoalacrusade.tumblr.com/
【Akko N(中野昭子)の過去の記事はこちら】
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