三菱一号館美術館 休館前最後!「芳幾・芳年─国芳門下の2大ライバル」
“最後の浮世絵師”として知られる、落合芳幾(おちあい よしいく) (1833-1904)と月岡芳年(つきおか よしとし) (1839-1892)を振り返る「芳幾・芳年─国芳門下の2大ライバル」展が、東京・丸の内の三菱一号館美術館にて、2023年4月9日(日)まで開催さている。なお、本展の開催をもって、三菱一号館美術館は、2023年4月10日(月)から2024年秋頃まで修繕工事のため長期休館となる。
江戸後期から幕末にかけて、浮世絵界で隆盛を誇った歌川派。芳幾と芳年の両名は、浮世絵の黄金期を築いた代表浮世絵師で、ダイナミックな武者絵や奇抜な発想の風刺画などで人気を博した歌川国芳(うたがわ くによし)の門下。名が残るだけでも80名を下らない門下の中で、後継者として有力視された兄弟弟子だ。10代で晩年の国芳に入門した二人は、それぞれ国芳の異なる面を受け継ぎ、独自に発展させ、ときに幕末の不穏で残酷な当時の風潮を反映した“血みどろ絵”《英名二十八衆句》を競作するなど、幕末期の良きライバルとして人気を二分した。
江戸時代の浮世絵は、版元を中心に、絵師、彫師、摺師の緊密な協働によって展開される一大メディアであったが、近代になると写真や石版画などの新技術、新聞や雑誌といったメディアの導入により、産業としての基盤が揺るがされ、衰退の一途をたどることに。 時代の過渡期にあって、新しい技術が古いものを凌駕していく様は、瞬く間に浮き沈みをする今日のメディアとも重なる。本展では、激動の時代にいた彼らが、それぞれの道でいかに浮世絵の生き残りを図ったのかをうかがい知ることができる。
武者絵は二人の師である国芳が得意ジャンルだが、彼らの一連の武者絵を見ることで、両者が師から譲り受けたものをどう展開したかが見えてくる。芳幾は師の《太平記英勇伝》を同じタイトルで、武将の背景をテキストで埋めるスタイルもそのままに継承し完成させ、芳年の《芳年武者无類(ぶるい)》は武者たちの決定的なシーンを抜き出し、写生に基づく人体表現で緊張感あふれる瞬間を描いた。
兄弟子の芳幾は、《太平記英勇伝》の100図を完成させた頃が浮世絵制作のピークで、その後は影による肖像画など、実験的な作品も生み出している。《真写月花の姿絵》は、当代の人気役者36名を影法師の肖像として描いたシリーズ。その付属の口上には、当時戯れに障子に写る人の影を直接引き写すことが流行していたことが記され、メイキング図像が収められている。影絵という奇抜さに加え、役者の舞台姿ではなく日常的な一コマをリアルに切り取っている。
一方の芳年は、《芳年武者无類》33図で武者たちの決定的なシーンを抜き出し、写生に基づく人体表現で緊張感あふれる瞬間を描く。この一連の作品は、芳年武者絵の金字塔。ドラマの一場面を静と動、巧みに操り、まるでカメラ撮影のようにアングル、ズームを変幻自在に変えて捉えることができるのは芳年ならではである。この作品を発表しているまさにその頃、浮世絵の番付で、芳年は見事に錦絵の部門で1位の名声を獲得。それまで薄氷の差で負けていたライバルである幾年を追い越すことになる。その後も芳年は、上野戦争に取材して制作した《魁題百撰相》などで、血みどろ絵の路線を開拓していった。
1869年、芳幾36歳、芳年30歳で明治維新を迎え、明治期に入ると、芳幾は発起人としてかかわった毎日新聞の前身で、東京初の日刊新聞である「東京日々新聞」の新聞錦絵を手がける。これにより、芳幾は新聞の大衆化に寄与することになる。一方、明治初めの芳年は、雌伏ともスランプとも言われる充電期間を過ごすが、そこから国芳譲りの武者絵で歴史画の分野での浮世絵を展開。そのダイナミックな作風は、現代のアニメーションを彷彿とさせる。没年まで7年以上の歳月をかけて完成させた100枚セットの《月百姿》は、版元システムが衰退していく中で、芳年が見せた最後の輝きであった。
浮世絵衰退の時代にあらがうべく、彼らがどのように闘い、折り合いを付けてきたのか。芳年の一点一点熱のこもった圧倒的な作品群に対し、芳幾は新しい時代に花開いたメディアに乗じる鋭敏な時代性が画業を通して見えてくる。本展では、当時しのぎを削った二人の姿、作風の傾向がそのスタート時とどのように変化し、移行していったのかを比較することができる。
本展の構成は、大阪で浅井書店(後の泰山堂)を営んだ浅井勇助氏が明治末期から収集した、幕末明治の浮世絵を網羅する「浅井コレクション」が、本展出品作の大きな部分を占める。加えて、これまであまり紹介されることのなかった、芳幾・芳年の肉筆画が多く出品され、 二人の画技を直接に比較することのできる得難い機会となる。数十年ぶりに展覧会に出品される作品や、芳幾最晩年の貴重な作品なども個⼈コレクションを中心に振り返る。
歌川派の手法を受け継ぎ華やかな美人などを描いた芳幾と、グラデーションによる空気の表現の中に歴史的人物を描き出した芳年、それぞれの画技の直接の比較しながら、両者の画技の豊かさを、ぜひ感じ取っていただきたい。
文=鈴木隆一
写真=新井まる
【展覧会情報】
「芳幾・芳年─国芳門下の2大ライバル」
会期|2023年2月25日(土)~4月9日(日) 会期中に展示替えあり
(北九州)2023年7月8日(土)〜8月27日(日) (予定)
会場|三菱一号館美術館
住所|東京都千代田区丸の内2-6-2
開館時間|10:00~18:00(金曜日、会期最終週平日、および第2水曜日は21:00まで)
※入館はいずれも閉館30分前まで
休館日|3月6日(月)・13日(月)・20日(月)
入館料|一般 1,900円、高校・大学生 1,000円、小・中学生 無料
※障がい者手帳の所持者は半額、付添者は1名まで無料
【問い合わせ先】
TEL:050-5541-8600 (ハローダイヤル)
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