初来日の作品が多数集結!三菱一号館美術館「印象派・光の系譜ーモネ・ルノワール、ゴッホ、ゴーガン」
三菱一号館美術館では、~2022年1月16日(日)まで「イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜―モネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーガン」が開催されています。
印象派は日本でも人気の高いテーマではありますが、こちらはもう印象派を楽しみ尽くした!という方にも是非注目していただきたい展覧会です。
というのも、なんと展示総数全69点のうち59点が初来日。印象派を中心に、その周辺のバルビゾン派、ポスト印象派、ナビ派までが、一堂に会した贅沢な機会となっています。
会場は「水の風景と反映」「自然と人のいる風景」「都市の情景」「人物と静物」の4つにのテーマに分かれています。
西洋美術の重要な転換期に制作されたこれらの作品群を、歴史を辿りながら鑑賞することができます。
1.「水の風景と反映」
移ろいゆく自然の一瞬一瞬を捉える、その鋭く自由な観察眼によって描かれた水の風景たちは、穏やかな水辺から荒々しさを感じる波までさまざま表情を見せています。
コローやドービニーなど、創作拠点を野外に置き、印象派の礎を築いたバルビゾン派。そしてそれを受け継ぐ形で誕生したモネ、シスレー、セザンヌなどの印象派。彼らの探求した光の表現の活きる「水」を舞台に、辿ることができます。
目を凝らしてみると、水に反射する光には本当に多種多様な色や筆致が巧みに使われているのがよく見て取れるでしょう。
力強いレアリスムによって、風景画や狩猟画を描いたクールベの《海景色》。
激しいタッチで描かれた白波と、混ざり合う青や緑の色彩、グレーで表現された不穏な空模様は、広大な海に対する畏怖を感じさせます。
それはまるでムービーを見ているかのような臨場感。波音もあわせて聞こえてくるようです。
クロード・モネ《睡蓮の池》1907年、油彩/カンヴァス、101.5 x 72.0 cm、イスラエル博物館蔵 Photo © The Israel Museum, Jerusalem
パンフレットにも使用されているモネの《睡蓮の池》。
モネは、睡蓮を題材に2つの「連作」を発表していますが、こちらは後期の連作に含まれるものです。
池の底、水面に映る木々と空、睡蓮の3つのレイヤーそれぞれが独立することなく、キャンバスの中で溶け合っています。水の反映を通してキャンバスの外の世界も想像させる、奥行きの深い構図です。幻想的な世界を構成する淡いパステルカラーに、思わずうっとり。
会場ではこの展覧会に際して、DIC河村記念美術館と和泉市久保惣記念美術の所蔵する2つの睡蓮(こちらも後期の「連作」に含まれるもの)も特別展示されています。
どちらもほぼ同じ構図で描かれていますが、オレンジや緑がかった風合いの違いが時間の経過を匂わせます。そんな自然の移ろいを、3作品を通して見比べてみてください。
2.「自然と人のいる風景」
カミーユ・ピサロ《豊作》
19世紀後半から20世紀初頭に一気に加速した都市化の波とは裏腹に、のんびりとした時間の中で、ときにたくましく暮らす人々とその田園風景。それらを画家たちがこぞって取り上げたのは、都市生活の中で本能的に自然の癒しを求めていたからなのではないでしょうか。
ピサロやコローなど印象派・バルビゾン派は、そのやわらかく繊密なタッチと色使いででうららかな光を表現。一方、ファン・ゴッホやゴーガンなどポスト印象派は鮮烈な色彩美で、生命の鼓動を感じさせる作品を残しました。
ポール・ゴーガン《ウパ ウパ(炎の踊り)》1891年、油彩/カンヴァス、72.6 x 92.3 cm、イスラエル博物館蔵 Photo © The Israel Museum, Jerusalem by Avshalom Avital
火を中心に浮かび上がる、踊ったり肩を寄せ合って談笑したりする先住民の姿。ゴーガンの《ウパ ウパ(炎の踊り)》は、フランス占領下のタヒチで失われつつあった先住民の集いを捉えたものです。そのリスペクトの精神は、タイトルに先住民の言葉で「ウパ ウパ」と名付けたことからも伺えるでしょう。夜を題材にしながらも、エネルギッシュな力強さを放っています。
