美術史に学ぶ恋愛テクニック
多くの芸術家を虜にし、才能をひきだしたアルマ
~魅力的な女性になる方法②~
「風の花嫁」
この絵は、ココシュカのもっとも有名な作品の一つである「風の花嫁」という絵です。別れを予感した恋人たちの姿と言われ、ココシュカと恋人だったアマルを表していると言われています。
この絵を見て、みなさんはどんな印象を持ちますか?
ある絵と緊迫感が似ていると思いませんか。
恋は永遠じゃないという不安感が、“魅力的な女性になる方法①”のコラム(https://girlsartalk.com/common/column/562)で登場した、クリムトの「接吻」と似ていると思うのは私だけでしょうか。
また、クリムトの作風にも影響を与えた“アマル”という女性が、今回の主人公です。
世紀末ウィーンの華、グスタフ・マーラーの妻アルマ・マーラー。
彼女は絶対的な妖精と呼ばれ、音楽(マーラー)、文学(ヴェルフェル)、建築(グロピス)、美術(クリムト、ココシュカ)とあらゆるジャンルの芸術家たちを魅了し、彼らの創作意欲を刺激した女性です。
彼女はなぜ、多くの芸術家を虜にしたのでしょうか。彼女の育った環境が気になり、調べてみました。
彼女の父は、高名な風景画の画家で、常に父親の芸術家仲間が出入りしているという家庭環境に育ちました。幼いころから父親から「(芸術の)神様たちと遊びなさい。」と言われ、生涯を通してその教えを忠実に実行したようです。
最初に選んだ神様はグスタフ・クリムトでした。アルマ一家が引っ越す度にクリムトがついて行ったというくらい虜になっていたと言われています。また、アルマに失恋したことによって、官能的に満ちた挑戦的な作品を描くようになったと言われています。そのくらい、影響を与えた女性なのです。
その後、作曲家のツェムリンスキーとの恋を経て、音楽家のグスタフ・マーラーと結婚します。
マーラー作曲の「交響曲第5番」の楽譜の表紙には「私の愛しいアルムシ(アルマの愛称)、私の勇気ある、そして忠実なる伴侶に」と記され、「彼女は私を愛している。この言葉にわたしの人生すべてが含まれている。この言葉が言えなくなったとき、私は死ぬだろう。」と言ったほど。
そのことが現実となり、建築家のグロピウス(後に近代建築の父と呼ばれる)と恋をしたと知ったマーラーは、死期を早めたと言われています。
マーラーの死後、恋人のグロピウスが出征中の頃に出会ったのがココシュカだったようです。
「アルマ・マーラーの肖像」
こちらの肖像は、ココシュカからの「妻になってください。」というラブレターに対して、アルマは「傑作を描いたら結婚してあげる。」と返答した頃に描いた絵。アルマとの結婚を夢みて、ココシュカが絵筆をふるったであろうことがうかがえます。
この絵の構図や表情が、有名な“モナ・リザ”に似ていると思ってしまうのは、私だけでしょうか。
月日が経って・・・持ちうる全精力をかけて描いた絵が「風の花嫁」だったようです。
きっと彼は、実現しない「花嫁」を予感していたのかもしれません。だから私は「風の花嫁」の絵を見ると、画面から不安を感じ、切なくなるのかもしれません。
実は、「風の花嫁」の絵の物語は、アルマと別れて何十年も経った、アルマが70歳の時まで続いています。
ココシュカと別れた後も、たくさんの男性と恋に落ち、結婚もしているアルマですが、アルマが70歳の誕生日にココシュカから一通の電報が届きました。
「愛しいアルマ、僕たちは「風の花嫁」のなかで永遠に結ばれているのです。」
アルマは、ココシュカと別れた後、彼のアトリエに入って、自分の手紙を取戻し、デッサンを盗んだとのことですが、そんな事をされたココシュカが、何十年の月日が経っても「貴女は忘れがたき女性だ。」と告白するほどのアルマの魅力。
「美貌」、「才能を見抜く力」、「決して征服されないこと」
この3つが、芸術家たちを「アルマを自分のものにしたい!!」という気持ちにさせ、芸術家達の創作にかけるエネルギーになったのかもしれません。
私は、彼女の様になりたいとは思いませんが、自分の魅了を知り、多くの芸術家にインスピレーションを与え、傑作を作成させたという点で、「男性の才能を最大限にひきだすことのできる天才」だと思いました。
*アルマから学ぶ魅力的な女性になる方法
今回のキーワード 「自分の魅力を知って、決して征服されない女性」
*オスカー・ココシュカ(1886年~1980年)
オーストリアのペッヒラルンに生まれる。
ウィーン工芸大学に学ぶ。
クリムト、シーレと並び、近代オーストリアを代表する画家の一人である。
*作品に会える場所
東京国立近代美術館、豊田市美術館
*参考文献
●山口路子 「美神の恋 画家に愛されたモデルたち」
●NHK「迷宮美術館」制作チーム 「迷宮美術館 第2集」