世界初来日!お宝作品だらけのロンドン・ナショナル・ギャラリー展を楽しもう
ロンドン・ナショナル・ギャラリーのコレクションは、全約2300点―――ルネサンスから19世紀のポスト印象派まで、幅広くカバーし、ヨーロッパの美術史の流れを体感できるその内容は、まさに「教科書」にも例えられています。
なんと、約200年間で世界初!ヨーロッパ絵画を網羅する質の高いコレクションから、今回はえりすぐりの61点が来日。その中には、日本でも人気の高いゴッホの代名詞とも言うべきあの名作 《ひまわり》や、巨匠レンブラント、フェルメール、印象派のモネや、イギリスといえばのターナーなどの作品も。
本稿では、出品作と共に、展覧会の見どころ、楽しみ方をご提案しましょう。
①ゴッホの《ひまわり》に会う
今回の展覧会で、特に注目されているのが、ゴッホの《ひまわり》です。
日本人にもっとも好まれる画家ゴッホ、その代名詞的存在として知られる《ひまわり》。
花弁も、花器も、壁も全てがトーンの異なる黄色で描かれた、この「黄色づくしの絵」は、他に類を見ません。
暗い展示室の中でも、輝かしいまでの「黄色」は、見る者に鮮烈な印象を残します。
この独特のオーラは、一体何から来るものなのでしょう?
作品に一歩近づいて見てみましょう。
花の部分に注目してください。けば立った中心部や、炎のようにちぢれ、うねる花弁が、時に荒っぽいタッチで、絵の具を盛り上げることで表現されています。
色合いも、チューブから絞り出した絵の具をそのまま掬い取って塗り付けたかのようで、背景の壁からくっきりと浮き出て見えます。
この背景部分も、一見するとあっさりと薄く塗られているように見えます。が、近くで見ると(この写真では見えにくいですが)、むらや塗り残しがないように丁寧に一刷毛ずつ絵の具が重ねられているのがわかります。
このように、メインのモチーフと背景とで、描き方や塗り方にメリハリがつけられているのは、この絵の持つパワーの源の一つと言えるでしょう。
そして、もう一つのパワーの源、それはこの絵に込められたゴッホ自身の情念です。
1888年、アルルに移り住んだゴッホはある夢を抱いていました。
「この地に画家たちの共同体を作りたい」
そんな彼の呼びかけに、ゴーガンが応じます。
喜んだゴッホは、彼を迎えるため、部屋をヒマワリの絵で装飾するプロジェクトを思いつき、1888年8月、早速描き始めます。
当初は12枚描く予定でしたが、ヒマワリの時期が過ぎてしまったため、実際に描きあげられたのは4枚のみでした。
このロンドン版の《ひまわり》は4枚目に描かれたものです。
「夢」や「目標」を持つことは、その人に前へと進む力を持たせてくれます。
ヒマワリの花と向き合い、描いている時、ゴッホは「夢の実現」が近づいていることを信じていました。
尊敬するゴーガンに、画家として自分の最高の作品を見せたい、という思いもあったでしょう。
《ひまわり》は、「夢」へと進むゴッホの前向きな思いが、一刷毛一刷毛に、そして「黄色」という色彩に込められ、積み重ねられてできたもの、と言えるのではないでしょうか。
そして、絵に込められた情念(エネルギー)は、描かれてから百年以上経った今もなお生き続けているのです。
②「かわいい」を探してみよう
美術作品を見て、「きれい」あるいは「面白い」と感じる。
そうしたささやかな「感動」体験は、私たちの心に潤いをもたらし、生活に彩りを添えてくれます。
ですが、「美術」、「アート」と聞いて、「難しそう」と思い、身構えてしまう人も少なくありません。
しかし、そうした緊張をほぐしてくれる魔法のワードがあります。
それが「かわいい」です。
例えば、こちらの作品はいかがでしょうか?