フィンセント・ファン・ゴッホ《麦畑とポピー》
ファン・ゴッホの《麦畑とポピー》は、絵の具を幾重にも重ねることによって現れた、彼特有の厚みのある質感が見て取れます。角度を変えて鑑賞すると、まるでそこに葉や花が地面に落ちてできたような立体感が浮かび上がります。キャンバスの中央には、太陽の恵みを受けて成長した麦がグンと突っ切っており、ポピーの強烈な赤色が、夏の太陽の下にいると錯覚してしまうほどの眩しさを放っています。
3.「都市の情景」
フィンセント・ファン・ゴッホ《アニエールのヴォワイエ=ダルジャンソン公園の入り口》
ここでは2章と打って変わった都市の景色が広がります。街で取り上げられるのは、都市化の象徴である中産階級の人々。無機質な街並みのなかで、おしゃべりしたり、歩いたりと、人々が暮らし住まう心温まる姿が光ります。
レッサー・ユリィ《夜のポツダム広場》1920年代半ば、油彩/カンヴァス、79.6 x 100.0 cm、イスラエル博物館蔵 Photo © The Israel Museum, Jerusalem by Avshalom Avital
霧につつまれた街並みのぼんやりとしたシルエットと、濡れた地面に街頭のあかりが反射して艶めかしい雰囲気を纏う、レッサー・ユリィの《夜のポツダム広場》。同じ夜の時間帯でも、ゴーガンの「ウパウパ」とはまた違った活気が溢れています。人々が行き交い談笑する、都会ならではの喧騒が聞こえてくるかのようです。
4.「人物と静物」
ピエール・ボナール《食堂》
さらに画家たちは、都市生活という主題をよりミクロな視点で捉えるべく、人物や静物といったありふれた情景を描いていきます。
ポスト印象派のゴーガンやセザンヌの作風は、ナビ派に継承され、セリュジエやボナールは平坦で装飾的な画面構成で日常を捉えました。
ピエール・オーギュスト・ルノワール《レストランゲの肖像》
フェザーのような柔らかい筆致につつまれて浮かび上がる、笑みを浮かべた男性。ルノワールの《レストランゲの肖像》は、彼の交流のあったお役人さんを描いたもの。顔部分とその他の筆跡は明確に区別されて描かれており、よりモデルの表情が強調されます。
ちなみに、この柔らかな作風からはあまり想像がつきませんが、レストランゲさんはオカルト好きの面もあったのだそうです。
レッサー・ユリィ《赤い絨毯》
レッサー・ユリィの《赤い絨毯》。たびたび縫い物をする女性の姿を描いていたというユリィ。新天地で開いた小さなリネン屋で、女手一人で息子たちを育て上げたという彼の母の姿に、モデルを重ねていたからかもしれません。
大胆に背中部分を捉えた黒いドレスを纏う女性と、彼女のシルエットをより存在感あるものにする、床まで続く白の布生地、さらに部屋に差し込む光に照らされる鮮紅のカーペット、これらの色彩のコントラストがなんとも美しく、何気ないシーンをドラマチックに仕立てています。
新たな光の表現を求めるべく、従来の価値観を打破していったこれらの画家たち。
特に、めったにお目にかかれない、ユダヤ系ドイツ人レッサー・ユリィの作品は見逃せません!
初来日の作品たちを通して、きっと、あなたの知らない画家の一面をのぞくことができるでしょう。
文=荒幡温子
写真=新井まる
【展覧会情報】
イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜―モネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーガン
会 期 : 2021年10月15日(金)〜2022年1月16日(日)
会 場 : 三菱一号館美術館
〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-6-2
休館日 :月曜日と年末年始の12月31日、2022年1月1日
※ただし11/29・12/27・1/3・1/10は開館
開館時間 :10:00〜18:00(祝日を除く金曜と会期最終週平日、第2水曜日は21:00まで)
※入館は閉館の30分前まで
観覧料:
一般 1,900円
高校・大学生 1,000円
小・中学生 無料
マジックアワーチケット:毎月第2水曜日17:00以降に限り適用 : 1,200円
公式サイト :https://mimt.jp/israel/