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「アルフレド・ジャー あなたと私、そして世界のすべての人たち」展。当事者であり続けること、考え続けること

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2026年2月15日

「アルフレド・ジャー あなたと私、そして世界のすべての人たち」展。当事者であり続けること、考え続ける


「アルフレド・ジャー あなたと私、そして世界のすべての人たち」展。当事者であり続けること、考え続けること

 

東京・初台の東京オペラシティ アートギャラリーで、現代美術家アルフレド・ジャーの個展が3月29日まで開催されている。

1957年チリ生まれのジャーは、建築と映像を学んだ後、1982年に米国へ渡り、以来ニューヨークを拠点に世界的な評価を得てきた。彼の作品が一貫して問いかけるのは、遠い国の悲劇も私たちと無関係ではないこと、善悪は時に反転すること、そして異なる価値観を持つ他者を否定せず「よく見て考える」ことの大切さだ。展覧会タイトル「あなたと私、そして世界のすべての人たち」は、その思想をまさに端的に表している。ジャー自身「作品のきっかけはすべて世界の出来事に由来する」と語り、今回のタイトルを「マニフェストのようなもの」と位置づける。その言葉通り、彼は誰も排除することなく、地球上のあらゆる問題と真正面から向き合おうとしている。

 

アルフレド・ジャー

 

展覧会場は5つの章で構成され、写真、映像、大型の立体作品など多様な表現手法を展開。ギャラリーとしても「社会問題を他人事ではなく、自分も関わる問題として感じられる展示」を目指しており、1点1点のインパクトは大きく、鑑賞者の身体全体でそれを体感できる空間となっている。

 

6つの展示室では、世界各地の社会問題を反映した四大陸が示唆されている。、最初の部屋(展示室A)にはジャーがニューヨーク移住直後に制作した初期作品が展示されている。タイムズ・スクエアで上映された《アメリカのためのロゴ》(1987)は、彼がアメリカで感じた違和感を表現した作品だ。「アメリカとは本来、南北大陸全体を指す言葉のはずなのに、合衆国の人々は自分たちだけを『アメリカ人』と呼び、ラテンアメリカの存在を見えなくしている」。作品は大陸地図とシンプルな言葉で、“アメリカ”という言葉が持つ本来の意味の広がりを問い直している。

 

《アメリカのためのロゴ》(1987)

 

展示風景より、左から《今は火だ》(1988)、《彼らにも考えがある》(2012)

 

続く展示室Bの、ブラジルの金鉱を題材にした「ゴールド・イン・ザ・モーニング」シリーズでは、1985年に現地で目撃した貧困層の過酷な労働が記録されている。特に興味深いのは、写真を鏡に反射させて映し出した作品だ。鑑賞者が自ら鏡を覗き込まなければ見えない仕組みになっており、「社会が過度にナルシスティックになった」と感じたジャーは、自分を映す鏡を、他者を見る装置へと転換させた。

この手法をさらに発展させたのが、次の展示室Cにある《エウロパ》(1994)である。ボスニア紛争をテーマにしたこの作品では、鏡の前に炎を思わせるライトボックスが置かれ、その裏には現地の人々の写真が隠されている。身体を動かさなければ全体が見えないこの仕掛けは、遠い地の悲劇にも目を向けて考えるべきだという、ジャーの一貫した姿勢を体現している。

 

《ゴールド・イン・ザ・モーニング》(1985/2007)展示風景

 

《ゴールド・イン・ザ・モーニング》(1985/2007)部分 展示風景

 

《エウロパ》(1994)展示風景

 

最大の展示室Dは、入口で思わず目を細めるほどの強烈な光に包まれる。約250m3の巨大なボックス《サウンド・オブ・サイレンス》(2006)は、8分間の映像を上映するインスタレーション作品だ。

テーマは報道写真家ケヴィン・カーターと、彼が撮影した《ハゲワシと少女》をめぐる物語。写真を撮ること、そして見ることの倫理とは何か。暗闇で8分間映像と対峙することで、この問いが決して遠い世界の話ではないことを、鑑賞者は身をもって実感する。

 

《サウンド・オブ・サイレンス》(2006)展示風景

 

また本展では、新作《明日は明日の陽が昇る》(2025)も公開されている。「日本がなぜこれほどアメリカに依存しているのか、完全には理解できない」と語るジャーは、日本の国旗を映すライトボックスの上に、向かい合うように同じくライトボックスでアメリカの星条旗を配置。日本の国旗に星条旗が映り込むことで、両国の関係を考えさせられる作品となっている。

最後の部屋(展示室E)で轟音を鳴らすのは、2018年にヒロシマ賞を受賞し、その記念に制作された《ヒロシマ、ヒロシマ》(2023)。広島原爆ドームを上空からドローン撮影した作品だ。彼は原爆投下とその後の日米関係への問いを繰り返し投げかけている。

 

《明日は明日の陽が昇る》(2025)部分 展示風景

 

《ヒロシマ、ヒロシマ》(2023)部分 展示風景

 

担当キュレーターは、「美術界では社会問題を扱う作品が増えているが、問題があるからこそ作品が存在するという事実を忘れがちではないか。問題に触れただけで満足していないだろうか。他者の物語を自分ごととして受け止め、人間が引き起こしてきたことを自覚し、その先へ進めるかどうか。」と語る。

本展は、そんな根源的な問いを私たちに気づかせてくれると当時に、当事者であり続けること、考え続けることの大切さと難しさも痛感させられる。

 

タイトル画像:展示風景より、《サウンド・オブ・サイレンス》(2006)

 

文=鈴木 隆一

写真=新井 まる

 

【展覧会概要】

アルフレド・ジャー あなたと私、そして世界のすべての人たち

 

会期|2026年1月21日〜3月29日

会場|東京オペラシティ アートギャラリー ギャラリー1、2

住所|東京都新宿区西新宿3-20-2

電話番号|050-5541-8600

開館時間|11:00〜19:00 ※入場は閉館の30分前まで 

休館日|月(ただし、2月23日は開館)、2月8日、2月24日

料金|一般 1600円 / 大・高生 1000円 / 中学生以下無料・障害者手帳等をお持ちの方および付添1名無料



Writer

鈴木 隆一

鈴木 隆一 - Ryuichi Suzuki -

静岡県出身、一級建築士。

大学時代は海外の超高層建築を研究し、現在は再開発事業に関する業務に従事。

コンセプチュアル・アートなどの脳汁が溢れる作品が好き。noteも徒然なるままに更新中。

 

note:鈴木 隆一 / Ryuichi Suzuki
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