モネの睡蓮をたどる旅 「モネ 睡蓮のとき」が東京・上野の国立西洋美術館で開催中
タイトル画像:「モネ 睡蓮のとき」展示風景、国立西洋美術館、2024−2025年
東京・上野の国立西洋美術館で「モネ 睡蓮のとき」展が2024/2/11(火・祝)まで開催されている。本展覧会は、モネが長年にわたって描き続けた〈睡蓮〉をテーマに、初期の貴重な作品から晩年の大画面作品までを網羅し、彼が晩年まで追い求めた美の世界を堪能できるもの。展示は、パリのマルモッタン・モネ美術館から日本初公開作品7点を含む約50点に加え、国立西洋美術館や日本国内のコレクションからも作品が集められ、計64点の絵画が一堂に会し、モネが晩年に追求したテーマや創作の軌跡に迫る構成となっている。
クロード・モネ(1840-1926)は印象派を代表する画家の一人で、1890年の50歳になる年にフランス・ノルマンディー地方の小村ジヴェルニーに家と土地を購入し、そこで余生を過ごしている。そこでは自らの手で「水の庭」を造成し、睡蓮が咲き誇る池をつくりあげた。この庭の風景が、晩年のモネの創作意欲をかき立てる最大のインスピレーション源となり、多くの〈睡蓮〉連作が生み出されることとなった。
またモネの晩年は、家族の死、自身の眼病、さらには第一次世界大戦と、数々の苦難に満ちていた。
そのような状況の中で、モネは睡蓮の池を描いた巨大なキャンバスによって部屋の壁面を覆う「大装飾画」を構想。本展の見どころは、この「大装飾画」制作の過程で生まれた大規模な〈睡蓮〉作品群だ。モネは未完の構想を外に出すことを拒み、その多くの作品を最期までアトリエに留めましたが、生前に唯一〈睡蓮〉の装飾パネルを手放すことを許した相手が、日本の実業家であり美術収集家である松方幸次郎(1866-1950)であった。
松方は、モネが暮らすフランス・ジヴェルニーの家を訪問し、画家と親交を深めるとともに、最終的に30点以上の作品を収集。これらの作品は、現在、国立西洋美術館のコレクションの中でも特に重要な位置を占めている。
モネが人生の終わりまで追求した「睡蓮」の壮大な世界に触れるとともに、松方がもたらした日仏間の文化交流の歴史にも思いを馳せることができる。
本展は4つの章とエピローグで構成され、第1章「セーヌ河から睡蓮の池へ」では、モネがセーヌ河やロンドンの水辺の風景を描き、水面に映る光や影に魅了されていく様子が作品を通して描かれる。これらの作品は、後に「睡蓮」の連作へと発展する視覚的探求の始まりを示しており、モネが水の表現に強い関心を抱いていたことがうかがえる。展示作品には、《セーヌ河の朝》(1898年)や《ジヴェルニー近くのセール河支流、日の出》(1897年)のほか、チャーリング・クロス橋を描いたロンドンの作品群も含まれている。
また、同章では初期の「睡蓮」の作品群も展示され、最初期の「睡蓮」と後期の作品を比較しながら、モネの画風の変化を楽しむことができるだろう。例えば、《睡蓮、夕暮れの効果》(1897年)では、睡蓮をくっきりと描写。一方、第3章に展示される後期作品では、池の水面の豊かな表情が画面全体に広がり、モネの水面への表現がより深まっているのが明確に見て取れる。
第2章「水と花々の装飾」では、モネが装飾画の構想に込めた試みが紹介されている。1914年、彼はジヴェルニーの庭の池に架けた太鼓橋の藤やアガパンサスなどの花々を装飾画のモチーフにしようと計画していたが、最終的には池の水面とその反映を主体とした装飾に専念。展示空間では、この過程で描かれたアイリスや藤、アガパンサスなどが華やかに彩る作品が紹介され、当初モネが睡蓮だけでなく多様な花々を装飾画に取り入れようとしていたことがうかがえる内容となっている。
展示風景より、大装飾画の関連作品群
「モネ 睡蓮のとき」展示風景、国立西洋美術館、2024−2025年
展示風景より、クロード・モネ 《睡蓮》 1914~1917年頃 マルモッタン・モネ美術館、パリ
展示風景より、クロード・モネ 《睡蓮、柳の反映》の部分 1916? 国立西洋美術館(旧松方コレクション)
第3章「大装飾画への道」では、オランジュリー美術館にある楕円形の部屋に設置された巨大な睡蓮に関連する絵画群であり、晩年のモネが10年以上にわたって追求したテーマである「大装飾画(Grande Décoration)」のパネルが展示されている。また、この章には楕円形の部屋を再現した展示空間も設けられており、鑑賞者は池の水面に映る木々や空と一体化するような没入体験を楽しむことができる。中でも注目すべきは、モネが唯一売却を許可した4メートル以上の巨大な装飾パネルで、2016年に再発見された旧松方コレクションの《睡蓮、柳の反映》。再発見時には上部の大半が欠損していた作品ではあるものの、欠損前の姿を彷彿とさせる類似作品と並べられることで、欠損前の姿が感じられる構成だ。
第4章「交響する色彩」では、モネが晩年に取り組んだ、睡蓮の池に架かる日本風の太鼓橋や、バラの咲き誇るジヴェルニーの庭を題材とした作品を展示。白内障を患いながらも制作に励んだこれらの作品は、モネの創作への強い衝動が画面に溢れ、激しい筆致と鮮やかな色彩が目を引く。これらには晩年の実験的な表現が色濃く反映されており、彼の芸術的探求が最晩年まで続いたことが伝わってくる。
エピローグ「さかさまの世界」で紹介されている、しだれ柳を描いた2点の「睡蓮」作品は、第一次世界大戦中に描かれ、垂れ下がるしだれ柳が涙を流すように見えることから、悲しみの象徴とも解釈されている。戦争という重い時代背景のなかで創作を続けたモネの心情が感じ取れるだけでなく、華やかな作品にも表出する“戦争”が美術界に与えた影響力の大きさを考えさせられる。
モネの「睡蓮」という世界的に著名な作品シリーズを題材とした本展、連日多くの方で賑わうことが予想されるため、会期早めに足を運ばれることを強くおすすめする。
文=鈴木隆一
写真=新井まる
【展示会概要】 モネ 睡蓮のとき
会期|2024年10月5日~2025年2月11日
会場|国立西洋美術館
住所|東京都台東区上野公園7-7
電話番号|050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間|09:30~17:30(金土~21:00)※入館は閉館の30分前まで
休館日|月(ただし、2025年1月13日、2月10日、2月11日は開館)、12月28日〜1月1日、1月14日
料金|一般 2300円 / 大学生 1400円 / 高校生 1000円 / 中学生以下 無料