
荏原 畠山美術館の新館開館一周年記念「『数寄者』の現代―即翁と杉本博司、その伝統と創造」が開催中
東京・白金台の荏原 畠山美術館で、新館開館一周年を記念した展覧会「『数寄者』の現代―即翁と杉本博司、その伝統と創造」が開催されている。会期は12月14日まで。
※本展覧会レポートは、前期展示中の10月25日に取材した内容を基にしております。現在は展示されていない作品についても記載がございますので、あらかじめご了承ください。
荏原 畠山美術館は、もともと1964年に「畠山記念館」として開館。創設者の畠山一清(1881〜1971、号は即翁)は、荏原製作所の創業者であり、茶道を愛した実業家であった。畠山は昭和初期にかつて旧寺島宗則伯爵邸があった約3,000坪の敷地を入手し、奈良の般若寺にあった建築物や、加賀前田家に仕えた武家の能舞台などを移築して、私邸「般若苑」を造り上げた。現在も広々とした庭園に囲まれたその一角に、美術館は位置している。

荏原 畠山美術館外観

新館のホール空間
そして2024年10月5日、この美術館が約4年半の改築を終えて生まれ変わった。当時の趣ある外観や内装をできる限り残しながら、耐震性能の向上や断熱工事、展示設備の刷新が行われている。特徴的なのは、昔から変わらず自然光が優しく差し込む展示室。時間とともに変化する光の中で美術品を鑑賞できる魅力はそのままに、展示ケースを新しくすることで、より見やすく快適な空間に仕上がった。
現代美術作家の杉本博司氏と建築家の榊田倫之氏が率いる「新素材研究所」が基本設計を手がけて新しく増築された新館は、地下2階から地上2階までの4層構造で、地下1階と2階にはそれぞれ異なる雰囲気の展示室を配置。多彩な企画展が可能となっている。1階には催し物に使える多目的室や、ゆったりくつろげるホール、さらにミュージアムカフェ「猿町カフェ」も新設され、鑑賞後の楽しみも広がった。
こうして、旧館の良さを大切に守りながらも新素材研究所の洗練された感性が見事に調和している荏原 畠山美術館には、茶道具をはじめ、書画や陶磁器、漆芸品、能装束など、日本・中国・朝鮮の古美術品約1300点が所蔵されている。また、そのうち国宝が6点、重要文化財が33点と、充実したコレクションとなっている。

本館で来訪者を迎え入れる、平櫛田中作 《畠山即翁寿像》 (1969)
さて本展では、そんな畠山美術館のコレクションと、現代美術作家・杉本博司の作品やコレクションを組み合わせた構成となっている。展示は本館2階から始まり、「『数寄者』の現代Ⅰ―即翁 畠山一清の茶事風流」と題されたこの空間では、創設者・畠山一清が1954年秋に開いた新築披露の茶会で用いた道具類を中心に、茶道具や掛軸などが並ぶ。
この展示室の注目作品のひとつは、朝鮮時代の重要文化財《割高台茶碗》。戦国武将・古田織部が所有していたとされるこの茶碗は、畠山が大阪の豪商・鴻池家の売立で手に入れたものだ。ほかにも、禅僧・一休宗純が60歳で書いた《尊林号》や、重要文化財《宗峰妙超墨跡 孤桂号》など、貴重な名品の数々が鑑賞できる。
また、展示内容ががらりと変わる予定の本展後期には鎌倉時代の重要文化財《清滝権現像》も展示される。仏法を守る護法神で水神でもある清滝権現を描いたこの作品は、荏原製作所を営む畠山が縁を感じて入手したという。もとは醍醐寺に伝わり、近代に実業家の原三渓が所蔵していたものを、畠山が譲り受けた。
一方、渡り廊下の先にある新館では、「『数寄者』の現代Ⅱ―杉本博司 茶道具」として、杉本の作品とコレクションを紹介している。
前期のみの展示であったが、新館に入るとまず、杉本博司の過去の個展でも披露されてきた大作《春日大社藤棚図屏風》(2022)が来場者を出迎えた。この屏風は、春日大社の藤棚をデジタル撮影し、和紙にプリントしたもの。撮影されたのは、藤が満開を迎える直前、朝日が昇った直後の瞬間だ。それに呼応するように、配置された《埴輪 鹿親子》(2025)と鹿せんべいの立て看板が面白い。

杉本博司 《春日大社藤棚図屏風》 (2022)

杉本博司 《埴輪 鹿親子》 (2025)
2階展示室には、日本美術史上画期的な発見である可能性の高い、法隆寺金堂釈迦三尊像の旧部材の一部とされるものも展示されている。これは杉本の古美術コレクションの中から新たに確認されたもので、釈迦三尊像の脇に立つ菩薩像の台座を飾っていた蓮の花びらの部分と考えられている。杉本は、明治から昭和にかけて活躍した茶人・益田鈍翁(1848〜1938)が所蔵していた「法隆寺金堂金具」を受け継いでいたが、この展覧会の準備にあたって日本の仏教彫刻を専門とする研究者に調査を依頼。その結果、台座の蓮弁である可能性が極めて高いことが今回明らかになった。
会場には、杉本が制作した茶碗類も数多く展示されている。地下1階に展示されている《硝子茶碗 銘 泉》(2014)は、マルセル・デュシャンの有名な作品《泉》にインスピレーションを得たもの。さらに、今回初めて公開される杉本が手びねりで作った《和蘭陀手鹿香合》(2025)があったり、千利休の《竹一重切花入 銘 江之浦》(桃山時代)が、現代作家・須田悦弘が彫った木彫作品《椿 蕾》(2024)と組み合わせて飾られていたりと多様な作品が並ぶ。須田の作品はこれだけでなく、会場の随所で見ることができる。
また、新館会場は2階と地下1階の2つに分かれているが、全体を振り返って見渡すと展示されている作品や会場構成は本館やフロアを跨いで構成されていることに気づくだろう。

《伝法隆寺金堂伝来 金銅製蓮弁》 (飛鳥時代(7世紀前半))

割高台 (朝鮮時代)

村野藤六 (杉本博司) 《硝子茶碗 銘 泉》 (2014)

須田悦弘 《椿 蕾》 (2024)
近代における最後の偉大な数寄者といえる畠山即翁と、現代を代表する数寄者・杉本博司。時代を隔てた二人の審美眼が交差するこの展覧会は、見逃せない機会となっている。会は折り返し地点に差し掛かり、11月12日からは後期が開始する。前期では見られない作品も数多く展示されるので、一度来られた方でも再度楽しめる内容となっている。
タイトル画像:展示風景より、画像中央は杉本博司 《杉本博司 臨書 無準師範 墨跡 東西蔵》 (2022)
文=鈴木隆一
写真=新井まる
【展示会概要】
「数寄者」の現代―即翁と杉本博司、その伝統と創造
会期|[前期]2025年10月4日~11月9日、[後期]11月12日〜12月14日 ※前後期で展示替えあり
会場|荏原 畠山美術館
住所|東京都港区白金台2-20-12
開館時間|10:00〜16:30 ※入館は開館30分前まで
休館日|月(祝日の場合は開館、翌日休館)、11月11日
料金|一般 1500円(1300円) / 高校生・大学生 1000円(900円) / 中学生以下無料(要保護者同伴) ※()はオンラインチケット料金。完全キャッシュレス。









