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ダムタイプの新作を体験する、ヴェネチア・ビエンナーレ帰国展《2022: remap》

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2023年3月8日

ダムタイプの新作を体験する、ヴェネチア・ビエンナーレ帰国展《2022: remap》


ダムタイプの新作を体験する、ヴェネチア・ビエンナーレ帰国展《2022: remap》5/14(日)まで開催中

 

2022年4月〜11月に開催された「第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展」の日本館展示されたダムタイプの新作《2022》を、《2022: remap》として、サイト・スペシフィックに再配置した展覧会が、東京・京橋のアーティゾン美術館で開催中だ。

ダムタイプは日本のアート・コレクティブの先駆け的な存在で、1984年の結成時から一貫して、身体とテクノロジーの関係を独自の方法で舞台作品やインスタレーションに織り込んできた。本展は、アーティゾン美術館の展示室の中に、日本館を90%の比率に縮小し、ヴェネチアと同じ方位に合わせて配置してインスタレーションを再現、さらに新たな要素も加えて展開している。

 

アーティゾン美術館を運営する公益財団法人石橋財団は、財団創設者である石橋正二郎が、1956年に個人として日本館の建設寄贈を行った経緯から近年、ヴェネチア・ビエンナーレ日本館展示への支援を行っている。2020年のアーティゾン美術館の開館を機に、ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展における日本館展示の成果を国内で紹介するための帰国展を開始。今回は、その2回目の展覧会だ。

 

 

展示室では、中心から東西南北の方角に置かれた4台の高速回転する鏡によって反射されたレーザー光が、四方の壁に投影される。明滅する6,144個のレーザー光線の粒はテキストを生成し、回転する超指向性スピーカー(音の聞こえる方向が極端に絞られたスピーカー)からは、デヴィッド・シルヴィアンやカヒミ・カリィといった人たちによる朗読の繊細な音声が聞こえてくる。それは見えるか見ないか、聴こえるか聴こえないかのはざまで、「地球とは何ですか?」「一番北にある国は何ですか?」「太陽が昇る時、目の前にある海は何ですか?」といった、1850年代の地理の教科書から抜粋された、シンプルで普遍的な問いを発する。超指向性スピーカーを回転させるというアイデアから、展示室内の立ち位置によって、そこでしか味わえない音響空間が実現されている。

 

ダムタイプの新たなメンバーとして迎えられた坂本龍一は、本作のために1時間のサウンドを制作。スピーカーから流れる音声とは別に、コロナウイルスの感染拡大により国境を超えた移動が制限されていた時期に坂本の呼びかけに応じて世界各地でフィールドレコーディングされた音が、レコードに焼き付けた後に再出力されるかたちで、ターンテーブルを通して空間に広がる。《2022》の要素であった、天窓から差し込む自然光や、足を踏み入れられないハーフミラーの柱は、《2022: remap》ではLEDパネルに変換。 周囲を取り囲む言説群と対比的に、日本館中央に設けられていた空所(空虚で無効「Void」な場所)が、本展では人工光によって照射されている。

 

 

坂本の参加について、ヴェネチア・ビエンナーレ日本館公式図録の中でダムタイプのメンバーである高谷史郎は、

 

ポンピドゥー・センター・メッスの個展の話をいただいた時、過去の作品を振り返り、現在のプログラム技術を使った新しい解釈で、新しい作品を作ってみようという話になり、《Playback》や《pH》、《LOVE/SEX/DEATH/MONEY/LIFE》を制作しました。それをさらにブラッシュアップしたものを東京都現代美術館では展示することになりました(ダムタイプ|アクション+リフレクション」、2019-20年)。そのような時にヴェネチア・ビエンナーレの話があったのですが、エンナーレでは「今の延長線上じゃなくて、全く違うものを作りたい」と思ったんです。これまでずっと変化を続けてきたダムタイプが次のフェーズに行けるような作品にしたい。そのためには個人的に長く作品制作をご一緒してきた坂本さんと、ぜひダムタイプで新しい作品を制作したいと思ったんです。

 

と語っている。《2022》の制作過程で坂本は、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』を参照しており、ろうそくのジリジリと焼ける音、和紙の擦れる音、以前高谷らと実際に体験した、茶室の中から聞いた豪雨の音をキーコンセプトとして提示したという。高谷は本展の開催に際し、「コロナ禍で日本からヴェネチアへ行くのが難しい状況だったので、今回の展覧会は日本で作品を見てもらえる良い機会を与えていただいたと思います。自分の聴覚を試すつもりで、感覚を研ぎ澄まして時間を使ってゆっくりと滞在して作品を体験してほしい」と述べている。

 

時間とともに刻々と変化し、空間にただよう多様な信号は、感覚に集中しないと受け取れないほどのものもある。そこから、何を情報として受け取るかは、鑑賞者の感覚や想像力に委ねられている。また自身の体験と同じように、空間をさまよう鑑賞者たちを目撃することになる。

 

 

文=鈴木隆一(参照:「ダムタイプ|2022: remap」ハンドアウト)

写真=新井まる

 

【展覧会情報】

第 59 回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館展示帰国展 ダムタイプ|2022: remap

会期|2023年2月25日〜5月14日

会場|アーティゾン美術館 6階展示室

住所|東京都中央区京橋1-7-2

電話番号|050-5541-8600 (ハローダイヤル) 

開館時間|10:00〜18:00(5月5日をのぞく金は〜20:00)※入館は閉館の30分前まで

休館日|月 

料金|一般 1200円(日時指定予約制、当日チケット[窓口販売]1500円) / 学生 無料(要ウェブ予約)

https://www.artizon.museum/exhibition_sp/dumbtype/

 

*この料金で同時開催の展覧会もご覧いただけます。

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