17世紀スペインの画家ムリーリョによる作品です。
窓枠から身を乗り出し、こぼれんばかりの笑顔をのぞかせている少年は、10歳くらいでしょうか。
耳をすませばクスクスと笑い声も聞こえてきそうで、まるでヨーロッパ映画のワンシーンを見ているかのようです。
彼は一体何を見つめているのか、周辺のストーリーについても想像したくなりますね。
ほぼ同じ時代に生きたスペインの画家の作品をもう一枚、ご紹介しましょう。
フランシスコ・デ・スルバラン 《アンティオキアの聖マルガリータ》 1630-34年 油彩・カンヴァス 163×105 cm 🄫The National Gallery, London. Bought, 1903
大きな麦藁帽子に、青と赤のコントラストが鮮やかな衣装。
そして、左腕に引っ掛けた縞模様のバッグ。これは、スペイン・アンダルシア地方の羊飼いのアイテムで、このように細長い帯の両端に大きなポケットがついたサドルバッグになっています。(民族衣装は、かわいいデザインやアイテムが多いですが、この絵も例にもれませんね)
持ち主であるこの女性マルガリータは、現代のトルコのアンティオキア出身とされる、キリスト教の聖人です。
羊の番をしていたところを長官に見初められますが、キリスト教の信仰を理由に断ったため、投獄されます。牢獄では竜に化けた悪魔が現れ、飲みこまれるという災難に遭います。が、彼女は慌てず騒がず、手にした十字架で腹を裂いて脱出に成功。このエピソードから妊婦の守護聖人として崇められています。
彼女の足元にいるのが、その竜で、聖マルガリータを特定する持物(アトリビュート)として、美術では一緒に描かれます。(ペットではありませんので悪しからず)
最初は「かわいい」「面白い」や「おしゃれ」と感じるだけでかまいません。
それは、描かれている内容や作者について、「知る楽しみ」を得て行くきっかけとなってくれるでしょう。
③まだまだある、展覧会の見どころ!
ナショナル・ギャラリーのコレクション、そしてその抜粋版たる今回の展覧会の最大の魅力は、レパートリーの豊富さです。
時代はルネサンスから19世紀まで。地域は、イタリア、17世紀オランダ、スペイン、18世紀から育ち始めたイギリスの美術、そして19世紀フランス。
フェルメールやレンブラントなど、日本でも人気の高い画家の作品もありますし、逆にカルロ・クリヴェッリのように、これまであまり知られていなかった画家の名前に会うこともあるでしょう。
ディエゴ・ベラスケス 《マルタとマリアの家のキリスト》 1618年頃
会場を歩いていて、「あ」、と少しでも心にひっかかる作品があったら、足を止めて、しばし向き合ってみてください。
細部描写を楽しんだり、あるいはテーマについて思いを巡らせたり。
「何を描いているのか」
「描いたのは、どんな人?」
「解説パネルに書いてあるこの単語『厨房画(ボデゴン)』はどんな意味?」
絵を見ているうちに、あるいは横の解説パネルを見て、このような疑問が浮かんでくるかもしれません。
展覧会は日時指定制です。事前に入場券を購入の上お楽しみください。
文:verde
写真:新井まる
【展覧会情報】
ロンドン・ナショナル・ギャラリー展
https://artexhibition.jp/london2020/outline/
会期:2020年6月18日(木)〜10月18日(日)
※会期が変更になりました
※日時指定制をとなります。詳細は展覧会公式サイトでご確認ください。また、国立西洋美術館では入場券の販売はありません。
会場:国立西洋美術館(東京・上野)
〒110-0007 東京都台東区上野公園7-7
休館日:月曜日、9月23日
※ただし、7月13日、7月27日、8月10日、9月21日は開館
お問い合わせ:(03)5777-8600(ハローダイヤル)
♡ゴッホの《ひまわり》とモネの《睡蓮の池》をイメージしたケーキが期間限定で登場!
ロンドン・ナショナル・ギャラリー展× Qu’il fait bon
http://www.quil-fait-bon.com/mtr/2020_london_national_gallery.php